いつの時代も“人の手でつくること”にこだわってきた和装雑貨店
映画館や劇場などが集まり、江戸・東京の文化を牽引してきた銀座や日本橋からもほど近い新富町の一角に、国の登録有形文化財になっている木造建築が特徴的な和装雑貨店「大野屋總本店」はあります。現在、当主を務めているのは7代目・福島茂雄さんです。
「大野屋總本店」で長きにわたりつくられてきたものの1つが、新富形の足袋。あらゆる商品が機械で大量生産されている現代ですが、大野屋總本店の足袋はすべて職人の手づくり。足袋に用いる布の裁断から仕上げまで、すべて店内奥の階段を上った先にある工房で行われているのです。
足袋づくりの最初の工程は、左右あわせて10枚の布を内側用、外側用、底用に裁断すること。事前に測ったお客様の足の形にあわせて断つ「立体裁断」という技法が用いられているそう。その後、工房の中でひときわ存在感をはなつ大きな足踏みミシンで、縫う箇所にあわせて糸の太さを変えながら縫いあわせていきます。縫い合わせの段階で最も注意しなければならない箇所がつま先。足の形に合わせつつ、丸みを持たせた状態で仕上げる必要があるそうです。縫い合わせた足袋は、足型にあわせて作られた木型にはめ込み、歩く際に縫い目が当たって足が痛くならないよう木槌で縫い目を叩いてならします。
「これら多くの工程に職人達の繊細かつ高度な技術が加わり、ようやくお客様一人ひとりの足にあう理想の足袋が完成するのです」と福島さん。丁寧につくられた大野屋總本店の足袋は、一般のお客様だけでなく、歌舞伎役者や舞踏家、能役者にも愛用されています。また店先では、足袋の他にハンカチ、手ぬぐい、割烹着なども販売されており、コロナ禍でつくられたユニークな色や柄のマスクも好評を博しています。