Tokyo

05/19 (日)

希少な材料に向き合い続ける『江戸鼈甲屋』。職人の技と、大切にしているもう1つのもの

日本の良いものを世界へ、世界の良いものを日本へ、agatajapan。


日本は、百年続く老舗が3万3,000軒以上存在する世界でも稀な国。そのご当主に、老舗を老舗たらしめる“五つの奥義”を伺う連載記事。


希少な天然物の材料に対し、研ぎ澄まされた職人の技術が投じられて生み出される鼈甲(べっこう)細工。1802年(享和2年)創業、七代続く『江戸鼈甲屋』は、200年以上貴重な素材に向き合い続け、技を高め続けています。七代目ご当主はその材料や技に対しどのように向き合い続けているのか。そして、「技」のほかに大切にしている考えは何なのか。


‟老舗を老舗たらしめる”五つの奥義を通して、『江戸鼈甲屋』の「本物」を生み出し続ける原動力に迫ります。

嘘のない仕事で、希少な鼈甲細工と向き合い続ける

「伝統をつづけるために革新がないといけない」


「新しい品物を作ることによって新しい技術が生まれる」

いずれも、『江戸鼈甲屋』七代目ご当主、石川浩太郎さんの言葉です。そんな嘘のない仕事が生み出される場所は、東京都江東区亀戸。大通りに面した『江戸鼈甲屋』の店内にはメガネやかんざし、ネックレスなど、鼈甲細工の商品が数々陳列されています。

そもそも鼈甲細工とは、「タイマイ」と呼ばれるウミガメの甲羅を用いた加工品。東京都の伝統工芸品に指定されています。1802年日本橋・馬喰町で創業された『江戸鼈甲屋』。当時はかんざしや帯留めなどの装身具が主な製品でした。なんと、くし・かんざしが1セット売れたら、それだけで1年間生活できるほど高価なものだったとか。


石川べっ甲製作所の工房は、東京・錦糸町に設立されています。ワシントン条約で一切の輸入輸出が禁止になっているタイマイの甲羅。禁止になる前に仕入れたその貴重な材料を「いかに無駄にしないように使うかが我々の業界のポイント」と石川さんはいいます。

老舗 五つの奥義 その1:貴重な材料だからこそ無駄なく使い切る

貴重な材料を無駄にしたいために重要なのが、どのパーツも適材適所で活かし切ること。例えば、腕時計のベルトを鼈甲細工で作るにあたって、2枚の甲羅を重ねて色を光に透かし、「柄を決める工程」から細心の注意を払う様子が見られました。次の作品製作も考慮しながら、最も無駄のない材料の切り方を熟考しなければならないのです。


「鼈甲の材料は1つひとつ天然の柄を示しています」(石川さん)

それはすなわち、人工物と違い“同じ柄は二度と作れない”ということを意味します。だからこそ、「柄」の流れを合わせたときに、甲羅のアメ色同士が重なって抜けていくように「斑(ふ)合わせ」を行うなど、鼈甲細工ならではの注意点が存在します。


甲羅はあと15年ほどでなくなってしまう可能性がある材料です。小さいパーツはイヤリングやピアスといった大きい生地がいらない製品に用いるなど、バランスを考えながら慎重な計算の上でそれらを使っていく意識を石川さんは大事にし、また未来へつなぐためタイマイ養殖の研究も進めているということです。

老舗 五つの奥義 その2:かける温度や圧力は人の“感覚”で調節する

甲羅に含まれる膠質(にかわしつ)に熱と水、圧力を加えることで一枚の板として厚みを増すことが可能となります。水に10分ほど浸した鼈甲をベニヤ板で挟み、熱すぎず冷たすぎない適切な温度の熱板で圧力をかけるという一連の作業。温度や圧力の調節はすべて、人の感覚で行われているとのことです。

夏と冬でも変わる気温や必要な力の加減を微妙に調整し、常に満足のいく出来を実現しなければらないのが、天然素材ゆえに1つひとつの固さ、柔らかさが異なる鼈甲を相手にする難しさです。


「毎回毎回経験をしながら、覚えていかなければならなりません」(石川さん)

老舗 五つの奥義 その3:職人技を支える道具は、命と同じくらい大事なもの

職人技を支える道具は、命と同じくらい大事なものと石川さんは語ります。マニュアルがない鼈甲細工づくりにおいて、道具が変わり利用時の感覚・クセが変わるということは、まさに致命的な痛手となりうるのです。

鼈甲を削るのは特注の刃物。丁寧に扱いながらメンテナンスも怠らず、最も使い勝手のよい自らの手足のような道具を守ります。

老舗 五つの奥義 その4:変化は必然だからこそ、革新にチャレンジする

1973年生まれの石川さん。学生時代にはアメリカに留学していました。卒業後、入社した商社の仕事でドイツに訪れた際言われた言葉──「今の仕事はお前じゃなくてもできるけど、お前の家の仕事はお前じゃないとできないんじゃないか」──にハッとし、2003年、父である六代目石川英雄さんに弟子入りすることを選んだということです。

七代目曰く、「『伝統と革新』は表裏一体」。江戸時代、人々の衣類であった着物が明治・大正になって洋服に変わったように、時代は変化を必然的にはらみます。それに合わせ、革新をつづけることが、結果として伝統工芸、技術を守ることにつながるとのこと。だからこそ、石川さんは「新しい可能性を常に示すこと」にトライし続けているのです。

老舗 五つの奥義 その5:お客様からの要望に「できない」と言うべからず

『江戸鼈甲屋』の“革新”への挑戦により、生み出された商品は多種多様。

闇を明るく照らす、屋久杉の木枠に鼈甲を取り付けた「ランプシェード」。天然の柄で生み出されたこのランプは、世界で1つだけの商品です。足を鼈甲で製作された「ワイングラス」は取り外し可能で、手入れなどの自由度も高まっています。鼈甲の「メガネフレーム」は、体温によって微妙に変化をつづけ、自分の耳の曲がり角度にあってくるという特性を持ちます。


新しい品物が新しい技術を呼び、伝統工芸の無限の可能性を感じさせてくれるのです。


お客様の要望に対し、“「できない」とはいわない”というポリシーを掲げる『江戸鼈甲屋』。どんな望みにも100%応えることを目指し、ある作業に対し、もしほかに優れた職人がいるのであれば、その力を借りることもいとわない姿勢を持っていると石川さんは話します。

職人・商人の両方を極めることが本物につながる

「職人としての技術、知識はもちろん大事です」(石川さん)


しかし、それだけでなく「商人としてお客様のベストに応えるということも大事」というポリシーが『江戸鼈甲屋』にはあります。


職人・商人、その両方の仕事人としての道を極めていくことが本物につながっていくと石川さんは考えているのです。


「私が一代で仕事をはじめたわけではない」と石川さん。学んだ技術を次の世代に伝えていくという使命感がまっすぐな瞳で示されました。


 

スターマーク株式会社


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「五つの奥義:江戸鼈甲屋編」の動画はコチラから

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