Tokyo

11/05 (火)

社員の反対も押し切った? 『雷おこし』の老舗『常盤堂雷おこし本舗』が考える、改革することの重要さ

甘くて香ばしい日本伝統のお菓子、雷おこし。創業200年以上の老舗、『常盤堂雷おこし本舗』は浅草雷門の真横に本店を構え、浅草土産の代表としてインバウンドも活況なその場所に元気と楽しみを与え続けてきました。そんな同社は、どんなイノベーションに取り組み、何を大事にしてお菓子作りに向き合っているのでしょうか。

具体的な商品へのこだわりや現在取り組んでいる施策、雷門との歴史的秘話など、貴重なお話を、『常盤堂雷おこし本舗』戦後三代目ご当主の穂刈久米一氏より伺いました。

前編より続き〜

『常盤堂雷おこし本舗』のイノベーション──あえて“『雷おこし』をスナックにする”

林:『常盤堂雷おこし本舗』のイノベーションについてお伺いできますか?

穂刈さん:先代は高度成長期の真っただ中を経験していたため、工場を3拠点設け、地方営業所も札幌、大阪、福岡と各地に設けました。一方、私は工場を1つにし、営業所を東京に一極集中させ、弊社のコンパクト化を進めました。それはバブル崩壊の経営難によるものだけでなく、浅草寺の参拝土産としての意義を確立するため、まだ経営者として未熟な私が自分を知り、力を注ぐ場を絞るためでもありました。

林:私も経営者の端くれなのですが、自分を知るというのはすごく難しいですね。

穂刈さん:私は36歳で会社を継いだものですから、周りはみんな年上で圧倒されました。今でもそのときの感覚が抜けません(笑)。

林:会社をダウンサイジングするプロセスもさぞかし骨が折れたのではないでしょうか?

穂刈さん:経営者としては、やはり社員の前で頭を下げて「工場を閉鎖する」と伝えるのは一番つらかったですね。

林:経営者として雇用の維持をどうするかというテーマは常に心を砕く点だとお察しします。そのプロセスにどのくらいの期間がかかったのでしょうか?

穂刈さん:およそ5年です。

林:その後41歳くらいから独自路線を模索される段階に入られたのですね。

穂刈さん:『雷おこし』の触感をソフト化する施策については、先代の番頭から「若は『雷おこし』をスナックにするつもりか」と猛反対を受けました。しかし私も強く時代に合わせた改革を主張し、膨化力を高めるために主原料であるうるち米を粉にしたり、小麦粉を混ぜたりとプロセスを変更し、ふわっとした食感を生み出すことにチャレンジしました。

林:『常盤堂雷おこし』を今・未来につなげるため、“スナックにする”ことにあえて踏み切ったということですよね。素晴らしい決断力だと思います。

穂刈さん:副原料として、ピーナッツや海苔以外に、キャラメルアーモンドやメープルココナッツなどを用いるようになったのも私の代からです。本日は、夏限定商品の『塩おこし』を持ってまいりました。実はこの箱に描かれたイラストを考えたのは私の息子、専務の雷太なんです。

林:雷太さん、すごいですね。

穂刈さん:私は最初この風神雷神様のデザインを見たときに猛反対したんです。「風神雷神というのは太ってなきゃいけない。こんなやせた貧弱な雷神様があるか」って。しかし、このデザインが非常に好評を博しました。やっぱりもう私が考える時代じゃないと思いましたね。

林:穂刈さんが、先代の番頭さんに「『雷おこし』をスナックにするつもりか」と反対を受けたエピソードと重なりますね。

穂刈さん:私が番頭の立場になったんですね(笑)。

林:今までのファンは以前の太った風神雷神様に親しみ、はじめて浅草に訪れたような方は新しいデザインを「かわいい」と手に取っていただけるというわけですね。

美味しいからギフトとして贈りたいという気持ちを大切に

穂刈さん:私のモットーの一つに「ギフトはデイリーからはじまる」というものがあります。お土産や進物は、「自分が食べて美味しかったから、お世話になったあの人に味合わせてあげたい」という気持ちから始まるんですね。

林:わかります。

穂刈さん:やはり菓子屋の当主としては、デザインや色合いでなく、「自分が食べておいしいから」とう感覚を大事にしたいと思っています。そのため、雷門の本店ではできる限り衛生面やコロナ対策を徹底したうえで、常に試食をお出ししているんです。そこで『塩おこし』のような新しい商品もまず賞味いただき、「美味しいから」ギフトにしていただきたいと考えています。

林:やはり美味しいからギフトにするというのは納得感がありますよね。こちらのお菓子缶には勇ましい私たちのイメージ通りの雷神様が描かれています。

穂刈さん:まだ『雷おこし』が縁起菓子だということは十分に知られていません。浅草の観音様にお参りして、『雷おこし』を買うと「家を起こして名も起こせる」という点をもう少し協調しながら商売していくというのが私の今後の課題です。

林:そもそものコンセプトから考えられているんですね。

穂刈さん:関西の方では、「おこし」はうるち米ではなく粟で作られていて、粒子が細かいんですよ。また、関東のおこしは一口サイズですが、関西のおこしは『板おこし』といって少し大きいんです。粒子が大きい関東の「おこし」は『フォーチュンクッキー』のような縁起菓子なんだと、インバウンド獲得に向けて訴える必要もあるんじゃないかと考えています。

林:缶を開くと、余計な着色をせず、白砂糖と黒糖の2種類の味が楽しめる一口サイズの雷おこしがぎっしり詰まっていますね。この缶のデザインがかっこいいので、空になった後も使いたいという方は多いのではないでしょうか。

「見せる工場」をオープンし、本質に向き合う

林:さて、製品に関する面のほかに、イノベーションに取り組まれたことはありますか?

穂刈さん:弊社は本店のほかに『雷5656会館』というドライブインも運営しているんですが、もっとおこしのことを皆様に知っていただくためにそこで「見せる工場」をオープンしました。おこしの製造過程の見学やおこしづくり体験を楽しんでいただける施設です。それまで運営した飲食事業からは撤退し、菓子製造販売やおこしを身近に感じていただく活動に注力することにしたんです。

林:穂刈さんの経営の方向性に、おこし屋さんという本質にフォーカスしていくというテーマがあるのですね。

穂刈さん:おこしの材料となる、甘い味がつく前の『おこし種』にもいろいろな使い道があるんです。例えばスープの浮き実だとか、チョコレート菓子のセンターなど。私は今、水あめ以外の材料で固める「甘くないおこし」の可能性も模索しています。おこしという本質にフォーカスして、さまざまな改革にチャレンジしていきたいですね。

林:そうして経営方針がはっきり示されると従業員の皆さんも安心して働けますし、周囲の理解も得やすいですよね。

穂刈さん:せがれの雷太も本業に注力する私の方針に賛成してくれています。

林:インバウンド最盛期には『雷5656会館』に大勢の海外旅行者が集まっていました。きっとコロナ禍が開けた今後は人が戻ってくるでしょう。日本国内の皆さんもぜひ今のうちに行ってみていただきたいですね。最後に、穂刈さんより、読者のみなさんへのメッセージをいただけますか?

穂刈さん:まずはよりたくさん浅草に来ていただいて、縁起菓子である『雷おこし』に触れていただければと思います。『雷5656会館』の『浅草工房』では弊社の社員がおこしづくりを案内し、私も土日は実演販売をしていますので、ぜひどんどんお越しください。時間がありましたら、ご自身でおこしづくり体験もしていただけたらと思います。

「伝統は改革である」「ギフトはデイリーからはじまる」。サーフィンを趣味にしている快活な穂刈さんのモットーには、老舗であること、たくさんのファンがいることに安住せずより人々を楽しませたいという精神を存分に感じられます。皆さんもぜひ浅草に訪れた際は、『常盤堂雷おこし本舗』を訪れ、『雷おこし』のおいしさを体感してみてはいかがでしょうか。

※この対談を動画で見たい方はコチラ

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