Tokyo

05/16 (木)

生地からこだわりオリジナルの素材を開発。江戸時代の歌舞伎役者にも愛された浴衣の老舗「竺仙」【後編】

創業天保13年(1842年)。180年の歴史を持つ浴衣の老舗「竺仙」。「自ら作って自ら売る」ことにこだわり、素材から開発・生産を続けています。江戸時代のファッションリーダーであった歌舞伎役者から広まった雅やかな浴衣は、その品質の高さから現在も多くの人に愛されています。そんな「竺仙」の浴衣がどうやって生み出されているのか、6代目の小川茂之さんにお話を伺いました。

前編より続き〜

林:引き続き、素材や製法についてお聞きしていきます。

小川さん:竺仙は染上がり追求しておりまして、生地にはかなり思い入れを持っております。先ほどの「コーマ地」だけでなく、透け感のある「綿絽」という生地もあります。そしてこちらは、触感が違う「綿芭蕉」。夏のものなので、見た目の涼やかさもすごく大事で、「綿絽」とはまた違う触感を感じる素材になっております。

林:素材もたくさん種類があるのですね。

小川さん:こちらは綿の紬です。「コーマ地」に比べると、少々厚みを感じる優しい触り心地の生地になっています。少し早めの初夏から初秋の9月くらいの時期にお召しになる方も多いです。決して地厚の生地ではないので、もちろん夏の時期にも着ていただいて大丈夫です。そして、縦に透け感を出す織りを入れ、より涼感を誘うような「かげろう」という素材もあります。

林:では、技法についてさらにご紹介いただきます。

小川さん:うちで作っている浴衣は、注染だけではなく他にも多くあります。こちらは「長板本染め」です。今はだいぶ数が少ないですが、本藍で染めたものです。ちょっと柄が細かすぎて、見ている方にはわからないかもしれませんが。

林:もう本当に素晴らしいですよ。皆さん竺仙さんに行ってみてください。この柄は手元で見てもらいたいですね。

小川さん:ぜひ直に見ていただくのが一番だと思います。染物って普通は片面しか染めないのですが、こちらの藍染に関しては、表と裏の両方に柄を施します。つまり工程が2倍になってしまいますし、さらに表と裏がきっちり合わなければ商品になりません。それだけ大変なものなのです。

林:これは本当にすごいことで、価格帯がお安めの浴衣だと、裏側を見ると真っ白だったりするわけですね。表しかプリントされてないんですよ。これは表も裏もピッタリ合わせて丁寧に染めてあるので、ものすごく大変ですよね。

小川さん:そうですね。本当に職人さんあっての品物になりますね。あとは「引染め」という技法を使った商品です。バリエーションとしては、「奥州小紋」、「紅梅小紋」、「松煙染小紋」の3種類があります。紅梅小紋に関しては、透けの強い格子状の素材が使われていて、人の肌に当たる面積が少ないので、着た人が涼しさを感じるような商品になっております。

林:見た目だけじゃなくて機能的にも涼しいということですね。

小川さん:はい、まさにその通りです。そして同じく「奥州小紋」ですね。これはぱっと見、地味に感じるかもしれませんが、意外に肌に馴染むんですよね。何種類もの微妙な色の違いがある茶色の糸で織られてまして、作り上げるのがなかなか難しい素材です。実際に手に取って肌に当ててみて、感じていただきたい素材です。

林:やっぱり所有感というか、浴衣を持っていて嬉しいなという感じになると思います。いい素材で自分の浴衣を仕立てると、すごく愛着が湧くんじゃないかなと思います。

小川さん:こちらは「しごき染め」という技法で作られた「絹紅梅」と「麻小紋」です。実はこの「麻小紋」は、素材の手配から難しくて、常にある商品ではないです。「絹紅梅」に関しては、なるべく毎年作れるように準備をしている商品です。先ほどの「紅梅小紋」と同じく、格子状の素材になっているのですが、絹が85%ということで、軽さが断然違います。着たときの軽さと涼やかさという面では、より極上の着心地を感じていただけると思います。こちらもオリジナルの素材になります。

林:勉強すればするほど奥が深くて面白いですね。

小川さん:生地も柄も、季節に合わせて使っていただければと思います。

林:竺仙の皆さんは浴衣の知識をたくさんお持ちなので、お話を聞いているのもすごく楽しいんですよ。なので皆さんぜひたくさんお話を伺いながら、自分に合ったものを探されると、自分だけのものが見つかるんじゃないかなと思います。

小川さん:このようにたくさんの種類がある中でも、技術が途絶えてしまい生産ができなくなる商品もございます。こちらは、現在は作られていない「籠染め」という技法で作られた浴衣です。昔はこういうのもありました。表と裏で違う柄が染められます。

林:今その「籠染め」の型紙を行燈として再生することもなさっているそうですね。

小川さん:はい。浴衣は途絶えても、少しでも記録を残そうということで、籠染めの型を行燈として再生した商品もあります。

林:実は私もこれを持っておりまして、すごくいい感じの行燈でございます。和室にも洋室にも合います。籠染めの浴衣は入手することができませんが、行燈は入手できますので、お手に取ってみてはいかがでしょうか? その籠染めの話にも繋がってくると思いますが、職人さんの後継問題はどうなっていますでしょうか? 職人さんも高齢な方が多くなってきているんじゃないですか?

ブランドとはお客様の期待値を超えて感動していただくことの積み重ね

小川さん:後継問題については心配した時期もありましたが、こういうものに興味を持って、扉を叩いて入ってくる若い方も結構いらっしゃるんですよ。あとは、家族で職人さんをやっている方も多いですね。どこかの会社に入って働くよりも、自分のお父さんの姿を見て、この仕事を残さなければという思いで、技術を教わりながら物作りをしている方もいます。ですから、そういう点では安心してやっております。

林:チャレンジしたい方がいらっしゃったら、ぜひ飛び込んで来ていただければというところですね。竺仙さんが考えるブランドについてお伺いできればと思います。

小川さん:自分で接客していて思うのですが、お客様の期待値を超えて感動していただくことの積み重ねですよね。その積み重ねが繋がってるのかなと感じております。

林:最後に江戸東京ブランド協会のご紹介もお願いします。

小川さん:まだできたばかりではありますが、それぞれこだわりの詰まったものを作っているお店ばかりが集まった協会です。東京は特にこういうお店が多いですから、これからもどんどん会員が増えていくと思います。一緒に頑張っていく仲間が増えればいいなと期待して、楽しみにしております。

林:では最後にまとめの一言をお願いできますか。

小川さん:ここ2〜3年、なかなか着る機会が少なかったかもしれませんが、ぜひちょっと気分を変えて、「今年は浴衣を着よう!」と思い立っていただければ本当に嬉しく思います。

林:皆さん夏前にぜひお店に行ってみてください。本日はありがとうございました。

高い技術の職人さんによって作られている竺仙の浴衣。職人さんが丹精込めて作った生地を、実際に目で見て手にとって、自分だけのお気に入りを見つけてみたいですね。

※この対談を動画で見たい方はコチラ

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