Tokyo

11/22 (金)

創業以来変わらぬ製法。受け継がれる職人技で編み上げる江戸ほうき「白木屋中村傳兵衛商店」7代目の中村悟さんに聞く<後編>

天保元年(1830年)創業の「白木屋中村傳兵衛商店」は、手作業で草を編み上げて作る「江戸ほうき」の老舗です。電気を必要とせず、プラスチックを使わない昔ながらの掃除用具は、SDGsが叫ばれる今の時代に再注目されるアイテム。江戸ほうきを代々作り続けている、「白木屋中村傳兵衛商店」7代目の中村悟さんに、「agataJapan tokyo」を運営する株式会社スターマーク・代表の林正勝がお話を伺いました。

前編からの続き〜

国産のほうき草の栽培も安定してきた

林:後半では素材についてもお伺いしたいです。その後、国産のほうき草栽培はどうですか?

中村さん:山形県東根市でほうき草を栽培するようになって、今年で5年目になるのですが、商品になる草がだいぶ多くなってきました。栽培にそんなに手間がかかるわけではないのと、収穫の時期がちょうど果物の端境期なのが、作っている方にとっても好都合なようです。あと、草が固くならないように種ができる前に収穫するので、獣害がないのもいいところです。

林:今、農家さんが抱えている問題の一部をブレークスルーしてしまったんですね。やはり作ってくれるところが増えた方が嬉しいですか?

中村さん:そうですね。職人の数もあるので、うちが作れる量は年間約2000本とそんなに多くはないんです。でも、ほうきは「電気を節約する」「CO2の排出がない」「音がしない」など、環境負荷の少ない商品。世の中に使っていただく方をもっと増やしたいと思っています。良質な商品を作るお店を増やすには、まずは材料の供給が必要ですよね。そういう意味でも、うちは先頭を走らなければいけないと思っています。

1人前の江戸ほうき職人になるまでにどれくらいかかる?

林:触って草の違いがわかる職人に育ってもらうことが必要というお話ですが、何年ぐらいでわかるようになるものですか?

中村さん:1年から3年ほどかけて作っているうちに1種類は習熟するのですが、一生懸命やっている人間とそうでない人間では全然違いますね。ただ才能はあまりいらないんですよ。とにかく一生懸命ずっとやり続けることが大事。それと、草を乾燥させないように制作現場には冷暖房がないんです。だから夏場は暑いし、冬場は寒い。唯一OKなのが、夏は草に風がかからない小さい扇風機と冬は電気座布団のみです。

林:そういうご苦労をされて、やはり皆さん10年くらいかかりますか?

中村さん:そうですね。最低10年。仕事を覚えるというのは大体みんなそんなものですけどね。

林:もう一つ用意していただいた写真がこちらのシュロですね。

中村さん:シュロのほうきというのは、関東の方はあまりご存知ないと思います。江戸時代の中期から後期ぐらいまでは、基本的に草のほうきはなく、シュロのほうきだけだったんです。シュロというのは、幹に毛深い皮がゴワゴワ生えているヤシみたいな木です。その皮を剥いて丸めてパーツにして作ります。柔らかいので細かいホコリがよく取れますし、強い木製のアクがあるので木にツヤが出ます。

中村さん:ただ、板の間で使う分には非常にいいものなのですが、使い始めから1年くらいは木の皮の中に詰まった茶色い粉が出続けるという難点がありました。江戸の後期から末期ぐらいに、経済的に豊かな人が増え、それまで高価だった畳を家の中に敷くようになったのですが、畳をシュロではくと粉が入ってしまうので使えないんですよ。ライフスタイルが急激に変わらなかった関西や九州に対し、江戸は急激に発展したので、「すぐに畳に使えるほうき」として草のほうきが求められるようになりました。ですから草のほうきはまだ200年ぐらいの商品なんです。

ほうきはどのようにメンテナンスすればいい?

林:自宅で使うときにほうきのメンテナンスはどうしたらいいですか?

中村さん:吊るして保管するのがまず絶対条件です。そして先に癖がつき始めたら、霧吹きでたっぷり水を吹いて、手ぐしで整えるとだいぶ戻ります。段々削れて短くなると、細かい埃が跳ねて取り辛くなってくるので、先だけハサミでちょっと切り揃えてください。そろそろもういいかなとなったら、もう1回切り揃えて、庭掃き用に降ろします。そういうふうに扱うと大体10年ぐらいお使いいただけます。

林:先ほどもお話いただきましたが、環境負荷が非常に少ないですよね。それはブランドの話にも繋がっていくと思うのですが、白木屋さんがお考えになるブランドとは何なのでしょうか。

中村さん:お客様に100%満足していただける商品をなるべく多く世の中に提供していくのが私どもの仕事だと思っています。ネットでも買えるのですが、ほうきのランクによって弾力や重さが違うので、できれば店頭に直接来て一番使いやすいほうきを選んでいただくのがいいですね。そのためにたくさんの種類を用意しておりますので、ぜひ試し履きだけでも店頭でやっていただけるとありがたいです。

林:実際にほうきを手に取って、これはどういった品物なのかお話しながら納得してお買い求めいただく。そういう積み重ねで信頼を得ているところがブランドなのですね。では、「江戸東京ブランド協会」についてもご紹介いただけますでしょうか。

中村さん:「江戸東京ブランド協会」というものが2021年に立ち上がりました。非常にいい技術を持っていながら、今の世の中にキャッチされず、廃れていくものがどうしても出てきます。そういうところに対して、技術や商品の維持発展を僕らが一緒にやって、さらにいい東京、いい日本を作り、いろんな選択肢のある豊かな世界にしていきたいということで始めました。

林:最後に一言お願いいたします。

中村さん:ほうきは環境負荷が非常にかからない清掃用具です。プラスチックを使わない、音がしない、電気を使わない、CO2の排出がないという、理想的なSDGsであり、環境に対して優しい商品です。今は企業を中心に環境問題が考えられていますが、私たち個人のできることから入って、社会貢献するという考え方を持つと、子どもたちの世代により良い社会を繋げていけるのではないかと思います。そういう考え方をしていただくための一つのきっかけとして、江戸ほうきを手に取っていただければ幸いです。

SDGsが推進される現代において、1830年の創業から変わらぬ製法で作られてきた江戸ほうきがまさにSDGsに貢献する製品であること。いまの生活を少し見直すお話になったかもしれません。中村悟さん、ありがとうございました。

※この対談を動画で見たい方はコチラ

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