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日本は、百年続く老舗が3万3,000軒以上存在する世界でも稀な国。そのご当主に、老舗を老舗たらしめる“五つの奥義”を伺う連載記事。今回お話を伺った老舗は、文政元年(1818年)創業、金鍔や梅ぼ志飴で有名な和菓子屋『榮太樓總本鋪』です。
「銀座には高級品があり、日本橋には一流品がある」
日本橋の歴史と共に歩んできた榮太樓總本鋪の「一流の技」とは一体どんなものなのでしょうか。
日本橋本店に足を踏み入れたらまず注目したい、入り口に敷かれた御影石
「当店は1818年、文政元年に創業しました。初代榮太樓がこの地に店を構えたのが安政4年(1857年)になります」
そう語るのは、榮太樓總本鋪八代目ご当主の細田眞さんです。
店の入り口には、1箇所だけ他のタイルとは違う御影石が敷かれた場所があります。実はこれ、初代榮太樓が店を構えたときに敷かれた石で、以来170年もの間、店に入ってくるお客様に踏まれ続けているものなのです。
江戸の長屋の街並みをイメージした店内には、和菓子職人が製造実演するオープンキッチンが設けられ、併設の和菓子カフェ「Nihonbashi E-chaya」では気軽に甘味を楽しむことができます。
老舗 五つの奥義その1:小豆の渋抜きは2回
目移りするほど様々な商品が並ぶなか、取り立てて名物と言えるのが「名代金鍔」です。
名代金鍔に使うえりも小豆は、色が濃く味が濃厚なのが特徴。小豆はアクが強いので、2回渋抜きをすることでおいしさとスッキリ感を出しています。
煮た豆は、蜜に漬けて一晩寝かせます。そうすることによって、中に砂糖が浸透し、滑らかな食感になるのだとか。
次の日、密に漬けた小豆を練り上げます。しかしそれで終わりではなく、練り上げた餡をさらにもう一晩寝かせるそう。つまり、3日間かけて小豆を仕込んでいるのです。
老舗 五つの奥義その2:金鍔の皮は透けるほど薄く
餡を包む皮はわずか2グラム。タネをなるべく小さく薄くするのが腕の見せ所です。薄く包むこと自体は少し練習すればできるようになるのですが、手際よく包むのが難しいところだと細田さんは言います。
「ヘラを入れる回数を減らした方が餡をいじめないのです。餡の味そのものを生かすためにも、なるべくヘラを入れる回数を少なくして包み上げるのが大事です」(細田さん)
「選・和菓子職」の称号を持つ職人が、粒あんを潰さないように少ない手数で包んでいきます。専用の道具で丸く成形しながら、ごま油を引いた銅板で丁寧に転がし香ばしく焼き上げます。
金鍔といえば四角い形をイメージする人も多いかもしれませんが、元々は刀のつばの形を模した丸い形でした。薄い皮で包み、餡そのものの味を楽しむのが本来の金鍔なのです。
老舗 五つの奥義その3:直火焚きで一気に仕上げる梅ぼ志飴
透き通るような色合いと小粒の三角形が可愛らしい「梅ぼ志飴」。こちらも榮太樓總本鋪に代々受け継がれている定番商品です。
「飴の美味しさは他のものとは違いますね。いつの間にか食べてしまうし、いくつでも食べたくなります」
店を訪れていたお客様はそう話してくださいました。
梅ぼ志飴はまたの名を「有平糖」と言います。有平糖はポルトガルから伝来した、砂糖に水飴を加えて煮詰めたお菓子です。
作り方は至ってシンプル。オープン釜に材料を入れ、直火で一気に煮詰めていきます。170度〜180度くらいの高温で煮詰めることによって、お砂糖が焦げたような味わいが出てきます。これがカラメルの風味を生み出し、梅ぼ志飴の色と味の特徴になるのです。時間をかけ過ぎるとかえって飴のコシが抜ける(飴の仕上がりが柔らかくなること)ので、高い温度で一気に仕上げることが大事です。
気になるのが「梅ぼ志飴」の名前の由来。梅干し味ではないのに、なぜ「梅ぼ志飴」と呼ばれているのでしょうか?
「元々この飴は赤色しかなかったんです。煮詰めた飴を転がして切っていくと角が出来るので、それをサッと摘むんですね。そんな赤くてしわしわの飴を見た江戸っ子が『梅干しみたいな飴をくれ』と言うようになり、梅ぼ志飴と名付けられました」(細田さん)
老舗 五つの奥義その4:天然の素材を生かした果汁飴
梅ぼ志飴の他にも様々な種類の飴が店頭に並んでいます。「あまおう」「王林りんご」「温州みかん」などの果汁を使った果汁飴のシリーズも人気商品の一つです。
榮太樓總本鋪の果汁飴は、天然の果汁をフリーズドライにして使用しているのが特徴です。世の中に流通しているフルーツキャンディの多くは、香料、酸味料、着色料を使って味を調整しているため、天然果汁のみで作った榮太樓總本鋪の果汁飴は、最初に舐めた瞬間少し物足りなさを感じるかもしれません。ですが、舐めているうちにナチュラルなフルーツの味がじんわりと出てきます。同じいちごの飴でも使用したいちごによって味の違いがわかるほど。舐め続けるほどに美味しくなると、お客様からも評判の高い逸品です。
老舗 五つの奥義その5:技術を次世代に生かす
「羽一衣」は、サクッとしたウエハースのような食感が楽しめる飴です。
榮太樓總本鋪の飴は「噛んで食べても美味しい」ということを大切にしています。梅ぼ志飴は、高温で煮詰めることでカリッとした食感に仕上げていますが、「逆に空気を抱かせたらどうなんだろう」という発想から生まれました。空気を抱かせて飴を練り、その後から空気を抜くという工程を経て、サクサク感を作り出しています。
また、新たな商品も続々と生まれています。「スイートリップ」は、まるでリップグロスのような飴。
「昔の梅ぼ志飴の赤色は、食紅を使っていました。芸妓さんが口に含んだ飴を舐めると、紅と混じって唇にツヤが出るのが良いと言われていたそうです。そんなエピソードも踏まえて、飴を今風のグロスにしてみたら面白いんじゃないかという発想で開発された商品です」(細田さん)
老舗の使命とは?
長年培ってきた技術に甘んじず、時代に沿ったイノベーションを起こすことが大切だと語る細田さん。
「時代の変化やお客様の嗜好をよく研究しながら、我々が持っている技術をどうやって生かし、新しい商品を作っていくのか。ただひたすらその繰り返しなのだと思います」(細田さん)
次の時代の「新しい和菓子開発」の先陣を切るのは、伝統の技術を積み重ねてきた榮太樓總本鋪だからこそ出来ることなのかもしれません。
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