用途にぴったりの刃物に出合える専門店
使い手のこだわりに応えるものづくりを続けてきたうぶけや。切れ味を決める研ぎを手がけており、職人仕事が生み出す刃物の逸話には枚挙にいとまがありません。
明治の初め、東京に外国人居留地ができた頃、洋裁用裁ち鋏の依頼を受けてつくってみたところ、本場の切れ味をしのぐ出来栄えに依頼主が驚いたと言います。これが日本製の裁ち鋏の始まりと言われています。また、寄席などで披露される紙切り芸の名人であった初代林家正楽の紙切り鋏をつくったのもこちらのお店。昭和を代表する脚本家・エッセイストで料理好きでも知られた向田邦子も「よくいらっしゃって、ここで女将と話が弾んでいましたよ」。ミシュランが認める名店「すきやばし次郎」の包丁もうぶけや製です。時代を超え、一流の人に愛され続けているのです。
菱一紋の小ざっぱりとした暖簾をくぐって、毛抜きや糸切り用の和鋏といった小さなものから、包丁、裁ち鋏やキッチン鋏など大きな刃物までが多種多様に揃う店内へ。お店の方が教えてくれる使い方のヒントとともに、自分の用途にぴったりの刃物と出合えます。メンテナンスの確かさも客足が途切れない理由の一つ。店の奥の工房できっちりと研ぎ上げ、噛み合わせを調整し、「お分けした状態(お買い上げいただいた時の状態)にしてさしあげ」て持ち主のもとに戻ります。
関東大震災の後にあつらえたという総桑の商品棚や唐傘天井は今もそのままで、昭和50年に改築した際も建築当初の外観を再現。建築ファンや研究者からも熱い視線を集めています。