訪問先で和菓子が出されたとき、戸惑うことなく上品に美しく食べることができるでしょうか? 和菓子といっても、練り切りの生菓子から、お団子や最中、おせんべいなど、実にさまざまあります。今回は、そんな和菓子の食べ方を、マナーコンサルタントの西出ひろ子さんに教えていただきました。
和菓子に欠かせない、黒文字と懐紙の正しい使い方を知ろう
まず、和菓子をいただくときに重要なアイテムが黒文字と懐紙です。黒文字は、和菓子をいただく際に添えられている楊枝のようなものです。もともとはクスノキ科の“黒文字”という木を削って作られたことから、茶道において“黒文字”や“黒文字楊枝”と呼ばれていました。持ち方は、右手の親指、人差し指、中指の3本で持ち、薬指、小指は添える程度にします。切るときは、左手で軽くお皿を抑え、ひと口大に切ります。
「黒文字がついていない場合は、“手で召し上がってください”という意味と心得ましょう」(西出さん/以下同)。
一方、懐紙は茶道(お茶席)で使われる印象がありますが……。
「懐紙とは、和紙を二つ折りにしたもので、懐に入れていたので “懐紙(かいし)”と呼ばれています。懐紙は、お茶席で使うように、お菓子の受け皿代わりに使ったり、お菓子をいただいた後に、口元や黒文字を拭いたりするほか、ハンカチやメモ用紙、包み紙などにも使える便利なアイテムです。受け皿代わりとして懐紙を使う際は二つ折りにして、使い終わったら持ち帰るのがマナーです。ぜひ大人の身だしなみとしてバッグに忍ばせておくことをおすすめします」。
練り切りやようかん、まんじゅうなどの生菓子の食べ方
季節感のある美しい練り切りやようかん、まんじゅうなど、黒文字が添えられている生菓子の食べ方を教えていただきました。
「利き手に黒文字を持ち、利き手でない方の手はお皿に軽く添えたり、小皿であればこぼさないように持っても構いません。断面を相手に見せないように、手前左側から黒文字でひと口大に切って、黒文字を刺していただきます。テーブルが離れていない場合は、お皿を持たなくても問題ありませんが、手を受け皿代わりにする“手皿”は、おこなわないように気をつけましょう。受け皿代わりになるのは、手ではなく、懐紙と覚えておくと良いですね」。
最中は、懐紙を添えて。お皿の上で割って食べる
パリパリした皮の最中は、上品に食べることが難しく感じる食べ物です。
「最中は、皮がポロポロと落ちるのが気になる人は懐紙を添えて口元に運ぶと安心です。お皿の上でひと口大に割って食べても良いですが、中に栗などが入っていると割るのが難しい場合もあります。割る時に皮は自然にこぼれ落ちると心得ておきましょう。気をつけることは、食べているときに零れ落ちる皮を受け止めようと、空いている手でつい手皿をすることです。手皿はおこなわないようにしてくださいね。和食では、小さいお皿は持ち上げてもよいので、懐紙がない場合で皮などの食べこぼしが気になるときは、お皿を持ち上げて食べて構いません」。
串団子は、串にこびりついた団子は気にせずに
片手で食べやすいように作られた串団子ですが、普通に食べても最後の一個が食べにくい食べ物でもあります。
「串団子に黒文字が添えられている場合は、黒文字を使って串から団子を抜き、抜いた団子を黒文字に刺して食べるのが美しい食べ方です。もちろん、串から直接食べてもマナー違反ではありません。どのようにして食べるかは、周りに合わせるのが最善です。串に団子がこびりついてしまった場合は、つい気にしてきれいに食べようとしがちですが、もともとそういう食べ物でもあるので、あまり気にしすぎないで大丈夫です。食べ終わった串の見た目が気になるようでしたら、懐紙を上からかぶせて隠すと良いでしょう」。
大福は、懐紙を使うと美しく食べられる
周りの粉が落ちやすい大福も、上品に食べるのが難しい和菓子です。
「大福は、かぶりついてもマナー違反ではありません。しかし、そうすると粉が口のまわりについてしまう可能性が高くなります。それが気になる人は、ひと口サイズにちぎって食べると安心です。手に粉がつくことを気にする人は、懐紙に大福を包み持つと手に粉がつくことを防ぐことができますね」。
柏餅・桜餅は、葉を食べる食べないは、本人の好みでOK
葉っぱで包んでいる柏餅や桜餅。食べるときに葉っぱも一緒に食べるのかどうか気になります。一般的には、桜餅の葉は食べ、柏餅の葉は食べない人が多いようですが、正解はあるのでしょうか。
「どちらの葉も“移り香を楽しむため”というのが本来の目的なので、葉を食べるか食べないかは本人の好みです。ただし、柏餅の葉は、硬くて筋が多いうえ、苦みもあるので、基本的に食べることは推奨されていません。柏餅の葉は、香りつけのほか、抗菌作用や餅の乾燥防止などの利点があります。桜餅は作り手によって思いが異なるため、購入する際にお店の人に食べ方を教えてもらうのもおすすめです。食べ方は、葉にくるまれているので、そのまま手に持って食べても問題ありません。お店などで黒文字が添えられている場合は、黒文字を使いましょう。葉を残した場合は、広げたままではなく、二つ折り程度に畳んでおくと美しく感じます」。
落雁やおせんべいなどの干菓子は、一口サイズでいただく
干菓子(ひがし)とは、水分の少ない乾燥した和菓子の総称で、“乾菓子(ひがし)”とも書かれます。干菓子には、落雁や金平糖、せんべい、八ツ橋、甘納豆などがあります。基本的に、干菓子は手で食べるものと考えましょう。小さいものは、そのまま口に。大きめのものは手でひと口大に割って食べましょう。
「大事なことは、手が汚れたときに、どうするかということです。おしぼりなど手を拭くものがあればいいですが、ないときのために、懐紙やウエットティッシュを事前に準備して持ち歩くことが大切です」。
和菓子の美しさと職人さんの思いを感じながら、じっくり味わって
実はたくさんの工程を経て作り出されている和菓子。しかし、その食べ方に『絶対にこうであるべき』というものは存在しません。和菓子には四季の美しさを表現したものが多く、それらをじっくりと鑑賞しながら味わう楽しみもあります。そんな、和菓子の深い魅力を感じながら、一緒にいただく相手と豊かな時間が過ごせれば幸せですね。
また、和菓子に限らず食べ方に迷ったときは、相手に合わせることが大切だといいます。
「和菓子の職人さんに伺っても、『おいしく食べてもらえれば、どんな食べ方でも問題ありません』とおっしゃいます。そこで大切なのが、周囲の人の食べ方に合わせることです。相手が手で食べているのに、自分だけ懐紙を使って食べては、相手に恥をかかせることになってしまいます。相手に合わせるのがマナーと心得て、迷ったときは、相手と同じ方法で食べれば、相手との距離感も縮むはずです」。
取材・文/手塚よしこ
イラスト/篠塚朋子