革新を続けて300余年。伝統と現代が生きる節句人形
一歩足を踏み入れると美しい人形がずらりと並ぶ店内。特に、取材に訪れた1月は、ちょうど雛祭りの前とあって、優美なお雛様たちが迎えてくれました。一つひとつの人形のお顔をじっくり見ていくと、それぞれに個性と美しさが感じられ、CMでお馴染みの「人形は顔がいのち」のキャッチフレーズにも納得です。
「顔には職人の技術が顕著に現れます。顔の美しさが人形の品質を決めると言っても過言ではありません」と12代目ご当主の山田德兵衞さん。どのお雛様を選ぶか、その好みは人ぞれぞれですが、吉德の人形はいずれも気品のあるお顔です。
ちなみに、雛人形は分業制でつくられます。顔や髪、からだ、手足から着物や道具に至るまで、それぞれの部位に複数の職人集団が関わり、人形が出来上がるまでの工程は数百にものぼるそう。吉德は、いわばプロデューサーあるいはディレクターとして、こうした人たちにイメージを伝え、指示を出して吉德ならではの人形をつくり出しているのです。そして、時代の要求を敏感に取り入れながら、常に新しい切り口でお客様の要望に応えてきました。
吉德の本店4階には「吉德これくしょん展示室」があり、ここでは日本の人形玩具研究の第一人者だった10代目がコレクションした人形や資料を見ることができます。所蔵品の多くが台東区有形民俗文化財になっている貴重な品々は、まさに圧巻。日本の人形の奥深さを知ることで、人形選びはさらに楽しいものになりそうです。