ジメジメとした雨の日の外出は、気持ち的に憂うつになりがちです。しかし、そんな日だからこそ周囲への思いやりを意識して、晴れやかな気持ちで外出しませんか? そこで、スマートな傘の扱い方や雨の日の訪問の仕方などを、マナーコンサルタントの西出ひろ子さんに伺いました。
傘の扱い方3つのポイント【傘をさす、閉じる、持ち歩く】
傘の扱い方は、誰に教わるものでもないため、人となりが現れるといわれています。そこで、誰かの迷惑になっていたりしないよう、基本の傘の扱い方をおさらいしましょう。
周りの人を不快にしない、傘のさし方
「傘を開く際は、人がいない方向に傘を向けて、傘先は斜め下にします。そしてなるべく一気に開かず、ゆっくり開くように心がけましょう。片手で開閉できるワンタッチ傘の場合は、周囲にいる人や物をしっかりと確認して開けば、迷惑になることはないでしょう」(西出さん/以下同)。
傘をさして歩いているときにも周囲の人に対する心配りが必要です。
「傘を肩にかけるようにして斜めにさして歩いていると、後ろの人の視界を阻んでしまうだけでなく、露先(傘骨の先端)から垂れた水滴で自分の服を濡らしてしまいます。傘は体の中心で真っすぐに持ちましょう。また、人とすれ違うときは、相手と反対側に傘を傾けましょう。傘同士がぶつかったり、露先から垂れる水滴が相手にかかることを避けられます」。
傘を閉じるときに気を付けること
傘を閉じるときも、周りの人に水滴がかからないように配慮することが大切だそう。
「濡れた傘を閉じるときは、周囲に人がいないことを確認して、さした状態のまま少しすぼめ、人のいない方に向けて下に向け、なるべくゆっくり閉じます。それから石突き(傘の先端)を下にして、上下に軽く振り、水滴を落としましょう。このとき、前後左右に傘を振ったり、傘をバサバサと開閉するなどの動作で、水滴を周囲に飛ばさないように気をつけましょう」。
濡れた傘を手に持って歩くときに気を付けること
また、濡れている傘を手に持って歩くときにも、すれ違う人に当たらないようにする心配りを忘れないようにしたいものです。
「濡れた傘が当たることを防ぐために、必ずバンドを留めましょう。たとえ数分などの短時間でも、周囲への気遣いを。また閉じた傘は、真っすぐ下に向けて持ちましょう。傘を前後に揺らして歩く、斜めに持つなどの振る舞いは、周りの人にぶつかってけがをさせたり、水滴で洋服を濡らしたりしてしまいかねません。特に、階段やエスカレーターでは、後ろの人に大変危険なので、斜め持ちは厳禁です。傘を持ち歩いているとき、人とすれ違う際は、さりげなく傘を人と反対側に持ち替えることができたら、とてもスマートです」。
シチュエーション別・濡れた傘の持ち歩き方
電車やバスの中で
「乗る前に水滴をきちんと落とし、バンドでまとめることが大切です。そして、車内では、人に当たらないように、なるべく自分の体に寄せて持ちましょう。長傘でも傘カバーをしていると安心です。インターネットで数百円台から購入できます。折りたたみの傘もカバーをし、カバンやバックの中を濡らさないように、防水となる袋に入れておくとさらに安心ですね」。
お店に入るとき
「店内に入る場合は、床や商品を濡らさないようにすることが鉄則です。床を濡らすと滑りやすくなり大変危険なので、傘袋がある場合は必ずその中に入れ、傘立てがある場合は利用しましょう」。
仕事で他社を訪問するとき
「訪問先の玄関を濡らさないようにするために、傘の水滴を落としてから屋内に入りましょう。傘立てがある場合はそこに置き、屋内では持ち歩かないこと。傘立てが見当たらない場合は、持参している傘カバーに入れて持ちます。傘カバーがない場合は、訪問先の方に『濡れた傘があるのですが、持ち込んでもよろしいのでしょうか』『傘を置かせていただく場所はございますでしょうか』などと伺い指示に従います。会議室や応接室内まで持ち込んでも良い場合は、外で水滴を落としてから傘カバーなどに入れて、くれぐれも訪問先を汚さないようにします。その際お部屋内に傘立てがあれば、そちらに置きます。壁やイスなどに勝手に立てかけることのないように。訪問先の方から、『こちらにどうぞ』と立てかける場所を指定いただいた時は『ありがとうございます』とお礼を伝えてそのようにします。特に指示がなければ、テーブルの足元に傘カバーをした傘を寝かせておくと迷惑をかけないでしょう。なお折りたたみ傘であれば、このような心配がなくて済みますね。カバンやバックの中にしまう際には、完全防水となりうる袋に入れておくことが大切です」。
雨の日の知人宅訪問で気を付けたいこと
雨の日に知人宅を訪問する際も気遣いが大切です。相手宅を濡らさないような準備をして出かけましょう。
「出かける際には、水滴を拭くためのタオルや濡れたものを入れるビニール袋を持参します。まずチャイムを鳴らす前にレインコートを着ている場合は脱ぎ、タオルで服やバッグの水滴を拭きとります。
脱いだレインコートは、ビニール袋などに入れてカバンやバックの中にしまいます。靴下やストッキングが濡れないよう、長靴やレインブーツを履くこともあるでしょう。その場合は、着脱に時間を要すことや濡れた靴で玄関を汚す可能性があるため、訪問直前に濡れていない着脱しやすい靴に履き替えることも一法です。
その場合は、元々履いていた靴をビニール袋などに入れ、セカンドバックに入れて持参することになります。
また、靴下やストッキングが濡れることもあるでしょう。そういうことも想定し、念のため替えの靴下やストッキングを持参しておくと安心です。
履き替える場所としては、かなり靴下が濡れてしまっている場合は、訪問先で玄関から上がる前に『靴下がかなり濡れてしまっているのでこちらで履き替えさせていただいてもよろしいでしょうか』と伺いを立てます。ストッキングであれば、お化粧室をお借りして履き替えることになるでしょう」。
また、雨の日に限らないことですが、マナーはお互い様だといいます。
「雨の日に来客を迎える側は、タオルを用意して、『どうぞ』と言って差し出します。訪問側からは言いにくいことがあります。雨がひどいときは、『宜しければ靴下を乾かしましょうか?』などと声を掛け、伺う側もそうならないように準備をします。お互いにこのような心配りができるのが、美しいコミュニケーションであり、真のマナーといえますね」。
梅雨に入る前に確認しておきたい。雨の日の持ち物と装い
雨に濡れて、不快な状態を引きずらないために、雨の日に持っていると安心なアイテムをご紹介します。
●雨の日に持っていたいアイテム
・タオルやタオル地のハンカチ
・傘用ケース(濡れた傘をしまう用)
・替えの靴下やストッキング
・化粧直しや整髪グッズ
・(書類がある場合)書類を濡らさないためのクリアファイル
・(他社や知人宅に伺う場合)濡れたバッグなどの荷物の下に敷く布・風呂敷かビニール
「雨の日にタオルは必須です。また、普通のハンカチではなく、吸水性のいいタオル地のハンカチを持つなどして、濡れた上着やバッグなどをこまめに拭くと良いですね」。
また、気になるのはレインコートの着用。カジュアルな印象がありますが、ビジネスシーンでの着用は問題ないでしょうか。
「もちろん大丈夫です。最近では、トレンチコート型のものや、ステンカラーコート型の軽量なレインコートも見かけます。他社に訪問するときは、コート同様、玄関先で脱ぎます。その際、レインコートを拭くタオルと、しまうためのビニール袋などを用意しておきましょう」。
では、長靴やレインシューズを履いているときに、お店の座敷に上がる場合はどうすればいいでしょうか。
「気になる人は、替えのビジネスシューズやヒールを持参し、お店に入る前に履き替える場所を見つけられて、そこで履き替えることができればスマートですね。そのために、濡れた長靴やレインシューズを入れる用のビニール袋も持参しておくと良いでしょう」。
その他、注意することはありますか。
「お店の場合は、お店の方が荷物を預かってくれたり、お座敷では荷物を置く専用の場所があるため安心ですが、会社や個人宅に伺う時には荷物を置くことで床などを汚さないよう、布などを持参しその上に荷物を置く配慮ができる人には感服します」。
相手や周りの人やものを思いやる心がマナーだと西出さんはいいます。濡れた傘で知らず知らずのうちに周囲に迷惑をかけないように、ちょっとした心遣いと準備で、気持ちよく雨の日を乗り切りたいですね。
取材・文/手塚よしこ
イラスト/篠塚朋子