Tokyo

12/04 (水)

佃煮だけにこだわらない。洋風の味も取り入れ、販路も拡大。「新橋玉木屋」の挑戦

あったかいごはんにぴったりの佃煮やお茶漬け。多くのメディアで話題となったアッと驚く洋風ふりかけ。ワインとマッチする秋刀魚ゲランド塩・いちじくグラッセ……。創業240年の新橋玉木屋は、私たちの食卓を彩る食品を老舗の技とビビッドな感性で生み出しつづけています。玉木屋の歴史やモットーを皮切りに、そのイノベーションの秘密について十代目、田巻恭子さんに伺いました。

前編より続き〜

林:ここからは、新橋玉木屋のイノベーションについてお伺いしていきたいと思います。

田巻さん:これはフランスゲランド地方の完全天日塩でつくった『秋刀魚ゲランド塩』という商品です。頭から骨ごと召し上がっていただけて栄養価も高く、ワインともマッチします。私が社長に就任したのは、ちょうどコロナ禍のピークの時期だったんです。外食ができないなかご自宅でワインを召し上がる方が増えたと耳にし、何か喜んでもらえるものはないかということで、うちの『秋刀魚の山椒煮』という人気商品にヒントを得て開発しました。

林:やはりコロナ禍をきっかけに新たな試みをスタートされた方は多いですが、やはりワインというのが、ひとつ大きな着眼点なのかなと感じます。

田巻さん:百貨店のなかでも佃煮売場のなかだけでできることは限られてしまうので、ワイン専門店にもさらっと置いていただけるような商品を目指しました。結果、新規の販路開拓につながり、玉木屋のもともとのお客様にも、そうでない方にもアプローチできたかなと思っています。

林:もともと玉木屋さんは秋刀魚の山椒煮をつくられていて、素晴らしい秋刀魚を仕入れるルートや目利きをもたれていました。そこにゲランド塩をかけあわせることで新たな加工の可能性を見出し、新しいお客様との接点を見つけに行かれたということですね。

田巻さん:ほかにも『世界のふりかけ』などちょっと洋風な商品もご提供しています。普段佃煮を召し上がらない若い方は、逆に玉木屋をふりかけ屋さんだとおもってらっしゃる場合もあるんですよ(笑)。「佃煮屋さんだったんですね! もともとは」なんておっしゃっていただいて。また、若い方からご両親やおじいさま、おばあさまにお贈りいただくケースも増えています。このように、玉木屋としてはいろんな商品を通していろんな層の世代の方から間口を広げていきたいと思っています。

林:みなさん、玉木屋のふりかけって、具がどしっとしていて本当にすごいんですよ。「ふりかけ」の先入観が覆されました(笑)。ぜひみなさん「老舗通販」で検索して、買って、食べて、体験してみてください。ふりかけと佃煮って近接領域だと思うんですが、魚介の仕入れや加工など、どちらに適したもの・ことをチョイスするかですごくセンスが問われますよね。

田巻さん:ふりかけは、先代である私の母の味だったんです。『イタリアントマトのふりかけ』も、自宅で食べる用のパスタソースをもとに母が遊び心でつくってみたものでした。佃煮のなかにポツンとイタリアントマトという状態だったので、最初はなかなか日の目を見なかったんですが、そろそろ諦めようかと思ったときに、秋元康さんが雑誌『BRUTUS』で紹介してくださり、今では洋風のラインナップも増加しています。こうした大胆な改革は洋風のものにも敏感な母の感覚のたまものですね。

林:私も自分の会社を経営していて、これまでと全然違うことにチャレンジするのって大変なことを日々実感しています(笑)。でも、「もうダメかな」と思ったときに、神様って道を開いてくれたりもするものですよね。

田巻さん:本当にそうですね。なので、母の勇気、改革精神は本当に見習っています。

母譲りの改革精神を活かし、新商品を開発

林:お話を伺っていてもゴッドマザーといった感じで、すごいですよね。チャレンジに対する勇気ある姿勢は、『秋刀魚ゲランド塩』の開発などに現れている通り、十代目にも受け継がれていますね。私、『いちじくグラッセ』もいただいたんですが、あの商品は、玉木屋さんのなかでどういう位置づけなんでしょうか?

田巻さん:母の時代、いちじくといえば日本の家の裏庭にある木というイメージがあったそうなんです。一方、ヨーロッパでも「人類が初めてプランテーションした」とか「クレオパトラが愛した」など歴史ある果物として知られています。そこで、「いちじくの甘露煮」にワインに合うようなおしゃれなイメージを付与したいという思いで『いちじくグラッセ』は生み出されました。

林:本当においしくて、ワインに合うんですよね。ワインファンってトリッキーな方が多いので変化球の取り合わせをすごく面白がってくれるんです。それがすごく痛快で……。系譜では甘露煮だけど、そこから海外留学した子、という感じですよね。ほかにも何か玉木屋のチャレンジはありますか?

田巻さん:私が継ぐ前から自社サイトやECには力を入れてきていました。それがコロナ禍で店舗から人々の足並みが遠のいた際、助けになりましたね。今後も強化していきたいと思っています。

林:今後の展望についてお伺いできますか?

田巻さん:2022年8月22日に新虎通りに新橋本店を移転することになりました。今の良さを大切にしながらも、新しさを加えたお店にしたいと思っていますので、ぜひ皆さん楽しみにしてください。

林:私もこれまで以上にお伺いできればと思っています。最後に、みなさんにメッセージをお願いできますか?

田巻さん:本日、4月6日にちょうど240周年を迎えることができました。これも本当にみなさまのおかげだと思っております。ぜひ新しい新橋本店にもお立ち寄りください。移転後も、ぜひよろしくお願いいたします。

林:玉木屋さんの商品は、スタンダードなお茶漬けも最高なんですよね。おうちでお酒の締めを楽しむ際にもぴったりですよね。

田巻さん:はい。ちょっとゆず風味のお出汁で香りも良いので、お夜食でもさっぱり召し上がっていただけると思います。最近はいろいろなお茶漬けの商品が増えてきていると思うんですが、玉木屋の懐石茶漬けをぜひ一度召し上がってみていただきたいですね。

林:具がしっかりしていて、高級感があって、お客様などにお出ししても喜んでいただけるんじゃないかと思います。

佃煮に限らず、ワインにも合う商品など洋風の味に果敢にチャレンジする新橋玉木屋。その改革精神は、九代目譲りのもの。親から受け継いだ大切なものを胸に、新橋玉木屋の挑戦はこれからもつづいていきます。

※この対談を動画で見たい方はコチラ

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