Kyoto

04/25 (木)

一度は閉じた「松井酒造」。復活した酒蔵で行う、創意工夫溢れる酒造りに迫る

創業享保11年(1726年)。300年近い歴史がありながら、都市化の波の中で一度は酒蔵を閉じた過去がある「松井酒造」。14年前に酒蔵を復活させ、個性的な日本酒を続々と造り出しています。さらには、これまでの酒蔵にはなかった様々な新しい取り組みも。「agataJapan」を運営する株式会社スターマーク・代表の林正勝が、15代目ご当主の松井治右衛門さんにお店の歴史とこれからのことについてお話を伺いました。

創業1726年。一度は途絶えた酒蔵を復活させた松井酒造

林:本日は松井酒造15代目御当主の松井治右衛門さんにお話を伺います。よろしくお願いします。早速ですが、松井酒造さんのご紹介をお願いできますでしょうか。

松井さん:松井酒造は出町柳に蔵を構えております。近くには鴨川が流れていて、京都大学や京都御所がある、街に比較的近くて自然も豊かな場所です。実は13年前に復活したばかりの酒蔵なので、京都にお住まいでも知らない人もいらっしゃると思います。小さいながらも個性的なお酒を造りたいと頑張っております。

林:ありがとうございます。松井さん自身の自己紹介もお願いします。

松井さん:松井酒造は享保11年(1726年)の創業で、代が変わると「松井治右衛門」という初代からの名前を継ぐことになっています。4年前に代が変わって私で15代目になりました。私は東京の大学に行っていたのですが、将来を悩んでいたときに、父が休業していた松井酒造を復活させようと動いてくれたんです。大学院にいた頃に「松井酒造を復活させるから帰ってこい」と電話がかかってきて、14年前に松井酒造を復活させました。

林:大学院をご卒業されてからしばらくはどうされていたのでしょうか?

松井さん:酒蔵に生まれたものの、日本酒のことが全くわかっていなかったので、まずは日本酒を勉強しようということで、伏見の酒蔵さんで修行させていただきました。

林:伏見の酒蔵さんにいたときは、お酒づくりにも関わられていたのですか?

松井さん:そうです。私はお酒をつくれる人間になるために修行させていただいていたので、蔵で仕込みをしていました。

林:老舗の皆さんからは、継ぐかどうか迷われたといったようなお話をお伺いすることも多いのですが、松井さんはいかがでしょうか?

松井さん:酒蔵の御子弟は農業大学に行ったり、経営の勉強したりする方が多いのですが、私は法学部で法律を学んでいました。酒税法を勉強していたわけでもなかったので、当時の学問が今、役に立っているかどうかはよくわかりません。ただ、常識がないところが私の強みだと思っています。

林:「酒蔵って普通はこうだよね」という常識にとらわれずに物事を考えられるということですね。

「伝統」という言葉に逃げず、常に革新的であれ

林:松井酒造が現在に至るまでのお話を伺えますか。

松井さん:伝統というのは、革新的であり続けた結果、醸成されるものです。よく京都の伝統産業について学生さんに話す機会をいただくのですが、私はあまり「伝統」という言葉を使わないようにしています。というのも、「伝統」とはすごく便利な言葉で、マジックワードのように使ってしまうことがあるんですね。「何でこうやるのだろう」と疑問に思う作業があったとして、それを人に説明するときに、「これがうちの伝統です」というと、そこでもう終わってしまう。茶道や華道のように所作が伝統に繋がる世界とは違って、我々のようなもの作りの会社はいいものを作るのが最大で唯一の使命なので、「何のためにこの作業をしているのか」を突き詰めていかないといけないのです。ですから、「伝統」という言葉に甘えないようにしたいと思っています。

林:江戸の和菓子屋さんも、伝統という言葉を使うとそれで納得させてしまうので、そこに逃げずに丁寧に説明していきたいとおっしゃっていました。実際に松井酒造さんの蔵に伺うと、どういうふうに造っているか事細かにご説明いただけますし、いろいろな新しい取り組みもされていますよね。

松井さん:今までは日本酒の醸造の免許だけだったのが、スピリッツの免許を出していただいたので、蔵を改装してジンとラムを造る予定になっています。

林:すごいですね。今はクラフトジンが非常にブームになっているので、非常に楽しみです。醸造方式にもかなりこだわっていらっしゃいますよね。

松井さん:そうですね。うちのタンクはそれほど大きいものではないので、一年中お酒づくりをしないと十分な量を供給できないんです。ですので、温度管理と衛生管理をしっかりしながら、1年かけてお酒をつくっています。このような方法を四季醸造というんです。

林:通年でつくっているからこそのメリットはあるんですか?

松井さん:通常の日本酒は、冬場に仕込んで、春先に絞って、ひと夏超えて秋に出荷するのがサイクルです。もちろんそういった種類のお酒も造っているのですが、1年間お酒造りをするということは、1年中フレッシュなお酒を提供できるということです。 

林:今日はお酒をお持ちいただいておりますが、ご紹介いただいてもよろしいでしょうか。

松井さん:季節のお酒がございまして、つい先日、夏のお酒が搾りましたのでお持ちしました。夏季限定の神蔵「南風HAE」です。

林:夏酒が夏にできるというのは実はすごいことなんですよね。通常の蔵ですと、冬に仕込んだものを夏に出してくるのが夏酒で、もちろんそれはそれの良さがあるのですが、松井酒造さんは「夏につくる夏酒」なんです。

松井さん:夏酒は岡山県産の酒造好適米「雄町」というお米を使っております。新酒ならではの華やかさと、若さゆえの渋みがありますね。時間が経つとまろやかになっていくのですが、新酒のフレッシュな味わいをお楽しみいただけると思います。

林:夏酒のボトルは爽やかなブルーですが、そこから想像する通りの味ですね。食べ物はどんなものを合わせるといいでしょうか?

松井さん:夏のお酒ですので、夏野菜によく合うと思います。トマトやキュウリ、ナスの田楽などもいいかもしれませんね。

ARでラベルを読み取るとお酒づくりの動画が見られる

林:ラベルについてもご紹介いただけますか。

松井さん:春夏秋冬4種類の季節のお酒をご用意していて、春夏秋に関しては風の名前がついています。春は東からの風で「東風KOCHI」。夏は南からの風で「南風HAE」。秋は西からの風で「西風NALAI」。春夏秋のラベルは、画家の中島潔さんの絵を使わせていただいております。長年、NHKのみんなのうたで子どもたちの絵を描いていてらっしゃったとても有名な先生です。

林:風鈴を持った女性の絵が夏らしいですね。

松井さん:白いボトルが「神蔵KAGURA」というお酒で、「祝」という京都産の酒造好適米を使った純米大吟醸酒です。

林:こちらの純米大吟醸も大変美味しいのですが、実はラベルでとても面白い取り組みをされているんですよね。

松井さん:はい。ラベルにスマートフォンをかざすと、お酒の仕込みの動画を見ることができ、2週間おきに内容が変わります。今はお米を洗っていますが、もう2週間すると、糀を造っているところが流れ、もう2週間するとお酒を絞るところが流れてくるといった感じです。コロナ禍の頃は蔵見学もできなかったので、お酒造りについてもっと知っていただけるように、こういった取り組みを始めました。

林:松井酒造さんは非常にインタラクティブな取り組みをされていますよね。動画にもすごく力入れていらっしゃる。

松井さん:動画は頑張りたいところです。YouTubeチャンネルも始めていて、いつかライブ配信などもできたらいいなと思っています。

通年、酒づくりに勤しむ松井酒造。1年中フレッシュなお酒を提供できることを強みにしつつ、最近では酒造りの様子を動画でも届けるという試みにもチャレンジしています。そんな酒造が挑む、さらなる革新的な取り組みに、後編で迫っていきましょう。

後編へ続く

※この対談を動画で見たい方はコチラ

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