“土用の丑の日”に、うなぎを食べることは有名ですが、なぜうなぎを食べるのかご存じですか? 今回は“土用の丑の日”の意味から、うなぎを食べるようになったわけなど、“土用”にまつわるあれこれをご紹介。知っているようで意外と知らない、うな重の食べ方についてもマナーコンサルタントの西出ひろ子さんに教えていただきました。今年の土用の丑の日が待ち遠しくなるはずです。
“土用の丑の日”の由来とは?
1年に4回ある“土用”期間で“丑”に当たる日が“土用の丑の日”
まず二十四節気から紹介します。二十四節気とは1年間の太陽の動きを24等分し、およそ15日ごとに季節を表す名称をつけたもの。春の始まりは“立春”とされ、それ以降季節ごとに“立夏”“立秋”“立冬”と続き、これらを“四立(しりゅう)”といいます。そして“土用”とは、“四立(しりゅう)”の前の18日間を差します。
一方、“丑の日”とは、十二支の“丑”にあたる日のことです。昔の暦では日にちを1、2、3といった数字ではなく、十二支で捉えていました。そのため、土用の期間中の丑の日が“土用の丑の日”なのです。
土用期間のタブー
“土用”という言葉は、“土旺用事(どおうようじ)”の略語で、“土が旺盛に働く”というような意味を持ちます。そのため、土用にはやってはいけないとされていることがあります。
まずは、土いじりや草むしり、穴を掘るなど、土を動かす作業です。これは、昔から土用には土の神様である土公神(どくしん・どこうしん)の気が盛んになると考えられ、土を動かしてはいけないとされているため。ただし、約18日間も工事などの作業ができないと支障が出てしまうので、土公神が天上界に行って地上を離れている「間日(まび)」の日は、土いじりをしても大丈夫とされています。ちなみに、夏の土用の間日は、卯・辰・酉の日で、2023年は7月20日、21日、25日、8月1日、2日、6日です。
そのほか、土用には、結婚や結納、新居購入、就職や転職、開業や開店など、新しいことをはじめたり、大きく移動したりすることは避けたほうが良いとされています。
これらは、いずれも季節の変わり目は体調を崩しやすいため、土用は静かに過ごした方が良いとのいわれからきていると考えられています。
2023年の土用の丑の日はいつ?
では、2023年の土用の丑の日がいつなのか見てみましょう。
冬:1月19日(木)、1月31日(火)
春:4月25日(火)
夏:7月30日(日)
秋:10月22日(日)、11月3日(金)
2023年の夏の土用の丑の日は、7月30日(日)です。各季節に約18日間ある土用は、12日周期ある十二支で数えると“土用の丑の日”が2度巡ってくる年もあります。その際は、1度目を“一の丑”、2度目を“二の丑”と呼びます。
土用の丑の日にうなぎを食べる理由
土用の丑の日にうなぎを食べるようになったのは、いくつか説があります。
日本最古の歌集“万葉集”には、大伴家持(おおとものやかもち)が詠んだ『石麻呂に われもの申す 夏痩に良しといふものぞ 鰻取り食せ』という歌が収められています。これは、『夏痩せにはうなぎがよい』という意味の歌です。1200年以上前の奈良時代に、すでに夏バテにはうなぎが効くといわれていたのです。
実際、うなぎにはビタミンA群とB群が豊富に含まれ、疲労回復効果や食欲増進効果があります。そのため、暑い夏を乗り切るために食べられるようになったといいます。
また、江戸時代に天才といわれた博物学者の平賀源内が、推奨したという説もあります。当時主流だった天然うなぎの旬は秋から冬でした。産卵前の脂を蓄えた、味が濃くてこってりしている旬のうなぎに対して、夏のうなぎは人気がなかったため、うなぎ屋が平賀源内に相談したといいます。すると源内が、『丑の日だから“う”のつくものを食べると縁起がいい』という語呂合わせを発案。それにしたがって、“土用の丑の日はうなぎの日”と店頭に張り紙を出して宣伝するように提案したところ、その効果で店は大繁盛となり、“土用の丑の日”にうなぎを食べる風習が根付いたといわれています。
お重の食べ始めはどこから?肝吸いの“肝”はどうする?うな重の食べ方のマナー
ここでうな重の食べ方を確認しておきましょう。
①うな重とお吸い物の蓋を開ける。
「蓋を開けるのは、どちらが先でも大丈夫です。開けた蓋は、左に置かれたものの蓋は左に、右に置かれたものの蓋は右にという説もあれば、すべて右に置くという説もあります。注意点としては、蓋と蓋を重ねて置くのは避けること。また、現代では、蓋は裏返して置くという説の方が多いです。以前では糸底(陶磁器の底部)に傷をつけるという理由から、裏返さないとの説もあります」(西出さん/以下同)。
②最初にお吸い物からいただく。
「食べはじめは、お箸を湿らすという観点から、まずはお吸い物からいただくとの説が一般的です。お吸い物をいただくときは、お椀を両手で持ち上げます。汁を飲むときは音をたてないように気をつけましょう。肝吸いの具を食べて良いか迷う方もいらっしゃいますが食べても大丈夫です。肝自体には、ほとんど味はないため、食感や風味を楽しむと言われています。そしてお椀を置くときは、お箸を先に箸置きに戻してから両手でお椀を持ちつつ、静かに置きます」。
③うな重をいただく。
「うな重の食べ始めは、うなぎの左下を食べやすい大きさにお箸で切り、うなぎとご飯がセットになるように、バランスよく食べていきましょう。うな重の残りが少なくなってきたら、重箱を少し持ち上げて、斜めにして食べても問題ありません。うな重は、置いたまま食べても、持って食べても大丈夫な食べ物です。重箱を置いたまま食べる場合は、利き手と反対の手を重箱に添えるように食べましょう」。
④食べ終わったら、蓋を戻す。
「蓋を元の状態に戻すことが、食べ終わった合図になります。お吸い物の蓋など、裏返しのまま戻す人がいますが、漆塗などの蓋を傷つける原因になるので、出てきたときと同様の姿で蓋を置きます」。
まだまだある、夏の土用の風習。食べ物や行事etc.
“土用の丑の日”には、うなぎのほか、あたまに”う”がつくものを食べるとよいといわれていますし、土用ならではの食べ物も。食べ物のほか、土用に行われてきた慣習や行事も紹介します。
“う”のつく食べ物を食べる
●馬肉・牛肉
スタミナ補充に最適。良質なたんぱく質が豊富で、必須アミノ酸もバランスよく含まれ、エネルギー補給にもぴったりです。牛は、「土畜」とも呼ばれ、脾胃(脾臓と胃腸)を養うとされ、胃腸が疲れているときに食べると良いとされています。一方、馬肉にはグリコーゲンが豊富に含まれ、疲労回復に効果があります。
●うどん
温かいうどんは、米よりも消化吸収がよいため、胃腸が弱りがちな夏におすすめ。肉や魚、大豆製品、卵などのたんぱく質や野菜なども一緒に食べれば、夏バテ予防になります。
●梅干し
クエン酸が含まれ、疲労回復に最適。梅の酸味成分により唾液が出るので、食欲増進にも。
●ウリ
胡瓜(きゅうり)や西瓜(すいか)、冬瓜(とうがん)、南瓜(かぼちゃ)、苦瓜(にがうり)などのウリ科は、水分やカリウムが豊富で、身体の余分な熱を冷ましてくれるほか、余分な塩分を排出する助けとなって体のむくみを減らす効果があります。
土用の食べ物
●土用餅
土用につくお餅を“土用餅”とよびます。お餅は力がつくとされ、小豆の赤い色には厄よけの効果があるといわれています。そのため、あんころ餅や、小豆入りのお餅を食べると無病息災が叶うといわれています。
夏の土用が近づくと和菓子店で土用餅が販売されるところもあるので、チェックしてみては。
●土用卵
土用卵とは、夏の土用の期間に、鶏が産み落とした卵のことです。卵は完全栄養食といわれるほど、必須アミノ酸がバランスよく含まれ、良質なたんぱく質が豊富ですが、中でも夏の土用に産み落とされた卵は、特に栄養価が高いといわれています。うなぎを巻いた卵焼き“う巻き”もおすすめです。
●土用しじみ
土用しじみとは、夏の土用に食べるしじみのこと。しじみの旬は冬と夏ですが、夏のしじみは、産卵前のため多くの栄養成分を蓄えています。「土用しじみは腹薬」とも呼ばれ、オルニチンなど肝機能を高めるとされる栄養素が豊富です。また、カリウムも豊富です。
“土用の丑の日”は、“土”と“丑”から連想する“黒色”のものを、また、丑の方角の守護神獣である“玄武”を象徴する黒いものを食べるとよいとされています。その風習が“土用しじみ”の元になっているともいわれています。ほかに黒い食べ物として、黒豆、黒ゴマ、黒きくらげ、ひじき、海苔、ゴボウ、ナスなどがあります。
土用の行事
●衣服や本を守る、土用の虫干し
夏の土用は、梅雨明けの季節でもあるため、この時期に“土用の虫干し”を行い、害虫やカビから衣服や本を守るとよいとされてきました。このほか、梅干しや田んぼも土用に干すと、おいしくなったり、じょうぶな稲が育つといわれています。
●桃の葉やよもぎの葉を入れる、丑湯(うしゆ)
丑湯とは、土用の丑の日にお風呂に入ること。暑気払いのために桃の葉やよもぎの葉などの薬草を入れて入浴すると、病気をしないといわれています。
●江戸時代から伝わる秘法。うり封じ、きゅうり加持
“うり封じ”“きゅうり加持”とは、江戸時代から伝わる秘法で、うりやきゅうりに身代わりになってもらい、災いや病を封じ込める厄除けのことです。土用の丑の日に、うりやきゅうりに名前や経文などを書いてお寺で祈祷を受けます。
●下鴨神社のみたらし祭り
京都の下鴨神社では夏の土用の丑の日の前後4日間、“足つけ神事(みたらし祭)”が行われます。みたらし団子発祥の地として知られる境内の“みたらし池”の清水に足をつけると、罪、けがれを祓い、疫病にも効き目があるといわれ、早朝から夜間まで、多くの人が訪れます。
夏ならではの風習を楽しみながら、暑さを乗り切って
土用の丑の日のさまざまな食べ物や風習を紹介しましたが、土用は季節の変わり目で体調を崩しやすいタイミングのため、食べ物や行事などで無病息災を祈ってきた歴史があります。そんな先人の知恵を上手に取り入れながら、疲れた体をいたわり、暑い夏を楽しく乗り切りましょう。
栄養成分監修協力:管理栄養士 有水友美さん
取材・文/手塚よしこ
イラスト/篠塚朋子