Kyoto

04/24 (水)

京都でも最古の歴史を持つ「松井酒造」。日本酒づくりを軸に展開する、革新的な取り組み

創業享保11年(1726年)。300年近い歴史がありながら、都市化の波の中で一度は酒蔵を閉じた過去がある「松井酒造」。14年前に酒蔵を復活させ、個性的な日本酒を続々とつくり出しています。さらには、これまでの酒蔵にはなかった様々な新しい取り組みも。「agataJapan」を運営する株式会社スターマーク・代表の林正勝が、15代目ご当主の松井治右衛門さんにお店の歴史とこれからのことについてお話を伺いました。

前回より続き〜

お土産にも最適なオリジナルのアパレルグッズも

林:松井酒造さんはTシャツやパーカーも出していて、すごくデザインにこだわっているんですよね。醸造のプロセスである「並行複発酵」を英語に訳した「マルチパラレルファーメンステーション」と書いてあるTシャツがあって、着ていると外国の方がみんな「これは何?」と聞いてくるんです(笑)。アパレルを始めたのはどんな思いがあってのことなのでしょうか?

松井さん:やはり普段から着られるようなものがあるといいな、と思ったんです。蔵のスタッフもユニフォームのような形で着ています。あまり銘柄が全面的にデザインされているものだとちょっと着にくい場面もあると思うので、お酒づくりにまつわる言葉を織り込んでみました。

林:「並行複発酵」と漢字で書いてあったら厳しいですよね(笑)。

松井さん:そうですね。少し主張が強すぎるかなと(笑)。うちの蔵は海外からのお客様が非常に多くて、コロナ前は毎日のようにお越しいただいていたのですが、「並行複発酵」のTシャツを着ながらご説明すると、麹造りの工程をよくわかっていただけるんです。そしてご案内後に「このTシャツは2,500円で売っています」と言うと、買っていってくださる。

林:大事ですね。

松井さん:海外まで持ち帰るには、お酒は重いし割れると嫌がられますが、Tシャツはそういったお酒の弱点を全てカバーしてくれます。

林:私も海外旅行でワイナリーに行ったときに、持ち帰りづらいワインの代わりにTシャツやグッズとかあるとすごく嬉しいです。とてもおしゃれなアパレルが揃っているので、ぜひ松井酒造さんのホームページをチェックしてみてください。

創意工夫にあふれたボトルは「コミュニケーションツール」

林:「神蔵KAGURA」のボトルには、点字も書かれていますよね。

松井さん:ボトルの首の部分に点字で「酒」と書いてあって、目の見えない方でも、ボトルを触れば日本酒だとわかるようになっています。このボトルを採用するときに勉強したのですが、点字は各言語に紐づいているんですね。英語の点字だと、「アルコール」と書いてすごく長くなるので、断念してシンプルに「酒」という形になりました。

林:ボトル一つとっても、いろんなところに創意工夫がありますよね。点字の情報があったり、ラベルにスマホをかざすと動画が見られたり、ある種のコミュニケーションツールという気がします。

松井さん:そうですね。ボトルを囲んでみんなで話をして盛り上がるのがお酒のいいところですので、その中で一つの役割を果たしてくれたらいいなと思っています。

目指すのは「循環型のものづくり」

林:それでは、この先の松井酒造さんの展開をお聞かせいただければと思います。

松井さん:我々はかつて都市化の波の中でお酒造りを断念した歴史があります。ですので、環境に対する貢献はしっかりやっていこうと思っています。最近は「循環型のものづくり」を重要視しています。例えばお酒づくりの工程で、米ぬかや酒粕といった副産物が出てきますよね。米ぬかはおせんべいや米油、あるいはお酒に変わるため無駄にはなってないのですが、酒粕に関しては、食品として販売しても全てをはけ切ることができていなかったんです。そこで、数年前から始まったのが「小浜よっぱらいサバ」という取り組みです。我々の酒粕は鯖街道を遡って行き、小浜で養殖している鯖の餌になっています。そういったところで有効活用されているんです。

林:京都にお住まいの方は知っている「鯖街道」ですが、初めて聞く方もいらっしゃいますよね。鯖街道とは、昔から小浜で取れた鯖を京都に届けるために使っていた街道で、松井酒造のある出町柳が終着地点なんです。

松井さん:福井県小浜の鯖養殖業者の皆さんが、「小浜から京都に鯖がやってくるので、京都からは逆に酒粕が鯖街道を溯上してくる」というストーリーを作ってアピールしてくださっています。

林:そういうストーリーを考えるのが素晴らしいですね。

松井さん:自分の作ったものに愛着を持っていらっしゃる方は、そこに物語を込めるんです。それは我々のものづくりに対する姿勢とも重なるところがあるので、とても楽しく仕事をさせていただいています。他にも、酒粕を再発酵させて蒸留をしたアルコールを経て、ジンやリキュールに変えていくような取り組みもしていきたいと思っています。

林:蒸留酒だからこそできるプロセスがありますね。そのジンはいつ頃に飲めそうでしょうか?

松井さん:今ようやく作業場の電気工事が終わったところなので、もう少し先になります。いろいろ試行錯誤をすることになりますね。我々は発酵屋さんであって、これから蒸留屋さんの勉強もしないといけないので、気長にお待ちいただけますとありがたいです。

林:焼酎や泡盛の酒造さんは、蒸留プロセスをお持ちなので、ウイスキーやジンをつくったりしていますが、逆にクラフトビールとか、醸造酒の方で何か展開するようなお考えはあるのでしょうか?

松井さん:日本酒が我々の事業の軸だと思っておりますので、醸造酒に関しては日本酒を突き詰めていきたいですね。逆に、リキュールやジンでは思いっきり遊べるんですよ。

林:面白いですね。この先、他にも何かやりたい取り組みがあれば伺えますか?

松井さん:これからは若い世代に対する訴求がとても大切だと思っています。かつて、若者の日本酒離れと言われましたが、その若者が歳をとって、今は年配の方もなかなか日本酒を飲んでくれない時代になってきています。だからこそ正しい飲酒文化を醸成し、日本酒に対する魅力を再認識していただくためにも、アニメーションやゲーム業界の方々と協力して若い層にアピールしていきたいと考えています。

林:それは面白い話が聞けそうですね。京都ならではの取り組みもいろいろとできそうだなと思いました。最後に皆さんに一言お願いできますでしょうか。

松井さん:店舗部分の改装工事で蔵の見学ができない時期が長く続いていましたが、もうすぐ工事が終了して皆様にお越しいただけるようになる予定です。新しいお店では、「こんなことまでやっているの!?」と驚くような新しい取り組みも行いますので、ぜひ楽しみに遊びにいらしてください。新店舗部分は2022年7月2日からスタートします。

林:皆さんぜひ松井酒造さんに足をお運びいただいて、アパレルを買ってもいいですし、お酒も楽しんでほしいと思います。本日は、松井酒造の15代目ご当主の松井治右衛門さんにお話をお伺いしました。

長い歴史を持ちながら、「伝統」という言葉に甘んじず、最高のもの作りを目指して常に「おもしろいこと」を探究している松井酒造。次はどんな手段でお客を楽しませてくれるのか、これからもますます目が離せない酒蔵です。

※この対談を動画で見たい方はコチラ

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