Kyoto

11/26 (火)

知っておきたい和食のマナー。お造り、寿司、天ぷら、焼き物……料理別に解説

和食の料理人が大切にしている「おもてなしの心」。それらが反映された料理や盛り付け、器などを、日本人なら粋に楽しみたいもの。そこで今回は、お造りからそばまで、和食の代表的な6つのメニューの食べ方や食べる順番、マナーをご紹介します。

【お造り】味が淡白な白身から食べ、徐々に脂ののった味の濃いものへ

まずは、お造りの食べる順番について。どこからお箸をつけて良いのか迷ってしまいますが、正しい順番はあるのでしょうか?

「一般的にお造りの盛り付けは、左側に味が淡泊な白身があり、そこから時計回りに徐々に味の濃い刺身が並んでいますが、これは、味の濃いものから食べ始めてしまうと、淡泊なものの味がよくわからなくなってしまうことへの配慮から。お造りは白身から食べ始め、時計回りに徐々に脂ののっているものを食べるようにしましょう」(西出さん、以下同)

わさびや薬味も、美味しいいただき方があるのだそう。

「わさびはその風味を生かすために醤油には溶かさず切り身の上に適量を乗せ、そこに醤油をつけて食べます。一方、穂じそなどの薬味は、醤油に落とします。ただし、切り身の素材の味を生かすため、醤油は少量つけるのがスマートです」

また、美しい食べ方にもコツがあります。お刺身はひと口でいただくのが基本とのこと。

「醤油の垂れが気になる人は、醤油の入った小皿を持って食べても構いません。お刺身は、基本的にひと口で食べます。白身やトロなど長さのあるお刺身は、二つ折りにすると、ひと口で食べやすいですよ」

また、西出さんは料理人の方への配慮もマナーの一つだといいます。

「盛り付けは料理人の方々、それぞれのお考えがあります。左から白身、赤身、白身、赤身と交互に盛る方もいらっしゃいます。その料理人の方の考え方やお気持ちに寄り添い、素材や料理人の方に感謝し有り難くいただく気持ちが何より大切です」

【お寿司】お刺身、にぎり、巻物、玉子、汁物の順番でいただきましょう

お寿司も、ぜひ作り手の思いに沿った食べ方をしたいものです。寿司屋のカウンターに座った際は、注文の順番にも気を付けてみましょう。

「まずはネタを味わうために、お刺身(ツマミ)をいただきましょう。次にしゃり付きのにぎりでそのネタの味としゃりを楽しみ、その後、巻物、さらにお店の自慢の出汁で作った玉子を味わいます。最後に汁物でしめれば完璧です 」

食べ方の順番としては、お造り同様、白身や貝類など淡白なものから食べ始め、まぐろなどの赤身、トロやうなぎなど、味の濃いものへと移りましょう。またお寿司は手で食べるか、お箸を使うかどうかでも迷うところですが、どのようにすればよいのでしょう。

「もともとお寿司は手で食べるものでした。手で食べる方がお箸より安定するので、こぼしにくいというメリットもあります。手で食べるときは、親指と中指でしゃりの両脇を持ち、人差し指をネタの上から軽く添え、ネタの先端に少しだけ醤油をつけて食べます。
一方、お箸で食べる場合は、お箸で少し斜めに持ち、ネタの先端に醤油をつけて食べます。醤油が垂れないように、もう一方の手に御手塩(おてしょ/おてしお:醤油などを入れる小皿のこと)か懐紙を持ち、ひと口で食べるのがポイントです。もしも、ひと口で食べることが難しいときは、ひと口食べたお寿司をお皿に戻さずに食べきりましょう。軍艦巻きは、下の海苔の部分に少しだけお醤油をつけてひと口で食べます。お箸でガリに醤油をつけ、軍艦のネタに醤油を塗る方法もありますが、これも間違いではありません。マナーとしては、その場にいる人たちの食べ方に合わせるのが大切です」

【焼き物】食べる順や飾り葉などに気を付ければ、美しく食べられる!

焼き物は骨が気になり、食べ方が難しいと感じてしまいがちです。食べ終わりまでの美しい所作を聞きました。

「焼き物に矢生姜(はじかみ)や飾り葉がついているときは、それらをお皿の奥に置き、左側からひと口大に切って食べるのが基本です。尾頭付きの魚の場合は、まず尾ひれ以外のひれを箸で取り除き、左から右へと上身を食べます。続いて、身を中骨から外し、頭から中骨・尾ひれを持ち上げてお皿の奥に置いてから、下身を左から右へと食べます 。魚は裏返しにはしません」

少し難しさも感じる所作ですが、うまくいかなかった場合はどうすれば良いのでしょう。

「身に骨が残ってしまった場合、それらの骨を取ってお皿の奥にまとめます。この時懐紙を上から被せると見映えが良いです。また、骨を口に入れてしまっても慌てずに。刺さると危険ですので口の中を傷つけないように気を付けて骨を出します。その際は懐紙や手で口元を隠し、お箸でつまんで出します。難しい場合は人から見えないように、斜め下向きに顔を伏せて懐紙に出しましょう。懐紙を持っていない場合は手で口元を隠し、空いた方の手を使って出すしかありません。こういう場では、見た目よりも口腔内を傷つけないように安全を優先させてくださいね」

そしていよいよ食べ終わりです。お皿の上にもぜひ気を配ってみてください。

「ひれや骨、皮などは、お皿の右奥や左奥にまとめて置きましょう。骨は折れるなら小さく折っても構いません。その上に懐紙や飾り葉を乗せて隠しましょう。ちなみにはじかみは、魚を食べ終わった後、口直しに最後にいただきます」

【椀物】じっくり鑑賞してから、出汁からいただく

『懐石料理のメインディッシュ』『懐石料理の華』などと呼ばれている椀物。料理人の腕前がこの一品でわかるといわれ、自信をもって選んだ旬の食材や器が使用されています。だからこそ味わい以外の楽しみも満喫することがマナーに繋がるようです。

「椀物の一つひとつを、視覚、嗅覚、味覚で存分に味わいましょう。食べる前に具材を鑑賞し、汁の香りを楽しむため、出汁から飲みます。そして、汁と具材を交互にバランスよく食べていきましょう」

次に、手順に迷いがちなお椀の蓋の扱い方を説明します。

「お椀の蓋は、利き手と反対の手で器を横から抑え、利き手で蓋の糸底(いとぞこ:蓋の天辺の出っ張った部分)を横から持ち、少しひねるような感じで蓋をずらします。そして、蓋の裏を自分側に向け、お椀の中にしずくを落としましょう。次に自分に向かって椀の上を通り、利き手と反対の手を添え、両手で持ちます。そのまま糸底を下にして、折敷(おしき:縁つきの盆)の右外側に置きます。傷をつけるという理由から、折敷の中には置かないとされているので注意しましょう。ただし、折敷の外に置くスペースがない場合は、折敷の中に置くことになります。糸底に傷をつける可能性があるという理由から、糸底は上にして置くという説もありますが、現代は糸底を下にするのが主流です。食べ終わったら、蓋を両手で持って、元の形と同様に蓋をします。このとき蓋の裏を上にして置かないように注意しましょう」

いつも疑問に感じていた、お椀の蓋の扱い方がわかりました。

【天ぷら】箸でひと口大にしてから、食べる

お皿に並べられた天ぷらを見ると、どこから食べて良いのか迷ってしまいます。このような場合は、盛り付けられた上から、または、手前から奥へなど、その盛り付け方に応じて、順に食べていけば大丈夫。また天ぷらは箸でひと口大に切り、好みで天つゆや塩をつけて食べることが基本とのことです。

「箸で切れない硬いものは噛み切りますが、一度口に付けたものをお皿に戻すことは、歯型を人様に見せることになるため、控える方が美しいですね。その場合は、お皿に戻さずに食べきるか、お皿に戻したいなら歯型を消す『しのび食い』という作法があります。これは、歯型がついている箇所の左右をリスのように小さく噛み切ることで、真っすぐにする食べ方です」

また、天つゆとお塩でいただく際のマナーも知っておきたいもの。

「天つゆで食べるときは、天つゆの器を持ち、お好みでつける量は調整します。とはいえ多くても食材の三分の一くらいまでを目安につゆをつけて食べましょう。食材そのもののお味を味わうことも食のマナーのひとつと言えます。つゆをつけすぎるとカラッと揚がった衣が水分を吸ってしまい、揚げたての風味を失ってしまいます。天つゆの器を持ち上げない場合は、小皿か懐紙を使用し、受け皿とします。手皿は、手のひらに食べ物をこぼしたときに手が汚れてしまいますので、この所作は行わないように気をつけましょう。
一方、お塩を使う場合は、必要な分だけ指でつまんでお皿の左側に置き、天ぷらに適量をつけながら食べてもよいですし、直接ふりかけても構いません。後者のほうが一カ所につけすぎず、均等にカラッとしたまま食べることができおすすめです」

マナーを意識することは、料理を美味しくいただくことにもつながるということがわかります。

【そば】ひと口目は、そばだけを味わう

最後は、日常的にいただく機会が多いそば。そばにも、作り手に配慮した食べ方がありました。

「そばの正式な食べ方は、作り手への配慮から何もつけずにそばそのものの味を味わうことから始まります。ふた口目は、そばちょこにつゆを四分の一程度入れ、つゆにそばを三分の一程度つけて食べます。その後、味の薄い薬味から一品ずつそばちょこに入れ、その味を確認しながら、それぞれの味を楽しみます。わさびはつゆに溶かさずに、箸に少量つけてそばと一緒に食べると、つゆが汚れません。そばの味や香りをしっかり楽しむためにも、つけ過ぎには注意してくださいね」

またそばのすすり方にも気を配りたい点があります。

「基本的に、そばは途中で噛み切らず、一気に食べます。一口ですすれる量は、女性ならそば6本程度です。途中でつゆが薄くなったら、好みの濃さにするために注ぎ足しましょう。
そばは、『音を立てて食べるのも美味しさのうち』といいますが、周囲の人が不快になるほどの音を立てないよう、すすりすぎは禁物です。音を立てず静かに食べるのは、すべての料理に共通するマナーです。特に海外の方は、すする食べ方を嫌いますので注意しましょう。最後にそば湯をつゆに入れ、好みの濃度にしていただきましょう。そば湯にはビタミンB1やB2、食物繊維などが含まれるため、栄養たっぷりです」

同席する相手と自分と、器にも優しい思いやりを

「食べるということは命や健康に関わってくることなので、所作やマナーにこだわる以前に、きちんと噛んで、胃や内臓に負担をかけないようにすることが大切です。『マナーは相手の立場に立つこと』とよく言っているのですが、この相手の中には、自分自身も含まれます。自分の状態がよくないと、相手にやさしくできませんし、思いやりも持てません。相手と自分、お互いがハッピーになるためにマナーがあるので、相手を大切に思うようにご自身のこともぜひ大切にしてくださいね」
 
マナーというと所作を思い浮かべますが、相手も自分も、ものまでをも思いやることが本来のマナーだと西出さんはいいます。それは食べるときのマナーも同様で周囲の心地良さにつながります。まずは自分に優しく楽しく美味しい食事を目指したいですね。


取材・文/手塚よしこ
イラスト/篠塚朋子



西出ひろ子さん

お話をお聞きしたのは...

マナーコンサルタント。相手の立場に立つ『真心マナー®』をモットーに活動。NHK大河ドラマや映画、CMなどにおける俳優やアスリート、タレントへのマナー指導及び出演の他、皇室関連のマナー取材も多数。書籍監修および執筆も100冊以上と多く、著者累計は100万部を突破。西出さんが伝えるノウハウは日常の生活や仕事で気軽に取り入れられつつも手応えを感じられるもので、納得度の高い内容が人気。

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