現代では国民の祝日“こどもの日”となっている5月5日ですが、そもそもは端午の節句にあたります。この端午の節句の由来や意味を知ることで、よりありがたい気持ちで端午の節句を過ごすことができるはず。さらに、初節句のお祝いをする場合や、お祝いに招かれた場合のマナーなどについて、マナーコンサルタントの西出ひろ子さんに詳しくお話を伺いました。
端午の節句の由来とは?
端午の節句となっている5月5日は、現在では“こどもの日”としても親しまれています。そもそも端午の節句とは、どんな意味があるのでしょう。
「“端午”の“端”の文字は、“はじめ”を意味します。月のはじめの午の日を“端午”といい、季節の節目となる『五節句』のうちのひとつになっています。古代中国では、5月は物忌みの月とし、5が重なるこの5月5日に、邪気や悪霊をはらう行事が行われていました。厄除けのために“しょうぶ湯”や“しょうぶ酒”が用いられていたのです」(西出さん/以下同)
ちなみに節句とは、古代中国の陰陽五行説を由来とし、日本に定着した暦で、伝統的な年中行事を行う季節の節目となる日のことです。節句は1年に以下の5つがあります。
では中国からやってきた端午の節句が、日本において男の子の日となったのはなぜなのでしょうか。
「鎌倉時代に入ると、“菖蒲(しょうぶ)”の音が、武芸を尊ぶ“尚武(しょうぶ)”と同じことから、また、菖蒲の葉が刀に似ていることから、“尚武(しょうぶ)の節句”として、男の子の成長を祝い、健康を祈るようになったといわれています。一方、こどもの日も5月5日ですが、こちらは日本の祝日に関する法律で定められている祝日です。端午の節句は男の子を祝う行事ですが、こどもの日は“こどもの人格を重んじ、こどもの幸福をはかるとともに、母に感謝する”ことが趣旨になっています。子どもだけでなく、母に感謝する日としても覚えておくといいですね」
鯉のぼりや五月人形を飾る意味と、飾る際の注意点
男の子のいる家庭では、端午の節句に鯉のぼりを立て、兜や鎧の五月人形を飾ったりしますが、それぞれどんな意味があるのでしょう。
「諸説ありますが、鯉のぼりは、中国・黄河の上流にある龍門という急流の滝を登り切った鯉は龍になるという故事『登竜門』にちなんでいます。その鯉のように男の子がたくましく育ちますようにという願いを込め、男の子の立身出世を祈り、江戸の町人が鯉のぼりを立てたのが始まりといわれています。五月人形の鎧兜を飾る風習は、武家社会から生まれました。鎧兜は命を守る象徴で、男の子を事故や災害から守る意味があります」
また、飾り方にも知っておきたいことがあります。
「鯉のぼりと五月人形は一夜飾りにならないように、4月前半から4月半ばまでの大安や友引に飾りましょう。そして、5月中はそのまま飾り楽しんでください。ただし、飾り方や五月人形の種類などは地域によって異なりますので、その地域に準じてくださいね」。
ちなみに、初節句の際、鯉のぼりや五月人形は誰が贈るものなのでしょう。
「地域や親族間の慣習によって異なりますが、鯉のぼりや五月人形は初節句のときに、母方の実家が用意することが多いようです。これは、昔は嫁入りすると、嫁側の親は娘や孫に会う機会が少なくなるため、お祝いを持って会いに訪ねたからといわれています。とはいえ最近では、両祖父母から贈るケースや、自分たちで用意するなど、ケースバイケース。注意したいのは、同じ物がバッティングしないようにすることです。大きさや人形の好みなどもあるので、事前に双方の両親に相談して情報を共有し確認し合うコミュニケーションが大切です」
端午の節句にしょうぶ湯に入るのはなぜ?
端午の節句には、しょうぶ湯に浸かる風習もあります。
「端午の節句は、菖蒲が咲く季節です。菖蒲には強い解毒作用があり、血行を促し、腰痛や、神経痛を和らげる効能があります。また、菖蒲は香りがよく、これが邪気を払い、厄難を除くといわれています。そのため、湯船に菖蒲を入れて、子どもの無病息災を祈り、沐浴するようになったのです」。
子どもに限らず、自身や家族の無病息災を祈って5月5日にしょうぶ湯を楽しむのもおすすめです。
端午の節句の食べ物、柏餅とちまきの由来は?
端午の節句の食べ物といえば、大きく分けると東日本では柏餅、西日本ではちまきが主流になっています。それぞれどんな由来があるのでしょう。
「江戸時代に生まれた柏餅の柏の葉は、若葉が生えてから古い葉が落ちます。言い換えれば新葉がでないと古い葉が落ちないことから、子ができるまで親がこの世に存在するという意味を表し、“跡継ぎが絶えない”という縁起物とされています。そのため、端午の節句には子孫繁栄を願っていただきます。一方、ちまきは中国の詩人・屈原の命日(5月5日)に供えたものが始まりといわれています」。
縁起物だけに、この端午の節句にどちらも味わってみてはいかがでしょう。
初節句のお祝い、誰を招待する? 料理やお返しは?
初節句のお祝いには誰を呼び、どんな料理を準備するのがいいのでしょうか。
「初節句は祖父母などを招いてお祝いの膳を囲む人が多いようです。料理は、関東なら柏餅、関西ならちまきのほか、出世魚といわれるブリやマグロ、“人生がうなぎ上りになるように”という意味を込めて鰻、“勝男”と同じ読みの鰹、“まっすぐに伸びる”のが特徴のタケノコなどが、縁起が良い食べ物とされています。そのほか兜や鯉のぼりなどの形を模したケーキやちらし寿司などもお祝いの席を盛り上げてくれます。もちろん、鯉のぼりや五月人形も飾りましょう」。
また、いただいたお祝いのお返しも気になるところです。
「お祝いの品をいただいたときは、なるべく3日以内にお礼を伝えましょう。お礼状を書くのが一番丁寧ですが、最近では、電話やメール、SNSのメッセージなどでも問題ありません。早めに感謝の気持ちを伝えることが大切です。そして、節句の1カ月後以内に内祝いの品を送ります。のしは蝶結びの水引にして、表書きは"内祝い"にし、子どもの名前で贈るのが一般的です。内祝いの金額は、いただいた品物の額の半額から3分の1程度を目安にしましょう。内祝いの品は地域差や好みがあるので、贈る人のことを考えて選ぶ配慮が大事ですね。お祝いの意味を込めて紅白のタオルなど、実用的なものが人気です。またその年が印字されたお皿や置き時計なども記念となり素敵ですね。食べ物は食事制限やアレルギーなどがある場合もあるので、控える方が無難です。もちろん、先方の好みなどを知っている場合はその限りではありません」。
みんなで楽しくお祝いしたいものですが、都合が合わず、5月5日に実施できない場合もあるはずです。
「端午の節句のお祝いは5月5日の当日に実施するのが一般的です。ただし、当日にご家族が揃わないなどで実施できないこともあるでしょう。その場合は皆さんのご都合のいい日にお祝いすれば問題ありません」。
お祝いをする側のマナー:お祝いの品や相場は?
では、初節句を祝う立場になったら、どうすれば良いのでしょう。祖父母の立場から自分の孫の初節句をお祝いするなら、最近は両家で話し合って決めることが大切だそう。
「これまでは、鯉のぼりや五月人形は、母方の実家が用意することが一般的でしたが、最近は両家で折半するケースも増えているので、話し合って決めることが大切です」
なお、鯉のぼりや五月人形を購入する場合は、3月初旬から4月中旬までには家に届くように用意するのが一般的だそうです。
では、自分の甥や姪の初節句を祝う場合はどうでしょう。
「甥や姪、または親戚などの場合は、5,000~10,000円程度のお祝い金を包むのが一般的です。のしをかける場合、紅白で蝶結びの水引にし、表書きは、“初節句御祝”とし、初節句以降は“御祝”にします。とはいえ、お祝いは気持ちが第一なので、細かい決まりはありません」
やはり大切なのは、相手とコミュニケーションをとること。せっかくのお祝いですから、双方が気持ちよくお祝いを楽しむ機会にしたいですね。
新緑がまぶしい季節に伝わってきた風習を楽しんで
若葉がぐんぐんと成長していくこの時期は、まさに子どもの成長を祈るにふさわしい季節です。未来に思いを馳せるのはもちろん、しょうぶ湯に浸かり、柏餅やちまきを味わうという楽しみは手軽に取り入れることができ、空に泳ぐ鯉のぼりを見れば心に和やかさが訪れるはず。そんなゆとりをもって日常を楽しめたら素敵です。
取材・文/手塚よしこ
イラスト/篠塚朋子