Tokyo

11/22 (金)

【第1回】蕎麦の実の殻を完全に取り除いて作る「江戸蕎麦」

「天ぷら」「そば」「寿司」「うなぎ」は、江戸を代表する「食」と言われ、それぞれが江戸の庶民文化の中で培われてきました。このコラムでは、そば店の店主として、そばにまつわる面白い話や、一般的には知られていない意外な事実などをお伝えします。そば文化をより知っていただくきっかけになれば幸いです。

※当コラムは「芝大門  更科布屋」の店内で、月に1話、お客様に配っているリーフレットから転載しております。

最近のそばは5月に種蒔き、収穫時期は9月

古来、蕎麦は夏の土用の後に種を蒔き、10月下旬の霜が降りる前に収穫するのがごく普通でありました。それでも、少しでも早く出回る「はしり」を珍重して、種蒔きを4月・5月、収穫を7月・8月にする物があったことも知られているところです。

現在では国内生産の4割が北海道という事もあり、地理的要因から雪解けの5月に種を蒔き、寒さが来る前の9月初旬に収穫するサイクルが、北海道産を使用する店の標準的な新そばのタイミングとなっております。旧来の新そばの時期10月下旬は、今では海外産新そばが、通関を通り市場に出始める時期になっています。

田舎蕎麦と江戸蕎麦の違いとは

今月のテーマにいたしました「江戸蕎麦」は数ある蕎麦の中でも最も新そばを美味しく味わっていただける蕎麦と確信をしております。と申しますのは、今から250年ほど前に江戸の蕎麦は「まるぬき」からこしらえた蕎麦粉で作られていたからなのです。

「まるぬき」と言うのは蕎麦の実の殻を取り除いた状態の事で、米に例えると白米の状態の事であります。

現代でも地方の蕎麦は、この蕎麦の実の殻をつけたままの状態で臼で挽いて粉にするため、固い殻が粉砕された粉となって黒い破片として蕎麦に混入いたします。この殻の粉は水には勿論溶けませんし、臼で挽いたとはいえ粒子は大きいものであり、蕎麦が短く切れる根源ともなり、食感もざらつき、滑らかな蕎麦とならないのです。田舎蕎麦が短く、ごつごつするのはこの為です。

以前は蕎麦と言うと黒い斑点が入り、太くゴツゴツしているものと認識され、色が薄く、細く長くつながっている東京の蕎麦は小麦粉がたくさん入っていると評されました。実はこの違いは、江戸では早くから蕎麦が脱穀され、ひとつかみの「まるぬき」の中に殻が剥けていない実が三粒までという基準で取引がされていたからなのです。

その「まるぬき」から挽いた蕎麦粉には、当然の事ながら蕎麦の殻は入らず、つながりやすく斑点もない、しなやかな蕎麦に出来上がります。これが「江戸蕎麦」の美味しさであり、江戸で蕎麦が大流行をした原因でもあると思われます。同じ蕎麦と言っても地方の蕎麦とは違った蕎麦となるわけで、私どもが「蕎麦」をあえて「江戸蕎麦」と呼ぶのはこの意味を大切にしたいからに他なりません。

金子栄一さん

芝大門 更科布屋 布屋萬吉こと7代目ご当主

この記事を書いたのは...

寛政3年(1791年)、薬研堀(現在の東日本橋)で創業。大正2年(1913年)から増上寺門前にお店を構えるそば店「更科布屋」の7代目ご当主。芝の地で創業100年以上の伝統を有する老舗の会「芝百年会」の会長も務める。

更科布屋ホームページ

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