Tokyo

04/25 (木)

【第2回】仕立て直しができ、羽織や帯などへと再利用も可能。着物は究極のSDGsな衣装

こんにちは。
コロナ前のように海外からのお客様が毎日3〜5組のペースで丁子屋にいらっしゃる日々が戻ってきました。

丁子屋では有難いことに近隣にオークラホテルさん、アンダーズ東京さんなどたくさんのラグジュアリーホテルがあるせいか、割合として南米やヨーロッパからの観光客の方がとても多い気がします。
先日、チリからやって来たという親子とフランスからやって来た家族連れにそれぞれ同じ質問をされ、同じ反応をいただきましたので、あらためて日本における着物=絹=天然素材というものについての想いを巡らせました。

外国人のお客様から教えてもらったジャパニーズシルクへのリスペクト

彼らに限らず、店に入ってきた外国の方々は、必ずと言っていいほど店頭に置いてあるマネキンが着ている着物(男女一体ずつ)を指さして、まずはじめにこう言います。

「What is this kimono made of ?」
(この着物は何でできていますか?)

絹の着物が大多数を締めてはいますが、現代においては、ウール、麻、木綿、ポリエステルなど、様々な素材から作られています。
中でもポリエステルの着物は自宅で洗濯可能ですので、お茶や着付のお稽古の時はもちろん、雨や汗、埃を気にせず気軽に着られる着物ということでお若い方には人気が高いです。
最近のポリエステルの着物は、昔と違って技術が進み、随分と着心地も改善されたように思います。それもあって、私たちプロの視点から見ても、絹よりも利便性の高いポリエステルの着物は現代における着物のひとつのポジションを得たような感覚がいつのまにかしていました。

それでも……外国の方々にお仕立て上がりの浴衣(着付が大変であろうかと思い)などポリエステル素材のものをオススメすると、今回のチリ、フランスの方々以外にも、皆さん揃って「No Thank you」とお断りされてしまうのです(汗)。
理由を尋ねると、やはり「ジャパニーズ シルク プリーズ!」と……。

「シルクの着物は洗えない」のだと説明しても、彼らは「Of course」と譲りません。中には「コットン is OK」の方もいらっしゃいますが、とにかく外国の方からの、化学繊維の着物や浴衣の嫌われっぷりは凄まじいものがあります。
日本の天然素材に対するリスペクトの精神、ドレスにあたる礼装だけではなく、「普段着にシルク!Amazing !」とのこと(笑)。
※丁子屋は普段着の取扱いの多い専門店です。

もちろん海外にもシルクは存在します。
しかし、その昔、明治政府がとった富国強兵策のため日本の輸出の中心となった「ジャパニーズ シルク」の品質に対する彼らのリスペクトは、時が流れても変わることはないのだと実感しました。

余談ですが、
日本の桑を食べて育つ蚕自体の大きさも、外国の蚕と比べて異なるそうです。
日本人と同じくそのサイズは小柄で、かつ繊細な糸を吐くそう。小さな身体のため、たくさんの生糸を吐くことができず、その分貴重なのです。

対して、ジャパニーズ シルクに対する私たち日本人の捉え方はどうでしょうか?

その昔、日本人はシルク=「絹」を生み出してくれる蚕を、一頭二頭と数え、昆虫でありながら牛や豚など家畜と同じ数え方をして、自らの命と引き換えに貴重な生糸を私たちに提供してくれる蚕への敬愛の念から「お蚕さん」と「さん」付けで呼び、蚕の吐く糸は農家の貴重な収入源となるので、米作りと同じような感覚で各々の屋根裏などで桑の葉を与えて大切に大切に育ててきました。

しかしながら、現在、リサイクルの着物などが手軽にネット上で買えてしまうことなども影響して、私たち自身が「絹」の価値を下げてしまっているような気がします。

絹の着物という衣装を持つ日本人の中に育まれたSDGsの精神

パターンを切り抜いて作る洋服とは異なり、着物は、12mほどの「反物」からほとんど生地を捨てずに縫い込んで1枚の着物を仕立てます。そのため、袖、衿、身ごろ部分などを切り出して着物として仕立てられたものでも、たとえばシミ汚れがついてしまったり、太ってしまってサイズの変更が必要になったりした時には、再び元の1枚の反物に戻して洗う「洗い張り」や、仕立て直しをすることが可能なのです。仕立て直された着物はハリ感や味わいなどがはじめとはまた違った風合いのものとなり、まるで蚕が再び息を吹き込んでくれたかのようです。

昔の日本人は、「絹」の着物を、着物として着られなくなっても、羽織→帯→布団カバー→鼻緒、そして最後はハタキになるまで無駄なくその使命を全うさせてきました。
SDGsの精神は、絹の着物という衣装を持つ日本人にはもともと備わっていたものだったのです。

ありがたくも海外からのお客様に、私たち日本人が忘れていた「お蚕さん」への敬愛の念を教えていただいた、そんな近況です。

お読みくださりありがとうございました。

小林絵里さん

丁子屋 6代目当主

この記事を書いたのは...

虎ノ門ヒルズビジネスタワー内1階店舗に突如あらわれる寛政十年創業の老舗呉服店「丁子屋」の六代目。2016年、オリックスグループなど全くの異業種から夫の稼業である呉服屋を継ぐことに。着付け師・キモノパーソナルカラーアナリスト。常識や固定概念に囚われない「次世代へ続く着物」を伝える。2020年~芝の老舗の会「百年会」常任理事。
趣味は「誰かを着付けること・コーディネートすること」とソロキャンプ。

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