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日本は、百年続く老舗が3万3,000軒以上存在する世界でも稀な国。そのご当主に、老舗を老舗たらしめる“五つの奥義”を伺う連載記事。
1830年(天保元年)創業、江戸箒(えどほうき)の製造を生業とする『白木屋傳兵衛』は、江戸から明治、大正、昭和、平成、令和と元号が移っても初代のころから受け継いだ手づくりのほうきづくりを続けています。大切に200年以上伝統が維持されつづけた背景には、社会やお客様への貢献にかける想いがありました。
『白木屋傳兵衛』の伝統を支える「五つの奥義」から、ほうきづくりにかけるこだわりに迫ります。
手作業で生み出される、軽く、つかいやすく、畳を育てる江戸ほうき
「手作業でしかできないような細かい作業の連続なんです」
そう話すのは、『白木屋傳兵衛』七代目ご当主中村悟さんです。職人個人の美意識が反映され、生み出されるのが江戸時代から変わらない品質を保った江戸ほうき。高層ビルが立ち並ぶ東京・京橋の街に「江戸箒製造處 白木屋傳兵衛」と墨文字で記された木製の看板が見えれば、そこが『白木屋傳兵衛』の店舗です。
工房を兼ねており、製造されたほうきが壁に吊り下げられた店内にて、「いらっしゃいませ」と迎えてくれた中村さん。お店に一歩入れば、イネ科のホウキモロコシ草を原料とする江戸ほうきの香りが感じられます。
植物性のアクを持っているため埃が付着しづらく、畳の表面のツヤ出しやケバ立ち防止の効果も持つ『白木屋傳兵衛』の江戸ほうき。力をかけずに埃や塵を吐き出せる「軽さ」も魅力のひとつです。
そもそもは畳表の問屋だった『白木屋傳兵衛』。畳の普及が進むなかで、掃き掃除のためのほうきがないという状況を鑑み、競合他社のいない環境に参入する形で、初代中村伝兵衛により江戸ほうきづくりがはじめられたということです。
老舗 五つの奥義 その1:ほうき作りは99%が手作業
「ほうき草は必ずどちらかの方向に曲がっているんです」(中村さん)
その湾曲を中央に集めるようにして編み上げる作業は、手作業でしかできません。
まずはほうき草一本一本の曲がり具合を確認しながら束ねることから作業ははじまります。慎重に位置を見極めながら草が抜け落ちないように編み込むのは、まさに職人の技。その太さや固さによって、ほうき草をまとめるひもを締める力は微妙に調整されることになります。そうして作ったパーツをさらにまとめ、だんだんとほうきの形が見えてきます。
この製造法は、江戸時代から基本的には変わっていません。「このつくり方をどこまで遺して伝えられるかが僕らの勝負事になる」と中村さんは語ります。
さて、99%が手仕事とのことですが、残り1%の工程はなんでしょうか。
答えは、”竹製のほうきの取っ手にドライバーで穴を開ける作業”です。99%の手仕事と、1%の機械化された作業で、10年以上使い続けられる極上のほうきが生まれます。
老舗 五つの奥義 その2:実用品だからこそ、「美」を追求する
ほうきといえばもちろん床を掃くための実用品です。しかし、それだけにとどまらない“職人の美意識”に裏打ちされて『白木屋傳兵衛』の竹ぼうきは生み出されているのだとか。そして、だからこそ「愛される部分が大きいのかもしれない」と中村さんは考えています。
竹ぼうきをよくよく眺めると、中央部に丸みを帯びたふくらみがあることがわかります。ただ編み上げただけでは、こうはなりません。内側にほうき草の茎を短く切った「クダガラ」を仕込むことで、豊かなフォルムを構築する工夫がここにはあります。そして、強く編み上げることでほうきの重心が上がり、掃きやすくなるという実用的なメリットもまた生み出されているのです。
老舗 五つの奥義 その3:使う材料は全て天然素材
『白木屋傳兵衛』の竹ぼうきを構成するのは、麻糸、綿糸、ほうき草、竹、トウの5つの材料のみ。すなわち100%天然素材で製造されています。綿糸が用いられるのは、ほうき草を束ねるため。束ねたほうき草を固定するための部品も、それを埋め込むための竹杭も天然素材です。
SDGsの重要性が叫ばれる昨今。地球温暖化やマイクロプラスチック、不燃ごみといった社会課題に対し、CO2を生産から廃棄までほとんど排出せず、無駄を生まない昔ながらの竹ぼうきのメリットは合致します。
老舗 五つの奥義 その4:常にほうき草に触れることで、感覚が研ぎ澄まされていく
年間1万5,000本のほうきを生産する『白木屋傳兵衛』。製造の過程で最も難しいのは「ほうき草をランク別に選別する作業」なのだそうです。
通常、品質や質感にばらつきがあるほうき草。『白木屋傳兵衛』では「特上用」「上用」など約20種類にほうき草を選別することでほうきにあたりはずれが生まれることを防止しています。
「修行を積むことで、指の感覚でほうき草の品質がわかるようになってくるんです」(中村さん)
食事や休みの時間もほうき草の弾力と柔らかさを確かめ続ける修行を経て、言葉では伝えられない職人の感覚が醸成されていくのだといいます。
老舗 五つの奥義 その5:「江戸」から続く伝統を残す
折れにくく、よくしなり、埃を取りやすい江戸ほうきは、親子何代にも渡り愛用される場合もあります。
時代を超えて愛される理由を尋ねると、その回答は「いいものをつくりつづけてきたから」と非常にシンプル。品質を犠牲にせず、技術を磨きほうき文化を守ることに心を砕いてきたことで「次の代までは受け継げたかなという自負はあります」と中村さんは表情に自信を浮かべます。
実は、材料となるほうき草のほとんどは、インドネシア産。中村さん自らが日本から指導に伺い、上質な草が育てられるようになりました。しかし、国産の草も残していくのが『白木屋傳兵衛』の方針。山形県の農家を中心にほうき草を育てる体制が国内でも整えられました。
その努力はひとえに、創業当時から受け継がれてきたほうきの伝統を残すために行われているのです。
伝統やプライドに対し嘘のない商品を
「ほうきはとても日本的な上に良質な商品だと思います」(中村さん)
伝統やプライドに対し嘘のない商品を生み出し続けることで、社会やお客様などによりよい影響を及ぼす老舗の役割を全うすることに、今日も『白木屋傳兵衛』は取り組み続けています。
スターマーク株式会社
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