着物の帯締めなどでおなじみの組紐は、実用性を兼ね備えながら人間の手で生み出される美を極めた、日本文化の粋でもあります。着物を着る方はもちろん、そうでない方もインテリアや店頭ディスプレイ、各種メディアなどで目にし、心を奪われた経験があるのではないでしょうか。1963 (昭和38)年、日本橋にて創業された「龍工房」は、130年以上前より家業として組紐の技術を極め、組紐文化を支えつづけてきた老舗です。その大切にする言葉や組紐のイノベーション、父である二代目との関係性などについて、龍工房の若き三代目、福田隆太さんに伺いました。
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後半では、龍工房のイノベーションの歴史について伺っていきます。
組紐の技術は300種類以上ございます。そのなかでも、いわゆる正絹(しょうけん)、シルクを用いるのが帯締めの基本です。ただし、その形状も極太のものや、中が空洞になっているものなど多種多様であり、技術の掛け合わせや異なる工芸品とのコラボレーションなども生まれています。
素晴らしいです。
組紐の形状に技術を凝らしたこちらの作品では、組紐を、渦を描くように二重かつ中空で組み進め、途中からは「平中空」に形状を変えています。空洞があるので、ペンケースとしても使っていただけるようになっています。
非常に巧みな技術・工夫が施されていそうですね。
既存の方法の掛け合わせや全く新しい技術の創造など、組み方を生み出すことにさまざまな角度から挑戦しております。
新たなパターンを生み出すには、非常に修練が求められるとお見受けします。
つづいてご紹介する製品は、世界的歌手・女優のレディー・ガガさんが愛用してくださっている「組紐のヒールレスシューズ」です。昨年・今年と2年連続で現代美術家である舘鼻則孝さんとコラボレーションして、おつくりいたしました。私が個人的に愛好する「スタッズ」を、組紐を結ぶことにより表現しております。また、赤い紐の表側に、青い紐の裏側が織り交ぜられており、さりげなく布地の裏の色を表現に用いる“羽裏の文化”も取り入れております。
こちらは東京都による『江戸東京きらりプロジェクト』の一環として発信されており、自治体も折り紙付きの素晴らしいお品ですね。
レディー・ガガさんの使う商品を自分がつくるとは思っていませんでした(笑)。伝統工芸をやっていると、カメラ、化粧品、広告などいろいろなジャンルの「素敵だな」と思っていた方々と自分の表現次第で仕事ができるんです。今、私は大学で講義をさせていただくことがあるのですが、就職などと並んで「職人になる」という選択肢も持っていただくのがひとつの夢となっています。
職人が「かっこいい」など憧れの対象となる世の中になるとといいなと思います。
イタリアの有名ブランドからご依頼をいただき、製作した商品もございます。こちらは、中央の列には皮、その周りには正絹と別々の素材が組み合わされており、表現を工夫した例のひとつです。
組紐は無限大の可能性を秘めている。活用の場は、内装・インテリアにも波及
二代目からもお話を伺ったのですが、龍工房では金属を編むなど本当にいろいろな試みをされていますよね。それだけ組紐には広い可能性があるということですね。
あまり社外には出せない情報もあるのですが、スチールや銅線、磁性糸、蓄光糸、抗菌糸などさまざまな素材の可能性が、特に最近は広がっているなと感じております。
立体的かつ素材も多様とは。組紐はまさに無限大の可能性を秘めていますね。
フランスの老舗メゾンが大阪心斎橋でディスプレイを行った際には、7メートル近い組紐のカーテンを550本吊り下げました。総重量は2トンとなったそうです。このように、店頭ディスプレイなどのご依頼もいただくことも最近はございます。
みなさん、一見の価値は十分にありますので、ぜひ店頭へ足を運んでご覧ください。
有名ブランドからいただく名誉な仕事であるとともに、多くの道行く方々に見ていただき気に留めていただけることがありがたかったですね。組紐文化の普及に努めるのが目的ですから、まずは興味を持っていただくのが重要と考えております。
着物に用いるという従来の用途だけでなく、インテリアや店舗の装飾など新しい可能性が広がっているのですね。
内装・インテリア関連では、「組紐を使った照明」という製品もあります。デザイナーの方と共同でデザインに取り組み、組んだ後に組紐に「結び」の形を取り入れる工夫もしています。
すごいですね。製作期間はどのくらいかかるものなのでしょうか?
帯締めの作品のなかには早くて6~8時間でできあがるものもありますが、通常は1週間、長く時間がかかる製品では1カ月必要な場合もあります。
それだけ時間も手間もかけて仕上げられた作品なのですね。
アニメや海外にも広がる組紐文化。龍工房の挑戦はつづく
三代通してイノベーションをつづけられてきた龍工房さんの組紐は、スポーツ競技のメダルリボンなど非常にさまざまな場面で、重宝されています。そのような文化間のつながりを広げていくにあたって、未来に描いているイメージはございますか?
伝統工芸や着物・呉服の業界は決して、右肩上がりで成長している業界ではありません。これまで成り立っていた商売の仕組みが崩れていくのを感じています。そこで、しっかり腰を据えてものづくりに向き合いながらも、発信・表現の方法はより工夫していきたいと考えています。私たちの一番の使命は看板を残すことですから、そのためにチャレンジをつづけることが大事なのかなと思います。
龍工房さんがつづいていくこと自体が“技術の継承”につながります。何百通りの組み方の技術や、帯にとどまらないサイズのバリエーションなど、これまで積み重ねてきたことは資産であると同時に可能性を開く扉とも言えそうですね。たとえば、海外市場の可能性も広がっているとお伺いしました。
コロナ禍以前は、フランス、イギリス、イタリアなど欧州を中心に、年2回ほどのペースで伺っておりました。弊工房では映画『君の名は』の公式グッズを制作しているなどアニメ文化との縁もあり、海外の方々にとっては、アニメが組紐(silk braid、braided cord)について興味や魅力を感じていただくきっかけにもなっています。まだまだ浸透の余地はありますが、展示会や大使館のイベントなども通じて、一過性ではない継続的な働きかけを行っていかなければならないと思っています。そのためには、やはりチャレンジしつづけることを大切にしていきたいですね。
商品開発だけでなく流通やプロモーションに関しても新たな工夫に取り組んでおられますよね。着物の帯締のほかにも、インテリアなど組紐が取り上げられる場は広がっているとお見受けします。
おかげさまでメディアで取り上げていただくことも増え、まずは使っていただくことが一番ですから、たいへんありがたく感じております。そのうえで、父や周囲には「天狗になってはいけない」という言葉をいただいており、また私自身まだまだ若輩者ということを肝に銘じ、謙虚であることを心がけねばならないと考えています。
さまざまなチャレンジに取り組まれている龍工房さんの今後が非常に楽しみです。最後に龍工房さんとどこからご縁を紡げばいいのかなども含め、読者の方々にメッセージをお願いいたします。
以前はみなさまと直接お会いし、組紐に触れていただく機会としてワークショップを開いておりました。コロナ禍により休止となってしまってはいるのですが、Instagramでの発信や我々が力を入れて製作したディスプレイなどぜひご覧になっていただければと思います。写真もどんどん撮ってください(笑)。帯締めなど弊社でつくった商品を使っていただいているご様子を町中などで偶然見かけるのが私どもにとって、一番うれしい瞬間です。ぜひ今後ともご愛顧のほどよろしくお願いいたします。
着物をお召しになる方はもちろん、そうでない方も店頭ディスプレイやアニメなどで、「組紐を見かけた」という機会は多くなっているのではないでしょうか。龍工房三代目、福田隆太さんの組紐文化にかける想いや、130年以上かけて練り上げられた技術を知り、その興味はより深まったのではないでしょうか。
※この対談を動画で見たい方はコチラ
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