日本橋 用途に応じて素材を選びぬき、職人技で仕上げる。300年続く老舗『江戸屋』が誇る、刷毛・ブラシづくりに込められた思い ブラシ刷毛 刷毛・ブラシは家財や漆器、清掃から化粧までさまざまな用途で我々の日常を支える、縁の下の力持ち。そんな刷毛・ブラシを長年にわたって作り続けてきたのが享保三年(1718年)に創業した「江戸屋」です。その十三代目ご当主・濵田保雄さんに、刷毛・ブラシにかける思いや職人技についてうかがいます。初代・利兵衛は徳川将軍のお抱え刷毛師林:本日は江戸屋十三代目ご当主、濵田保雄さんにお越しいただきました。濵田さん:刷毛とブラシを商っております、江戸屋の十三代目、濵田保雄と申します。よろしくお願いいたします。林:早速、お店についてご紹介いただけますでしょうか。濵田さん:初代・利兵衛(りへえ)が徳川将軍のお抱え刷毛師に任命されまして、表具やふすまをつくるための刷毛を江戸城にお納めしていました。享保3年(1718年)に将軍家より『江戸屋』という屋号を賜り、創業したというふうに伝え聞いております。林:創業時から今の業態を変わらず続けられてきたんですね。しかも、将軍から発注を受けていたとは。ここからは、そんな江戸屋の商品をご紹介いただければと思います。濵田さん:まずはこちら、平べったいのが障子やふすまをつくる際、糊を塗るための『糊刷毛』ですね。林:特徴も教えていただけますか?濵田さん:弾力のある馬毛を使っているため糊の含みがよく、一定量の糊を均等に塗っていくはき出しの良さも持ち合わせています。林:素晴らしいですね。濵田さん:つづいては、大奥などで女性が白塗りの化粧をするために用いていた『白粉刷毛』です。林:厚みがあって、男性が理髪店で髭剃りをやっていただくときに使う、シェービングクリームを塗るための刷毛にも似ていますね。濵田さん:このようにふっくらした厚みのある刷毛で腕や肩にも白粉を塗るために使われていました。林:現代では、どのような用途で使われているのでしょう。濵田さん:たとえば歌舞伎役者さんなどには今でも使っていただいています。林:ちなみに、毛の原材料は何ですか?濵田さん:ヤギの毛です。お顔などにも使っていただくものなので、すごくあたりの柔らかい素材を用いています。同じくヤギの毛が円状に広がった『丸刷毛』は、肌の水分を、トントントンとふき取るためにも使っていただいていますね。林:同じヤギの毛でも2つの商品の質感は違ったように見受けられるのですが、やはり部位なども使い分けられているのでしょうか?濵田さん:そうですね。丸刷毛は、顔に使われることが多いため、よりやわらかい毛を使っています。細かい毛束を、職人の手で一つひとつ濵田さん:こちらの黒い毛の用いられた刷毛は、何かお分かりになりますか?林:どこかで見たことがあるぞという感じですね。濵田さん:これは漆器づくりなどで、漆(うるし)を塗るための刷毛です。林:この刷毛は特徴がすごくありそうですね。濵田さん:この刷毛の材料は、人間の髪の毛なんです。漆にも負けない腰の強さと、刷毛の筋が出ない特性を備えており、良く寝かせて脂が抜けたまっすぐの髪の毛が良いなどと言われております。林:僕は、髪が銀色なんですが……(笑)。濵田さん:パーマや毛染めをしてしまっている髪の毛はやはり使えなくなってしまいます(笑)。林:漆は塗料でもありますから、固まってはならないなどバランスが難しいですよね。濵田さん:筋が少しでも出てしまうと製品として失格になってしまうため、一筋の刷毛ムラも許さず、かつ固すぎないバランスを探っています。林:製造の際には細心の注意が払われているということですね。濵田さん:この商品を手掛けられる職人も今ではわずかしかいない状況になっています。林:産業間の連携というものをすごく感じますね。濵田さん:ご覧いただけばわかる通り、この漆刷毛の内部には上の方まで毛が詰まっています。林:それはなぜなのでしょうか?濵田さん:刷毛を職人さんが使っていると、何年もかけてだんだんとすり減ります。そこで、刃物で切り出して長く使っていただけるようにと、工夫をさせていただいています。職人さんに使っていただいても、10年位は楽々使っていただけるようになっていますね。毛判、洋服ブラシ……持ち手にも込められたこだわり濵田さん:続いて紹介したいのは、明治に入り西洋の影響を受け、造り始めたブラシです。林:毛先を正面から見ると、何か字が書いてあるように見えます。合格の「合」という字ですね。濵田さん:これは『毛判』と申しまして、今ではほとんど使われなくなった毛のハンコです。江戸時代は段ボールなど無かったものですから、梱包には藁を縦横に編み込んだ筵(むしろ)が用いられており、表面がデコボコしておりました。そこに合格の「合」、あるいは「合〇」という屋号などを押すために、用いられていたのがこの商品なんです。林:これはお願いしたら今でも作っていただけるのですか?濵田さん:ご依頼はないですが、頑張れば作れるかな(笑)。林:さすがです。濵田さん:続いては、現代的なお洋服用のブラシです。背広でもカシミアのコートでも着物でも使っていただける万能なブラシとなっています。林:こちらは何の毛が使われているんですか?濵田さん:貴重な毛足の長い、豚の毛を使っております。豚の毛は毛先が細くしなやかで、毛根は固くてパリパリしています。そこで、根本側は上に出てこず、毛先側だけが表面に出てくるよう毛束を支える部分と、毛足の長い部分で、二段に分かれるように植えているんです。「二段植毛」というんですが、こちらは職人が一束ずつ手植えで制作しております。林:それは大変そうですね。濵田さん:一日何本も量産はできないのですが、その結果しっかりした生地からデリケートな生地まで幅広く対応できるようなブラシになっています。林:木製の持ち手にもなにかこだわりはあるのでしょうか?濵田さん:背中側から見ると釘が打たれており、横から見ると木の中央にスライスされた跡があることがわかるかと思います。これは、一度スライスした木の背面から毛を一束一束手で植えて、釘で再度つなげ直した跡なんですね。これを実現するのは容易ではなく、職人の技術が込められた部分です。林:本当に手間がかけられているのですね。目的や用途に応じて素材となる毛を使い分け、職人技で仕上げていく。「江戸屋」が誇るブランドは、そういった知られざる努力に支えられています。だからこそ、日本を代表する刷毛・ブラシの老舗として、大勢の人たちに愛されているのかもしれません。後編へ続く※この対談を動画で見たい方はコチラ あなたはどちら...? 行きたい999 興味あり999 関連する老舗Related Spot 買う 日本橋 江戸屋 刷毛登録有形文化財 一覧ページへ 同じエリアの老舗Same Spot 体験する 中央区 日本橋 伝統文化と出かけよう!文化の交差点「老舗フェスティバル2024」 agataJapanイベント伝統芸能史跡、文化財散歩日本橋日本酒老舗フェスティバル 買う 日本橋 三原堂本店 どらやき和菓子最中 買う 日本橋 龍工房 伝統工芸帯締め組紐 買う 日本橋 経新堂 稲崎 表具店 屏風掛け軸表具 食べる 丸の内・八重洲 日本橋 伊勢廣 京橋本店 焼鳥 エリア一覧ページへ 老舗を探すSearch 検索する その他 浅草 向島・本所 日本橋 銀座 丸の内・八重洲 神田 上野・谷中・日暮里 飯田橋・神楽坂 お茶の水・湯島・後楽園 新橋・品川・お台場 麻布・赤坂・六本木 両国・亀戸 門前仲町・清澄白河 江戸川・江東 亀有・柴又 芝 渋谷・代官山 新宿・中野 目黒・世田谷 池袋・赤羽 大森・蒲田 吉祥寺・杉並 八王子・町田・府中 東村山・青梅・奥多摩 伊豆諸島・小笠原諸島 検索条件をクリア 検索する 食べる 買う 体験する 泊まる 検索条件をクリア 検索する 100年以上続く老舗のお歳暮・お中元・手土産をお取り寄せできる通販サイト 通販サイトへ 日本のよいものを世界へ Spotify YouTube Twitter Facebook Instagram TikTok キーワードから探すTag 寺社、仏閣 史跡、文化財 日本酒 着物 国府エリア 和服 散歩 蕎麦 伝統工芸 桜 更科そば 重要文化財 和菓子 春 お花見 日本刀 フォトスポット お祭り 浅草の老舗 日本美術 端午の節句 江戸 紅葉 伝統芸能 こどもの日 ひな祭り あんこ 日本庭園 佃煮 浴衣 コンテンツContents 江戸まちごよみ 江戸まちめぐり 私が選んだ逸品 エリア 食べる 買う 体験する 泊まる イベント情報 ライブカメラ 老舗ニュース まちめぐりガイド まちごよみ用語辞典 TOP ホーム 江戸まちごよみ 江戸まちめぐり 老舗ご当主・識者と歩く 東京文学散歩 古地図で江戸散歩 お祭りレポート 老舗レポート 私が選んだ逸品 食べる 買う 体験する 泊まる イベント 老舗ニュース まちめぐりガイド まちごよみ用語辞典 コラム 大人のマナー講座 季節の暮らし方 老舗ご当主インタビュー 老舗総合研究所 ライブカメラ サイトからのお知らせ 江戸まちツアー 江戸の老舗オンラインサロン エリア 浅草 向島・本所 日本橋 銀座 丸の内・八重洲 神田 上野・谷中・日暮里 飯田橋・神楽坂 お茶の水・湯島・後楽園 新橋・品川・お台場 麻布・赤坂・六本木 両国・亀戸 門前仲町・清澄白河 江戸川・江東 亀有・柴又 芝 渋谷・代官山 新宿・中野 目黒・世田谷 池袋・赤羽 大森・蒲田 吉祥寺・杉並 八王子・町田・府中 東村山・青梅・奥多摩 伊豆諸島・小笠原諸島 お問い合わせ よくある質問 このサイトについて サイトポリシー プライバシーポリシー Social フリーワードで検索Search キーワードから探すTag 寺社、仏閣 史跡、文化財 日本酒 着物 国府エリア 和服 散歩 蕎麦 伝統工芸 桜 更科そば 重要文化財 和菓子 春 お花見 日本刀 フォトスポット お祭り 浅草の老舗 日本美術 端午の節句 江戸 紅葉 伝統芸能 こどもの日 ひな祭り あんこ 日本庭園 佃煮 浴衣 MENU
林:本日は江戸屋十三代目ご当主、濵田保雄さんにお越しいただきました。
濵田さん:刷毛とブラシを商っております、江戸屋の十三代目、濵田保雄と申します。よろしくお願いいたします。
林:早速、お店についてご紹介いただけますでしょうか。
濵田さん:初代・利兵衛(りへえ)が徳川将軍のお抱え刷毛師に任命されまして、表具やふすまをつくるための刷毛を江戸城にお納めしていました。享保3年(1718年)に将軍家より『江戸屋』という屋号を賜り、創業したというふうに伝え聞いております。
林:創業時から今の業態を変わらず続けられてきたんですね。しかも、将軍から発注を受けていたとは。ここからは、そんな江戸屋の商品をご紹介いただければと思います。
濵田さん:まずはこちら、平べったいのが障子やふすまをつくる際、糊を塗るための『糊刷毛』ですね。
林:特徴も教えていただけますか?
濵田さん:弾力のある馬毛を使っているため糊の含みがよく、一定量の糊を均等に塗っていくはき出しの良さも持ち合わせています。
林:素晴らしいですね。
濵田さん:つづいては、大奥などで女性が白塗りの化粧をするために用いていた『白粉刷毛』です。
林:厚みがあって、男性が理髪店で髭剃りをやっていただくときに使う、シェービングクリームを塗るための刷毛にも似ていますね。
濵田さん:このようにふっくらした厚みのある刷毛で腕や肩にも白粉を塗るために使われていました。
林:現代では、どのような用途で使われているのでしょう。
濵田さん:たとえば歌舞伎役者さんなどには今でも使っていただいています。
林:ちなみに、毛の原材料は何ですか?
濵田さん:ヤギの毛です。お顔などにも使っていただくものなので、すごくあたりの柔らかい素材を用いています。同じくヤギの毛が円状に広がった『丸刷毛』は、肌の水分を、トントントンとふき取るためにも使っていただいていますね。
林:同じヤギの毛でも2つの商品の質感は違ったように見受けられるのですが、やはり部位なども使い分けられているのでしょうか?
濵田さん:そうですね。丸刷毛は、顔に使われることが多いため、よりやわらかい毛を使っています。
細かい毛束を、職人の手で一つひとつ
濵田さん:こちらの黒い毛の用いられた刷毛は、何かお分かりになりますか?
林:どこかで見たことがあるぞという感じですね。
濵田さん:これは漆器づくりなどで、漆(うるし)を塗るための刷毛です。
林:この刷毛は特徴がすごくありそうですね。
濵田さん:この刷毛の材料は、人間の髪の毛なんです。漆にも負けない腰の強さと、刷毛の筋が出ない特性を備えており、良く寝かせて脂が抜けたまっすぐの髪の毛が良いなどと言われております。
林:僕は、髪が銀色なんですが……(笑)。
濵田さん:パーマや毛染めをしてしまっている髪の毛はやはり使えなくなってしまいます(笑)。
林:漆は塗料でもありますから、固まってはならないなどバランスが難しいですよね。
濵田さん:筋が少しでも出てしまうと製品として失格になってしまうため、一筋の刷毛ムラも許さず、かつ固すぎないバランスを探っています。
林:製造の際には細心の注意が払われているということですね。
濵田さん:この商品を手掛けられる職人も今ではわずかしかいない状況になっています。
林:産業間の連携というものをすごく感じますね。
濵田さん:ご覧いただけばわかる通り、この漆刷毛の内部には上の方まで毛が詰まっています。
林:それはなぜなのでしょうか?
濵田さん:刷毛を職人さんが使っていると、何年もかけてだんだんとすり減ります。そこで、刃物で切り出して長く使っていただけるようにと、工夫をさせていただいています。職人さんに使っていただいても、10年位は楽々使っていただけるようになっていますね。
毛判、洋服ブラシ……持ち手にも込められたこだわり
濵田さん:続いて紹介したいのは、明治に入り西洋の影響を受け、造り始めたブラシです。
林:毛先を正面から見ると、何か字が書いてあるように見えます。合格の「合」という字ですね。
濵田さん:これは『毛判』と申しまして、今ではほとんど使われなくなった毛のハンコです。江戸時代は段ボールなど無かったものですから、梱包には藁を縦横に編み込んだ筵(むしろ)が用いられており、表面がデコボコしておりました。そこに合格の「合」、あるいは「合〇」という屋号などを押すために、用いられていたのがこの商品なんです。
林:これはお願いしたら今でも作っていただけるのですか?
濵田さん:ご依頼はないですが、頑張れば作れるかな(笑)。
林:さすがです。
濵田さん:続いては、現代的なお洋服用のブラシです。背広でもカシミアのコートでも着物でも使っていただける万能なブラシとなっています。
林:こちらは何の毛が使われているんですか?
濵田さん:貴重な毛足の長い、豚の毛を使っております。豚の毛は毛先が細くしなやかで、毛根は固くてパリパリしています。そこで、根本側は上に出てこず、毛先側だけが表面に出てくるよう毛束を支える部分と、毛足の長い部分で、二段に分かれるように植えているんです。「二段植毛」というんですが、こちらは職人が一束ずつ手植えで制作しております。
林:それは大変そうですね。
濵田さん:一日何本も量産はできないのですが、その結果しっかりした生地からデリケートな生地まで幅広く対応できるようなブラシになっています。
林:木製の持ち手にもなにかこだわりはあるのでしょうか?
濵田さん:背中側から見ると釘が打たれており、横から見ると木の中央にスライスされた跡があることがわかるかと思います。これは、一度スライスした木の背面から毛を一束一束手で植えて、釘で再度つなげ直した跡なんですね。これを実現するのは容易ではなく、職人の技術が込められた部分です。
林:本当に手間がかけられているのですね。
目的や用途に応じて素材となる毛を使い分け、職人技で仕上げていく。「江戸屋」が誇るブランドは、そういった知られざる努力に支えられています。だからこそ、日本を代表する刷毛・ブラシの老舗として、大勢の人たちに愛されているのかもしれません。
後編へ続く
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