旅行の際に立ち寄ることも多い神社仏閣。多くの人の心の拠り所であり、神聖な信仰の場所だけに、訪れる前にここで改めて参拝マナーを確認してみませんか? 神社とお寺では、参拝のしかたにどんな違いがあるのでしょうか。本来の意味を知識として身につけることで、心豊かに参拝することができます。
神社とお寺の定義、その違いとは?
最初に、神社とお寺の定義をおさらいしておきましょう。
「神社は神道の宗教施設であり神が住まう場所です。日本で自然発祥した土着の宗教を基にしています。台風や日照りなどの自然災害は、神の怒りと捉えていましたので、『村の鎮守の神さまの……』の歌にもあるように、鎮め、守ることが、主となります。従って、今日の無事を感謝し、畏敬の念を神様に表しつつ、さらに今後の無事の願掛けをする場所として建てられました」(西出さん/以下同)
「一方、お寺は本来、仏の教えを学ぶ、仏教の宗教施設です。寺院は、お釈迦さまの教えを信仰し、実践する僧侶が教義を学び修行をする場所で、仏様と一体となる場として建てられたものです」
では、神社とお寺をお参りする際に気をつけることとはどんなことでしょうか?
「マナーとは、相手の立場に立つことが大切です。そのため神社では、もちろんお願いごとをしてもいいのですが、基本的には日頃の感謝の気持ちを神様にお伝えするといいですね。神様だって御礼や感謝を伝えられればうれしいはずです。相手に喜んでもらうことで、ご利益が自分に返ってくるのだと思います。もちろん、満願成就の際には、お礼参りを行いましょう。
一方、お寺ではご本尊が仏様か菩薩様かによって、参拝の内容が異なってきます。仏様とは、如来といって、お釈迦様や阿弥陀如来、薬師如来などが主にあります。一方、菩薩様とは、最も多いのが観音菩薩や地蔵菩薩です。本来、仏様には私たちが直接お願い事はしません。お願いを直接聞いてくれるのは菩薩様です。例えば、病気を治したいときは僧侶にお願いをして薬師如来に伝えてもらい、お子様の無事を願うなら自分自身で道端の地蔵菩薩に手を合わせることが出来ます。そのため、お寺に行く前には、事前にご本尊を確認してから参るのが賢明です」
もともと、お寺を参拝する際は、自己を見つめ直し、日頃の無事を感謝し、清らかな心を保てるように念ずるのがよいとされているそう。
「現代ではその意味が薄まって参拝者のご利益祈願が多くなってきていますが、自分の利益よりもまず家族や友人など周りの方々に感謝して、清らかな心を保ちましょう」
ところで、“神社仏閣”と“寺社仏閣”という言葉がありますが、これらを混同して使ってしまうことも少なくありません。“神社仏閣”の“仏閣”とは、お寺の建物を意味します。ですので“神社仏閣”とは、神社とお寺(寺院)のこと。同様の意味で“寺社仏閣”という言葉がありますが“寺社”は神社と寺院を意味するため、“寺社仏閣”を分解して考えると“寺院”が重複しています。そのため、“神社仏閣”の方が言葉としては適切です。
神社の参拝の流れは?
せっかく参拝するなら正しい方法で参拝したいもの。しかし、西出さんいわく絶対にこうしなければならないということは無いと言います。
「基本的にマナーは心からのものなので、絶対にこうしなければいけないとか、間違えたからといってご利益がなくなるということはありません。それよりも常日頃から神社の参拝をした方が、神様側も喜んでくださるのではないでしょうか? 気負わずに参拝してください」
【1/境内に入る】
神社の入り口などには鳥居がありますが、鳥居は神域と人間が住む俗界をわける境界と考えられています。
「鳥居の内側は神聖な神域なので、鳥居の内側の左右どちらかに立ち、一礼します。中央は神様の通り道なので、歩かないようにしましょう。服装は自分の気持ち次第です。神社側もこんな服装で来ないでくださいとはいいません。神様への感謝の気持ちがあれば、どんな服装でも自由だと思います」
【2/手水を行う】
参拝の前には手水舎(てみずや、てみずしゃ、ちょうずや、ちょうずしゃ)で、“心身の浄化”のために手水を行いましょう。手水作法は、神社であってもお寺であっても原則は同じです。
<手水作法>
軽く一礼して、右手で柄杓(ひしゃく)を持ち、手水をすくい左手を洗い清める(一杯の水で行うので、たっぷりと汲み、使い切らないよう注意)。その後、柄杓を左手に持ちかえ右手を洗い清める。
↓
再び柄杓を右手に持ちかえ、左手に溜めた水で静かに口をゆすぐ。
この時、柄杓に直接口をつけないように注意を。
口をゆすいだ後は静かに水を吐き出します。
↓
口をゆすぐ際に使った左手に水をかけ、洗い清める。
↓
柄杓を両手で持ち、柄に水がかかるように手前に傾けて清める。
↓
柄杓を元の位置に戻し、手水舎に一礼して終了
神社によって、鳥居の前に手水舎がある場合もあるので注意しましょう。
【3/拝礼】
神社によって拝礼の作法が異なる場合がありますが、一般的には以下の流れとなります。
●一礼し、一歩前に出て鈴やドラを鳴らす
社頭に設けられた鈴は、そのすがすがしい音色で参拝者を敬虔な気持ちにするとともに、参拝者を祓い清め、神霊の発動を願うものと考えられています。
「鈴は神様への合図ともいわれています」(西出さん)。
↓
●お賽銭を入れる
「お賽銭を投げ入れる人をたまに見かけますが、自らの真心の表現としてお供えするものですので、お賽銭箱には下から丁重な動作で入れましょう」
↓
●二拝二拍手一拝
1.神前に進み、姿勢を正す
2.背中を平にして腰を90度に折り、拝(はい=深いお辞儀)を2回行う
3.胸の高さで両手を合わせ、右指先を少し下にずらす
4.肩幅程度に両手を開き、2回打つ
5.指先を揃えて、感謝の気持ちを伝える
6.手を下ろし、最後にもう一度拝をする
神前での柏手は、神様に誠の心を捧げ、お陰をいただいていることに心から感謝して打つものです。
「最初の柏手で、神様に自分が来たことを告げ、2回目の柏手で、神様と自分の気持ちが一体になったことを意味します」
お寺での参拝の流れは?
一言にお寺といっても、宗派によって参拝のしかたはさまざまです。
「作法は宗派によるので、行くお寺の宗派を事前に知っておくといいでしょう。もしくは、訪れた際にお寺の方に直接参拝のしかたをお聞きすることも大切です」
【1/境内に入る】
お寺の入り口にある山門は、俗世との境を表す門です。山門の前では、合掌とともに一礼しましょう。合掌とは、胸の前で手を合わせる作法のことで、仏様と一体になることを表しています。宗派によって形式は異なりますが、合掌はお寺で礼拝する際の基本となります。
「手を合わせるときには、音を立てないようにしましょう。宗派にもよりますが基本的にお寺では手を叩きません。また、山門をくぐるときは敷居を踏まないようにしてください」
【2/手水を行う】
境内に入ったら手水舎で身を清めましょう。手順は神社と同じです。
【3/礼拝】
礼拝の作法は宗派によって異なりますが、以下に一般的な流れを紹介します。
●本堂に着いたら、お賽銭を静かに入れる
↓
●鰐口(ある場合のみ)を鳴らす
“鰐口”とは、正面軒先に吊り下げられた金属製の仏具のこと。鰐口を鳴らすことで“来ましたよ”と仏様に伝える意味があります。ただし必要以上に大きい音を出すことは仏様に失礼に当たるので、心地良い音を意識しましょう。
↓
●礼拝
<本堂の外から礼拝する場合>
背筋を伸ばし、指をまっすぐ伸ばして合掌し、上半身をかがめて一礼する。
<本堂内に入れる場合>
正面からご本尊に向き合い、姿勢を正して合掌。
いずれの場合も、仏様に顔を見せることを意識しましょう。
また焼香台がある場合は、焼香を行います。宗派によって回数が異なるため、分からない場合は1回だけでも問題ありません。
献灯台があれば、お賽銭を入れて蝋燭に灯をともします。また、線香に火をつけ、手であおぎ消して、香炉に立てるか、寝かします(宗派によって違います)。
以上で礼拝は終了となります。お寺を出る際は、山門の前で一礼しましょう。
御朱印をいただく際のマナー
神社やお寺を参拝した「参拝証明」として押印される印章印影が御朱印です。朱印は社寺によって異なりますが、お寺では、本来、納経と言って、お経をあげたり、写経したものをお供えした証として授かるものなので、朱印帳では無く、納経帳と言います。一般的に押印のほかに、参拝日、神社仏閣の名称、御祭神・御本尊の名前などが墨書きされます。
「最近では趣味のように御朱印を集める方がいらっしゃいますが、ただ集めるのではなく、参拝できたことをありがたく思う気持ちを忘れないでいただきたいです。また、人の御朱印帳を預かって何冊もいただく場合は、行列になりがちなので、後ろの方に会釈をするなどの配慮が必要です」
また、少し気になるのが御朱印帳の使い分けです。神社用、寺社用とそれぞれに用意した方が良いのでしょうか。
「『こうしなければならない』という決まりはありませんので、お持ちになる方のご都合で考えて良いでしょう。感謝の気持ちをもって御朱印帳を大切にお持ちになることを、大事になさってください」
知っているようで、あいまいになっていた部分も多い神社仏閣でのマナー。それらが行われる意味を知っていれば形だけにとらわれることなく、より心を込めた参拝ができるはずです。
監修/
浄土宗西山深草派 大本山圓福寺
第85世住職 小島雅道さん
お釈迦様に心酔し、世に出回っている仏教・お墓に関する間違った情報を正すための布教師としてのわかりやすい教えとお人柄が人気。近年はペット供養の依頼も多く、命ある動物を慈しみペットロスになる人の心をも癒している。
大井蔵王権現神社
宮司 吉井崇宮さん
取材・文/手塚よしこ
イラスト/篠塚朋子