黒文字の香りと職人技が光る 日本唯一の楊枝専門店
地下鉄・三越前駅から歩くこと数分。路地の中にモダンなカフェと見まごう瀟洒な店が現れます。ここが、日本唯一の楊枝専門店「日本橋さるや」。江戸っ子たちが愛した房楊枝の時代からクロモジ(黒文字)の木を使い、現在も長さや太さの異なる20種類以上の楊枝をつくり、販売しています。
「そもそも楊枝は仏具の一つとして渡来し、もとは僧侶や公家のものだったとか。民間に広まったのは江戸幕府徳川家三代将軍・徳川家光公の時代。この頃から庶民も食後は“房楊枝”(先端が房のようになった楊枝)で歯をケアするのが一般的になりました。クロモジの特徴は、香りがよく、強度もあり、弾力性に富んでいること。殺菌作用もあるとされ、古来、口の中を清潔に保つのに適した素材として知られていたようです」と、話すのは9代目ご当主の山本亮太さん。
歯間を掃除するのに適した細いものから和菓子用の太めのものまで選べる「さるやの黒文字楊枝」を筆頭に、店内に並ぶ商品数は約100種類。桐箱に縁起のいい言葉が書かれたロングセラー商品「千両箱」や年末から売り出される翌年の干支を描いた「干支楊枝」も人気で、「とくに干支の絵柄は毎年変えているので、コレクションしてくださるお客様も。『数周前のうさぎ、持ってるわよ』とお声がけいただけることもあります」と山本さん。
なかでも「使ったお客様たちから『一度これを使ったら、一般的なこけし楊枝にはもう戻れない』というお声を数多くいただいています」と胸を張るのが、極細の「上角(じょうかく)楊枝」。熟練の技を必要とし、現在これを手がけられる職人はただ1人だとか。今後もこの楊枝を絶やさないために、8代目である山本さんの父が職人からじかに技を受け継いでいる最中だそうです。匠たちが手がける「日本橋さるや」の楊枝は、最上級の品質と時代に合ったデザインで長い歳月を生き抜いてきた江戸名物。大切な人への贈り物としても喜ばれそうです。