Tokyo

12/23 (月)

日本唯一の楊枝専門店・日本橋さるや。一度使ったらもう普通の楊枝には戻れない 、こだわりと職人技とは?

日本の良いものを世界へ、世界の良いものを日本へ、agatajapan。


日本は、百年続く老舗が3万3,000軒以上存在する世界でも稀な国。そのご当主に、老舗を老舗たらしめる“五つの奥義”を伺う連載記事。今回お話を伺った老舗は、宝永元年(1704年)創業、江戸~令和まで300年以上にわたって楊枝を取り扱い続けてきた『日本橋さるや』です。


「一度使ったらもう普通の楊枝には戻れない」


 その魅力はどこから生まれるのか?  日本唯一となった楊枝専門店のこだわりと目指す未来とは?  


五つの奥義を通して、300年続く秘密を垣間見ることができました。

一度使うと普通の楊枝には戻れない、黒文字でつくられる上角楊枝

日本にはさまざまな‟上”があります

そのなかでも、食後の‟上”と称されるのが黒文字を使い、1本ずつ手で削って作られた日本橋さるやの「上角(じょうかく)楊枝」です。弾力性があって折れにくく、口に含んだ際に感じられるのは芳醇な木の香り。

「うちの楊枝をつかっていただくと、もう普通の楊枝には戻れない」


日本橋さるや九代目ご当主の山本亮太さんはそう語ります。「たかが楊枝」という考えを「されど楊枝」に塗り替える、熟練の職人技が込められた逸品です。


東京、日本橋の路地で「極上品」と出合う、そんな経験を求めるならば、地下鉄・三越前駅からすぐのモダンな店舗に足を運びましょう。のれんには「黒文字専門店 日本橋 さるや」の文字とロゴマークが刻まれています。そこは、日本で唯一の楊枝専門店。

自らの楽しみとしてだけでなく、桐箱に入れてお土産にしたり、縁起の良い「千両箱」に納めてお年賀として渡したりと、贈り物としても大勢の方に重宝されています。また、毎年暮れには「子、丑、寅、卯、辰、巳、午、未、申、酉、戌、亥」の十二支がイラストとして刻印された干支楊枝も。また、「辻占楊枝」も人気の品。楊枝の包み紙にたとえば「堅いやうでもよ 蕾だからは 誘う春ありゃ 咲もする」など、恋文のような都都逸(どどいつ)が書かれています。

老舗 五つの奥義その1:丈夫で香りが良い。素材は”クロモジ”にこだわる

楊枝には「‟歯間の掃除用”と‟和菓子用”の2種類が存在する」と山本さんは語ります。そのなかでも、こだわっているのが「クロモジを使い続ける」ということ。クロモジとは、北海道から九州まで全国の山野に自生するクスノキ科の落葉灌木で、樹皮の斑点が文字に見えることからクロモジ(黒文字)と名付けられました。

その特徴は大きく2つある、と山本さん。


一つは、使ってもしっかり丈夫なまま感触を楽しめる‟強度”、もう一つは‟香りが良い”ということです。しなやかで香り豊かなクロモジを体験した多くの人からは「100円ショップなどで売っている普通の楊枝には戻れない」という声が多く聞かれます。


さるやの楊枝の豊かさは、素材だけでなく、職人の目利きにも支えられています。


「クロモジの中でも若い、1〜2年の木を選んでいます。何年も経つと固くなってしまうんです。柔らかいうちに楊枝にしたほうが、良い楊枝ができます」(さるや八代目山本一雄さん)


やわらかい楊枝を使うことで心地良い歯あたりが生まれ、結果として「良い楊枝」が生まれることになるのです。

老舗 五つの奥義 その2:筋を避け、繊維を読み、まっすぐ削る

さるやの楊枝のなかでも、手で削った一番細い商品といわれるのが「上角楊枝」です。約2センチ径のクロモジを職人自らの手作業で16等分にしているとのこと。さらに先端を刃物で削り、尖らせて細さをさらに追求します。

「やっぱりまっすぐ削るっていうのが大変ですよ」と八代目。柔らかい素材だからこそ、力加減で容易に波打つ。まっすぐ削るためには、筋を避け、繊維を読み、体で削る。まさに至難の職人技です。

老舗 五つの奥義 その3:名人は”十二手”で1本の上角楊枝が完成

削る回数が少ないのが名人だと、山本一雄さん。たった十二回の削りで完成させることを目標にしていると話します。しかし、たとえ熟練の職人でもその回数を達成するのはなかなか容易ではありません。研鑽に終わりはないのです。

さるやの職人は、生涯を賭して技の熟練に挑んでいます。

老舗 五つの奥義 その4:最後の1軒になっても歴史を繋ぐ

「楊枝が中国から仏具とともに日本に入ってきたのはだいたい、奈良時代と言われます。“口の中を清める”道具ということで仏具のひとつだったそうです」(山本亮太さん)


楊枝が衛生用具として一般に広がったのは江戸時代。かつては浅草寺の境内に楊枝専門店が250軒近くあったとか。そして、その楊枝屋はすべて「さるや」と呼ばれていました。

古い文献に”猿は歯が白きが故(ゆえ)に楊枝の看板たり”とあり、猿を楊枝屋のシンボルとし、連れ歩きながら商品を削り売っていたのです。そこから楊枝屋がさるやと呼ばれるようになったと伝わります。


2023年現在、当時から残っている楊枝専門店はここ「日本橋さるや」だけ。九代目は「どうにか続けていきたい」と決意を示します。

老舗 五つの奥義 その5:消臭ミストや酒…さらに広がるクロモジの可能性

クロモジの香りの良さをほかの用途にも生かせないだろうか?


その発想をもとに開発されたのが「黒文字ミスト」。空間を消臭し、クロモジの香りに置き換えます。

さらに、クロモジの特性を生かすべく、生まれたイノベーションに「お酒」があります。「ボタニカルKuromojiリキュール」「日本酒『黒文字』」。馥郁(ふくいく)たる芳香を楽しみながらの晩酌は、今までと違った体験を届けてくれるでしょう。

老舗の使命とは?

職人になる人が少なかったり、高齢化が進んでいっている現代。九代目・山本亮太さんは「利益は作り手に還元したい」と語ります。職人になっても十分に食べていける環境づくりなど、作り手ファーストの考えが真摯に語られます。

また、今後も長く継続していくためには「お客様の声をしっかり聞いて信頼を裏切らない商品を作り続けるということだと思います」


未来を見据えたまっすぐな目で、九代目の口から、そう決意が語られました。


スターマーク株式会社


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「五つの奥義:日本橋さるや編」の動画はコチラから

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