進化する江戸の粋。組紐の世界の「用と美」
日本を代表する組紐工房「龍工房」は、数十人の職人集団であり、帯締めの絹糸の染色、デザイン、組みまで一貫して手がける数少ない工房です。
天然の色素で染められた艶やかな絹糸が、組み台の上を四方八方に掛けられ、美しい紐が生み出されていきます。日本の組紐の歴史は大陸から伝来した飛鳥時代にまで遡り、装束や武具甲冑などに使われてきました。
近年、私たちの日常の中でもっとも目にすることの多い組紐といえば、和装の帯締めでしょうか。帯の中心を左右にすっと走る紐が帯締めです。スーツにおけるネクタイやチーフのような役割で、全体の色味を凛と引き締める、いわば画竜点睛の小物。帯が解けないようにするという機能性においても帯締めはとても重要です。そのため、着物の上級者は帯締めにこだわります。よい組紐であるほど、伸縮性に優れており、帯結びが美しく決まる。組紐とはまさしく用と美が一致した、類まれな工芸品なのです。
龍工房の帯締めは「素材が7割」といい、今や国産生糸のシェアは0.1パーセント(農林水産省令和5年5月「蚕糸業をめぐる事情」より)という状況下ながら、国産生糸にこだわり、草木で染めたのちに、冠(ゆるぎ)組や御嶽組、笹波組といった300以上もあるという組み方で仕上げていきます。組み方によって異なる細やかな艶が生まれ、染められた色が複雑に響き合う帯締めは実に美しく、装いを引き立てます。養蚕との関係が深い皇室の方々のお召しになる和装小物として、また梨園や茶道界でも愛用されています。
また、組紐制作のほか、歴史的な価値の高い組紐の復元、国産繭・生糸の生産を促進するための周知・促進活動など、絹にまつわる産業・文化の中心的な存在として八面六臂の活動をしている「龍工房」。近年では「水と空気以外は組む」と、伝統的な生糸以外の素材の組紐にも取り組むように。世界の名だたるメゾンからも注目とリスペクトを集め、ホテルのロビーやハイブランドのショーウィンドウといった空間装飾などで目にすることも増えています。