日ごろの感謝を伝える、夏の贈り物“お中元”。ありがとうの思いをしっかり届けるためにも、失礼のないようにしたいものです。マナーコンサルタントの西出ひろ子さんに、お中元を贈る時期や、おすすめの品物、逆にお中元には向かない品物など、最新のお中元マナーを伺いました。
お中元とは何?その由来とは?
お中元とは、日頃からお世話になっている人に感謝の気持ちを込めて贈るもの。その由来は、中国にあるといいます。
「お中元の由来は、中国から来ています。中国では一年の初めを“元”と呼び、一年の真ん中にあたる7月15日を“中元”と呼んでいました。これに、日本のお盆の時期に“御霊(みたま)祭り”として添え物を贈り合う習慣が一緒になって定着したのが、現在のお中元です」。(西出さん/以下同)。
また一度お中元を贈ったら、それ以降も毎年贈り続けるのが基本と言われていますが、その関係性はさまざまに変化することもあります。臨機応変に対応して良いでしょう。
地域によって違う、お中元を贈る時期
地域によってお中元を贈る時期が異なるので要注意です。
「関東では7月初旬(一説には6月下旬)から7月15日までに贈るのが一般的と言われていますが、地域によって違いがあります。それは、旧暦か新暦かの違いで、お中元はお盆に合わせるという考え方があるからです。大事なことは、贈る相手の地域の風習を知り、その地方、地域、家族の意向に合わせた贈り方をすることです。日頃からお互いにコミュニケーションをとり、先方の事情などを把握しておくことが理想です」。
ちなみに、以下が地域別のおおよそのお中元を贈る時期になりますので、参考にしてみてください。
※ただし、地域や地方ごとの慣習、考え方によって異なります
<地域別>お中元を贈る時期の目安
●北海道:7月15日~8月15日ごろ(道内でも地域によって異なる)
●東北・北陸:7月1日~7月15日としている地域と、7月15日~8月15日としている地域に分かれる(近年は7月15日前後が増えている傾向)
●関東:6月下旬または7月初旬~7月15日
●東海:7月中旬~8月15日(近年は7月15日前後が増えている傾向)
●関西:7月16日~7月末としている地域と8月15日までとの地域もある
●中国・四国:7月中旬~8月15日
●九州:7月15日(または8月1日)~8月15日
●沖縄:旧暦の7月15日前後 (新暦では8月中旬頃)
このように地域差がありますが、贈る時期に迷ったら7月10日くらいから二十四節気の立秋(8月7日頃)までに届くように送れば問題ないでしょう。また、お中元を贈るのが遅くなってしまっても、心配はないといいます。
「たとえば、関東では7月15日までに贈ると言われていますが、諸事情あってその時期を過ぎてしまった場合は、かけ紙の表書きを“お中元”ではなく、“暑中御伺い“として贈ると良いですね。立秋(8月7日ごろ)を過ぎるなら、”残暑御伺い“として贈れば問題ありません」。
誰に贈ればいい? お中元を贈る相手とは
お中元は誰に贈ればいいのか、基準はあるのでしょうか。
「お中元は、日頃の感謝の気持ちを表すものですので、誰に贈るべきという明確な決まりはありません。親や親族など、日頃お世話になっている近しい人に贈るのが一般的です。マナーとして大切なのは家族や親族と話し合い、足並みを揃えることと考えます。例えば、義理の親については義理の兄弟姉妹たちと、義理の兄弟姉妹については自分のパートナーと相談しながら、コミュニケーションを取ることで感情的なトラブルを防ぐことができます。仕事関係者に対しては、職場の慣例に従いましょう。ただ、近年は虚礼廃止の考え方も浸透しています。そうならないように、お中元も『感謝の気持ち』を優先して、贈りたいと思う相手に贈ることが大切です」。
自分、もしくは相手が喪中のときはお中元を控えるべきでしょうか。
「お中元はお祝いごとではないので、先方や当方が喪中でも贈ってかまいません。しかし赤白の水引に抵抗を感じてしまうケースもありますから、贈る際はのしや水引は用いず、白無地の短冊か、白無地の棒書紙に表書きをする配慮があると素敵です。包装紙もシックな色合いにするとあなたの気持ちが伝わるでしょう。また、先方が喪中で消沈しているときは、時期をずらして“暑中御伺い”として贈るのも心配りです」。
お中元の金額の相場と品物選びのポイント
お中元の金額の相場は?
感謝の気持ちを伝えるお中元ですが、あまり高価すぎる品物だと、相手に気を遣わせてしまいかねません。
「贈る相手との関係性などにもよりますが、親や親族、一般的な仕事関係者に贈る場合は、3,000円~5,000円。特にお世話になった方には5,000円~10,000円くらいが相場といわれています。特にお中元は、一般的には一度送ったら毎年贈り続けるものと言われていますので、特別な理由がなく贈り物の金額が大きく変わったり、前年より予算の低い品物を送ったりすることのないよう、毎年続けても無理のない範囲の金額で品物を選ぶことも考えて贈りましょう」。
お中元におすすめの品物
お中元は、金額よりも、相手を思ってどんな品物を選ぶかが成功のカギです。
「贈る品は、あなたの気持ちを表現するもの。基本は、相手が好きなものをベースに考えます。また、相手の日常生活で使ってもらえるもの・役立つものなども喜ばれます。実用品なら上質なタオルやハンドタオル、入浴剤をプラスするのもおすすめです。食べ物を贈る場合の注意点は、歯が弱いご年配の方には、ゼリーや茶碗蒸しなど、歯に負担のかからないものや、暑い夏には冷やしおでんなどを選ぶと喜ばれます。日頃からコミュニケーションをはかり、相手の好みやコンディションを知っておくことが大切ですね。特に食品を贈りたい場合、相手が食事制限を受けているケースもありますから情報収集は大切です」。
お中元には向かない品物
一方、お中元にふさわしくない商品にはどんなものがあるのでしょうか。
「目上の方に贈らないほうがよいといわれている品物があります。たとえば“より勤勉に”という意味を表す時計。靴や靴下は、相手が自分を”踏みつける“と取られる場合もあるので、好ましくないとされる考え方もあります。また、現金や商品券、ギフト券は相手を低く見ているという印象を与えてしまうので、原則として贈らないほうがよいとされています。しかし、場合によっては、これらは相手が喜ぶ品かもしれません。その場合は『失礼かと存じますが……』とひと言添えれば理解してくれるでしょう。ただし、宝石類やアクセサリー、下着など身につけるものは、家族や恋人、婚約者以外には贈らないのが基本マナーです」。
かけ紙、渡し方、添え状etc. お中元の贈り方マナー
お中元のかけ紙は?
「かけ紙の水引は、紅白5本の蝶結びを選び、表書きは“御中元”“お中元”や“暑中御伺い”と書きます。のしは、基本的にお肉やお魚などの生鮮食品にはつけません。のしは元々、あわびを献上品に添えていたもの。それがのしあわびとなり、現在ののしになりました。したがって、生ものに添えると二重となるため不要と考えます」。
渡し方
お中元は宅配便等で贈るのが一般的になっています。
「本来は贈る相手宅に訪問して、日頃の感謝や季節のあいさつの言葉とともに品物をお渡しするものです。しかし現実的に直接伺うことが難しい場合もありますから、郵送や宅配でも構いません。そうすることで贈られる側は、来客への気遣いをする必要がなく、贈る側もわざわざ出向くという負担がかからないという利点があります。ちなみに沖縄では、旧暦の迎え盆(ウンケー)、送り盆(ウークイ)の日にちにあわせて、親戚であれば各家を訪問し、仏壇にご挨拶し、そこに贈り物を置きます。近年は、旧暦のお盆の数日前に届くよう、宅配便などでおくる人も増えています」。
訪問するときは、アポイントメントをとっていくべきなのでしょうか。
「訪問の流れは相手との関係性により異なりますが、日時を約束して伺うと相手の時間を拘束するという側面もあります。お中元は感謝を伝えるものですから、もし相手に会えなくても玄関先に品物を置いて失礼するだけでも良いのです。相手が親しい方の場合は、サッと立ち寄っても問題ありません。もちろん、アポイントメントをとって、前述の沖縄の例のように、仏壇にご挨拶させていただいたりできればなお良しですね。また、会えないことも想定し、あなたの気持ちを文字でも伝える添え状を同包すると、品物に心がプラスされます」。
お中元には、感謝の思いをしたためた書状を添えて
「宅配でお届けすることが多くなったお中元には、お世話になったことへの感謝を伝える書状(添え状)を同包することをおすすめします。買い求めた百貨店や店舗等から直送する場合でもお願いをすれば同包してくださるケースがあります。そのために事前に書状を準備して持参しておくとスムーズです。ただし、生ものなど業者から直送される品物の場合は、品物とは別にあいさつ状を郵送し、最後に『別便にて心ばかりの品をお送りしました。ご笑納いただければ幸いです』などとひと言添えるとスマートですね」。
お中元の添え状は、季節のあいさつとして送る暑中見舞い・残暑見舞いはがきとは用途が異なります。添え状には暑中・残暑見舞いはがきに書き添える内容ではなく、お中元を贈る本来の目的である“日頃の感謝”をしたためましょう。
また添え状を書く際は、縦書きの手書き・毛筆が最も正式で最も丁寧なスタイルとされていますが、横書き・万年筆や水性ペンでもマナー違反とはなりません。また封筒と便箋を用いた手紙として送ることが基本ですが、最近では封筒に入れたカードでも問題ありません。以下に親しい方へ向けた添え状の文例を紹介しますので、参考にしてください。
<添え状の文例>
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暑さも厳しくなってきましたが、いかがお過ごしでしょうか。
おかげさまで、こちらは家族皆、元気で楽しい毎日を暮らしております。
さて本日は、日頃の感謝の気持ちを込めて、
心ばかりの品をお送りしました。ご笑納いただければ幸いです。
暑い日が続きますので、どうぞお身体を大切になさってくださいませ。
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お中元はずっと贈り続けるもの? やり取りを止める場合は?
お中元を贈り始めたら毎年続けることが基本とされていますが、さまざまな事情から止めざるを得ない状況になることも。その場合どのような気遣いが必要なのでしょうか。
「やり取りを止める場合、 “年賀状終い”のようにその旨をわざわざ伝えなくても問題ありません。しかし、一度お世話になり、お中元やお歳暮を贈った相手には、止めた後も年に一度の年賀状などのご挨拶は送り続けることをおすすめします」
令和のお中元マナー。「大切な方の笑顔が浮かんだら、お中元に限らず気持ちを届けて」
基本的なことですが、『マナーは決まり事ではない』と西出さんは言います。
「お互いがそれぞれ相手の立場に立ち、思いやることがマナーです。そうした気遣いがより関係性を強くしていくと思います。日頃お世話になっているからお中元を贈るという風習はお盆にも関係するため大切ですが、その時期などに縛られ気持ちが欠けてしまっては本末転倒ではないでしょうか。そうならないためにも、相手が好きなものを見つけたときや、旅先で特産物がおいしそうだったからという理由で贈り物をするのも素敵ですし、受け取る方にも喜ばれることでしょう」。
日頃の感謝や、“これからも変わらぬお付き合いをお願いします”という気持ちを込めて贈るお中元。喜んでほしい、贈りたいという素直な気持ちを大切に、相手との絆が深まるやり取りを目指しませんか。
●地域別「お中元のマナー」協力監修
北海道:マナーコーチ 似鳥陽子
東北・北陸:マナー講師 須藤悦子
東海:マナー講師 山田なつき
関西:マナーコーチ 佐原成人
中国・四国:マナーコンサルタント 川道映里
九州:マナー講師 山崎聡子
沖縄:マナーコンサルタント 新田純子
取材・文/手塚よしこ
イラスト/篠塚朋子