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日本は、百年続く老舗が3万3,000軒以上存在する世界でも稀な国。そのご当主に、老舗を老舗たらしめる“五つの奥義”を伺う連載記事。今回お話を伺った老舗は、安政元年(1854年)創業の甘味処『梅園』。餅きびの食感や酸味と、甘く滑らかなあんこ、可憐な見た目の「あわぜんざい」や、SNSで人気の「どらソフト」など、その甘味に込められたこだわりや秘密は実に奥深いものです。
五つの奥義を探り、160年以上愛され続ける老舗の魅力を深掘りしていきましょう。
永井荷風『踊り子』にも盛況の様子が描かれた人気店・梅園
梅園の新たな試みの歴史について語るのは、梅園七代目ご当主・清水貴司さんです。守りながら攻めるという、難しい塩梅を調整するためのスローガンが「守り八割 攻め二割」。東京、浅草仲見世通りの十字路に構えられた店舗では、今日も伝統と革新が紡がれています。
もともとは浅草寺の別院『梅園院』の一隅を借り受けて、そこで茶屋を開いたのを始まりとする『梅園』。名物「あわぜんざい」はもともと農家のおやつでした。穀物の粟(あわ)を炊いて、そこに小豆を盛り付ける素朴な甘味を梅園の初代が商品化したのです。永井荷風の『踊り子』という小説にも梅園は登場し、「梅園でお汁粉を食べようとしたが、満員で入れないので」と盛況の様子が記述されています。また、大正時代に新装開店した際の写真からも、その賑わいは伝わってきます。
現在のあわぜんざいに用いられているのは粟ではなく餅きびです。戦後、粟の需要がなくなったとき、先代が考えたのが「触感が良いきびを使ったらどうか」というアイディアでした。しかし、親しまれた「あわぜんざい」の名称は現在まで受け継がれています。
老舗 五つの奥義 その1:あわぜんざいの美味しさの秘密・餅は半搗き
餅米にきびをまぜて蒸篭(せいろ)で蒸し、餅つき機で「半搗き(はんづき)」になるまで練り上げる梅園のあわぜんざい。半搗きとは、餅を完全につき切らない状態を意味します。水を加えながら手作業で練り上げ、半搗きにすることで酸味・渋味がでて歯ごたえのよい触感が生まれるのです。
老舗 五つの奥義 その2:変えない四つの道具が伝統を支える
梅園で先代の時代から使い続けられているのが、檜のせいろ、餅つき機、餡子(あんこ)を温める銅鍋、漆塗りの器の四つの道具です。「同じ味や食感を出すためには同じものを使い続けないとだめ」と清水さんは語ります。この伝統は、これからも変えられることはありません。
老舗 五つの奥義 その3:鍋の周りがブクブク、美味しい合図を見極める
餅はせいろで保温し、隣であんこを温めます。こしあんを入れた銅鍋に少し水を入れて強火であたため、鍋の周りがブクブク、真ん中がボコボコしてきたら、それが仕上げの合図です。こしあん作りは丁寧な作業が必要であり、どの過程も単純なものではありません。
「もうボコボコするだろうというタイミングも慣れてくるとわかります」(清水さん)
「甘さと開けた時の色鮮やかさとか、私は梅園さんのものが好きです」とお客様の評価も上々です。
老舗 五つの奥義 その4:お客様の満足のため、希少な食材でも大盤振る舞い
「結構、うち、なんでもボリューミーなんで。なんでも量が多いんですよ。それもまた、お客様の満足のため」と、笑顔を見せる清水さん。
寒天は、国産の良質なものを使用。生の寒天を使っているお店は今では多くありません。さらにアイスやフルーツ、甘味を惜しげなく盛り付け、自家製の黒蜜をかけて人気メニュー「白玉クリームあんみつ」は完成します。
梅園の「どら焼」の直径は11cmと、他社と比べて2割以上大きなサイズとなっています。「あんこも結構ボリュームがあるので1個でお腹いっぱいといわれますね」(清水さん)。
また、「最初から継ごうと思っていた?」という質問には「大学に行きながらお店や厨房の手伝い、和菓子販売をするうちに楽しくなってきて」という答え。さらに「昔から父の背中を見てというのが強い」と、梅園6代目清水裕之さんの「もっと美味しく」という味への厳しい姿勢やこだわりが語られました。
老舗 五つの奥義 その5:守り八割 攻め二割
前述の通り、道具や昔ながらの製法を大事にする心が梅園にはあります。その一方で、「攻め」としてその時代にあった嗜好に変えていく取り組みが行われているとのこと。
たとえば「どら焼の皮を使って、若いお客様に向けて何か新しいものができないか」という発想から生まれたのがワンハンドで食べられる「どらソフト」です。発売すると瞬く間にインスタグラムでその写真がシェアされ、人気となりました。自分が思った通りに若い人たちに受け入れられた喜びを清水さんは語りました。
守りながら攻めることで、若いお客様の心をつかむ
「浅草は若いお客様がすごく増えてきた」と清水さん。
年配の方がほとんどというイメージはもはや逆転しつつあるといいます。梅園の強みは年配のお客様に支えられてきたことにあり、逆に若年のお客様が弱みでした。その‟ピンチをチャンスに変える”べく、若いお客様にどんどんアピールして知ってもらって「お客様の世代を若返らせていく」。守りながら攻めるを掲げています。
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