江戸の空間そのままに、気取らぬ味を楽しめる
日光街道へとつながる江戸通り沿いに建つ見事な店構えは、江戸時代の代表的な商家造り。傍に植えられた柳にも江戸の風情が溢れている、ここが「駒形どぜう」です。戦後、江戸時代の図面を元に建て直したという「出し桁造り」は、思わずスマホのシャッターを切りたくなるような美しさ。江戸時代は目の前を参勤交代の行列が通ったため、大名行列を見下ろす無礼を避けるために通りに面した2階には窓がありません。
暖簾をくぐって店に入ると江戸の雰囲気そのままの入れ込み座敷。藤畳に金板(かないた)と呼ばれる板状のテーブルがあり、炭火の上で煮えたどぜうなべが供されます。2階は椅子席の大広間と個室、地下1階は椅子席です。創業以来、働く人の食事処として朝早くから日暮れまで開けていた伝統に則って、今も昼営業と夜営業の区別なく通し営業です。「三社祭の時は、特別に朝7時から開けるのですが、朝からねじり鉢巻に法被褌姿で上がり込んで、ぱぱっとどぜう汁を食べて神輿を担ぎに行く、そんな光景が見られるんですよ」と、ご当主の渡辺さん。
また、駒形どぜうといえば、当時は貴重だった酒を惜しみなくどじょうに飲ませ、身をやわらかくする調理法が独特です。どぜう汁は、その後、ちくま味噌の「江戸甘味噌」を使った味噌汁でゆっくりと煮込み、どぜうなべの場合はさらに割下で煮るという手間をかけています。
そのために肝心なのがどじょうの目利き。全国各地の生産者を訪ね、常に質の良いどじょうを買い付けています。良いどじょうは丸々と太って脂がのっていても、しつこいということはなく、骨を感じないほどのやわらかさ。だからこそ臭みのないふわっとした身を楽しむことができるのです。
「今後も従業員全員が板場に立てる技術を持ち、接客も全員が行えるようすべての仕事を知り、つねに客席に目配りをしながらお客様に一番の食べ頃を提供できるように努力を続けていく」とご当主の渡辺さんは語ってくれました。