日本橋 伝統文化を残していくため、職人の待遇も考慮する。老舗「江戸屋」が考える、“後継”とは ブラシ刷毛 刷毛・ブラシは家財や漆器、清掃から化粧までさまざまな用途で我々の日常を支える、縁の下の力持ち。そんな刷毛・ブラシを長年にわたって作り続けてきたのが享保三年(1718年)に創業した「江戸屋」です。その十三代目ご当主・濵田保雄さんに、刷毛・ブラシにかける思いや職人技についてうかがいます。〜前編より続き〜ヘアトリート・化粧用から工業用まで、ブラシの用途はさまざま林:さて、こちらは見覚えがあるブラシです。濵田さん:これは髪の毛をとかすための豚毛のヘアブラシですね。林:なぜ、豚毛が使われているのでしょうか?濵田さん:コシがあって、地肌までしっかり届き、頭皮の余分な脂を繰り返しとかして毛先まで運ぶことで全体にツヤを出してくれるんです。ひと穴に何十本と毛が植わっているので、この間を髪の毛が通り、キューティクルを撫で付けてツヤが出てくるという原理ですね。林:このブラシのお手入れはどのようにすればよいのでしょうか?濵田さん:毛束がたくさんあるので、埃が毛先にたくさん絡んでくるんですね。そこで登場するのが、ブラシのブラシ、『ブラシクリーナー』です。埃が上部にあるうちにこちらで払い落してあげるのが、ブラシを長持ちさせる一番のコツです。林:使ったらこまめに取り除くのがよさそうですね。濵田さん:はい。なるべくこまめに取り除き、水では洗わないほうが長持ちするかと思います。林:人間の髪の毛もあまり洗いすぎるとよくないと言いますからね。そして、こちらの持ち手が細くなっているのは?濵田さん:リスの毛を用いた、最高級のお化粧用ブラシです。林:リスの毛といえば書道の筆などでも用いられることがありますよね。濵田さん:非常に軟らかくデリケートで、蒔絵に表面を装飾する金粉を払い落す際なども用いられることがあります。お化粧で使っていただいても「ツヤの上がり方が違う」「明るさが出る」と言っていただいておりますね。林:これは、メイクされる皆様、必見でございます。江戸城の方々も使われていたのでしょうか?濵田さん:形は先ほどの、白粉用のものだったかと思います(笑)。林:そちらの緑のブラシはまた大きくこれまでとは趣が異なりますね。濵田さん:こちらは、工業用ブラシです。たとえばジャガイモなどの野菜を洗う機械の中などで使われているブラシです。林:BtoC(消費者向け)だけでなく、BtoB(ビジネス用途)でも用いられているんですね。こんなところにも昔からの技術が使われているとは。濵田さん:生活の一部として、ブラシはいろいろな部分で活躍していますので。半分はまばら、半分は密に毛を配置するなど、工業用ブラシでも、お客様のオーダーにお応えして工夫を施しています。江戸屋ブランドが300年以上続けられた秘訣とは?林:こんなにも種類が存在する江戸屋さんのブランド。長く続けられた秘訣にはどのようなものがあるのでしょうか?濵田さん:お客様のご要望にお応えすることはもちろん、それを繰り返すことで信頼を積み上げ確立してきたのが弊社のブランドだと思っています。林:親子で代々、江戸屋ブランドを愛好するようなお客様もいらっしゃるのでしょうか?濵田さん:そうですね。お父上が使われていた洋服ブラシをご子息が受け継がれたという話も耳にしたことがあります。林:そんなに長持ちするのですね。そうして代々同じ愛用品を受け継ぐというのは素晴らしいですね。技術を担う職人に、正当な対価を支払い伝統をつなぐ林:読者の皆さんに向けて、濱田さんからメッセージをいただけますか?濵田さん:弊社では、お客様の満足度はもちろん、技術を担う職人の育成や正当な対価を支払うことも大事にしているということをお伝えしたいです。林:やはり、先立つものがなければ後継者も現れませんからね。濵田さん:がむしゃらに続けてほしいといっても、生活ができなければ伝統は途絶えてしまいます。なかなか難しい課題ではありますが。林:ある方が「職人さんがモテる世の中にしたい」と話していました。そうしたはっきりとしたメリットがなければ「やりたい!」という方はなかなか現れづらい気がしますね。濵田さん:特に、うちなどは「作品」ではなく「道具」を扱っていますから、より日の目を見ずらい状況にありました。そんな状況を変え、なるべくお仕事を続けていただけるように心がけて改革に取り組んでいます。林:事業承継は伝統工芸共通の課題かと思います。原料の面で苦労されていることなどもあるのでしょうか?濵田さん:弊社も材料の量自体は輸入で獲得できているのですが、品質面では課題があり、昔は8割、半分は使えていたものが今では3割しか使えないこともあります。林:世間にはそのような課題の存在がまだ伝わり切っていない部分もあります。こうした場で広めることができれば幸いですね。「結構やせ我慢しているんだよ」という老舗の声も伺ったことがあります。今は世間的に値上げトレンドですが、老舗の方はそのあたりも非常に慎重な印象があります。濵田さん:原料の値段が上がっても、なかなか値上げに踏み切れないことは確かにあります。なるべく良いものを手に取りやすくご提供したいという思いがありますので。林:この先、「アート」「工業製品」、その中間の「伝統工芸品」といった選択肢があるとすれば、どの方向性を江戸屋では目指しますか?濵田さん:弊社はアート作品というよりも、良い道具を適正な値段で使っていただく、商人でありたいと思っています。林:ブラシ・刷毛にこだわっている道具屋さんというのは日本にそれほどありません。江戸屋さんの目利きは唯一無二の価値があると思います。濵田さん:このまま、良いものを適切な値段で、職人さんにも適切な対価を支払いながら作っていきたいと思っております。今後ともどうぞご愛顧のほどよろしくお願いいたします。糊刷毛、毛判や洋服ブラシから工業用ブラシに至るまで、江戸屋の商品の数々には、ときに採算度外視とも思える職人のこだわりが込められていました。だからこそ、十三代目ご当主濵田保雄さんは、職人を大事にするお店であることを大切にし、待遇の向上に努めているのでしょう。※この対談を動画で見たい方はコチラ あなたはどちら...? 行きたい999 興味あり999 関連する老舗Related Spot 買う 日本橋 江戸屋 刷毛登録有形文化財 一覧ページへ 同じエリアの老舗Same Spot 体験する 中央区 日本橋 伝統文化と出かけよう!文化の交差点「老舗フェスティバル2024」 agataJapanイベント伝統芸能史跡、文化財散歩日本橋日本酒老舗フェスティバル 買う 日本橋 三原堂本店 どらやき和菓子最中 買う 日本橋 龍工房 伝統工芸帯締め組紐 買う 日本橋 経新堂 稲崎 表具店 屏風掛け軸表具 食べる 丸の内・八重洲 日本橋 伊勢廣 京橋本店 焼鳥 エリア一覧ページへ 老舗を探すSearch 検索する その他 浅草 向島・本所 日本橋 銀座 丸の内・八重洲 神田 上野・谷中・日暮里 飯田橋・神楽坂 お茶の水・湯島・後楽園 新橋・品川・お台場 麻布・赤坂・六本木 両国・亀戸 門前仲町・清澄白河 江戸川・江東 亀有・柴又 芝 渋谷・代官山 新宿・中野 目黒・世田谷 池袋・赤羽 大森・蒲田 吉祥寺・杉並 八王子・町田・府中 東村山・青梅・奥多摩 伊豆諸島・小笠原諸島 検索条件をクリア 検索する 食べる 買う 体験する 泊まる 検索条件をクリア 検索する 100年以上続く老舗のお歳暮・お中元・手土産をお取り寄せできる通販サイト 通販サイトへ 日本のよいものを世界へ Spotify YouTube Twitter Facebook Instagram TikTok キーワードから探すTag 寺社、仏閣 史跡、文化財 日本酒 着物 国府エリア 和服 散歩 蕎麦 伝統工芸 桜 更科そば 重要文化財 和菓子 春 お花見 日本刀 フォトスポット お祭り 浅草の老舗 日本美術 端午の節句 江戸 紅葉 伝統芸能 こどもの日 ひな祭り あんこ 日本庭園 佃煮 浴衣 コンテンツContents 江戸まちごよみ 江戸まちめぐり 私が選んだ逸品 エリア 食べる 買う 体験する 泊まる イベント情報 ライブカメラ 老舗ニュース まちめぐりガイド まちごよみ用語辞典 TOP ホーム 江戸まちごよみ 江戸まちめぐり 老舗ご当主・識者と歩く 東京文学散歩 古地図で江戸散歩 お祭りレポート 老舗レポート 私が選んだ逸品 食べる 買う 体験する 泊まる イベント 老舗ニュース まちめぐりガイド まちごよみ用語辞典 コラム 大人のマナー講座 季節の暮らし方 老舗ご当主インタビュー 老舗総合研究所 ライブカメラ サイトからのお知らせ 江戸まちツアー 江戸の老舗オンラインサロン エリア 浅草 向島・本所 日本橋 銀座 丸の内・八重洲 神田 上野・谷中・日暮里 飯田橋・神楽坂 お茶の水・湯島・後楽園 新橋・品川・お台場 麻布・赤坂・六本木 両国・亀戸 門前仲町・清澄白河 江戸川・江東 亀有・柴又 芝 渋谷・代官山 新宿・中野 目黒・世田谷 池袋・赤羽 大森・蒲田 吉祥寺・杉並 八王子・町田・府中 東村山・青梅・奥多摩 伊豆諸島・小笠原諸島 お問い合わせ よくある質問 このサイトについて サイトポリシー プライバシーポリシー Social フリーワードで検索Search キーワードから探すTag 寺社、仏閣 史跡、文化財 日本酒 着物 国府エリア 和服 散歩 蕎麦 伝統工芸 桜 更科そば 重要文化財 和菓子 春 お花見 日本刀 フォトスポット お祭り 浅草の老舗 日本美術 端午の節句 江戸 紅葉 伝統芸能 こどもの日 ひな祭り あんこ 日本庭園 佃煮 浴衣 MENU
林:さて、こちらは見覚えがあるブラシです。
濵田さん:これは髪の毛をとかすための豚毛のヘアブラシですね。
林:なぜ、豚毛が使われているのでしょうか?
濵田さん:コシがあって、地肌までしっかり届き、頭皮の余分な脂を繰り返しとかして毛先まで運ぶことで全体にツヤを出してくれるんです。ひと穴に何十本と毛が植わっているので、この間を髪の毛が通り、キューティクルを撫で付けてツヤが出てくるという原理ですね。
林:このブラシのお手入れはどのようにすればよいのでしょうか?
濵田さん:毛束がたくさんあるので、埃が毛先にたくさん絡んでくるんですね。そこで登場するのが、ブラシのブラシ、『ブラシクリーナー』です。埃が上部にあるうちにこちらで払い落してあげるのが、ブラシを長持ちさせる一番のコツです。
林:使ったらこまめに取り除くのがよさそうですね。
濵田さん:はい。なるべくこまめに取り除き、水では洗わないほうが長持ちするかと思います。
林:人間の髪の毛もあまり洗いすぎるとよくないと言いますからね。そして、こちらの持ち手が細くなっているのは?
濵田さん:リスの毛を用いた、最高級のお化粧用ブラシです。
林:リスの毛といえば書道の筆などでも用いられることがありますよね。
濵田さん:非常に軟らかくデリケートで、蒔絵に表面を装飾する金粉を払い落す際なども用いられることがあります。お化粧で使っていただいても「ツヤの上がり方が違う」「明るさが出る」と言っていただいておりますね。
林:これは、メイクされる皆様、必見でございます。江戸城の方々も使われていたのでしょうか?
濵田さん:形は先ほどの、白粉用のものだったかと思います(笑)。
林:そちらの緑のブラシはまた大きくこれまでとは趣が異なりますね。
濵田さん:こちらは、工業用ブラシです。たとえばジャガイモなどの野菜を洗う機械の中などで使われているブラシです。
林:BtoC(消費者向け)だけでなく、BtoB(ビジネス用途)でも用いられているんですね。こんなところにも昔からの技術が使われているとは。
濵田さん:生活の一部として、ブラシはいろいろな部分で活躍していますので。半分はまばら、半分は密に毛を配置するなど、工業用ブラシでも、お客様のオーダーにお応えして工夫を施しています。
江戸屋ブランドが300年以上続けられた秘訣とは?
林:こんなにも種類が存在する江戸屋さんのブランド。長く続けられた秘訣にはどのようなものがあるのでしょうか?
濵田さん:お客様のご要望にお応えすることはもちろん、それを繰り返すことで信頼を積み上げ確立してきたのが弊社のブランドだと思っています。
林:親子で代々、江戸屋ブランドを愛好するようなお客様もいらっしゃるのでしょうか?
濵田さん:そうですね。お父上が使われていた洋服ブラシをご子息が受け継がれたという話も耳にしたことがあります。
林:そんなに長持ちするのですね。そうして代々同じ愛用品を受け継ぐというのは素晴らしいですね。
技術を担う職人に、正当な対価を支払い伝統をつなぐ
林:読者の皆さんに向けて、濱田さんからメッセージをいただけますか?
濵田さん:弊社では、お客様の満足度はもちろん、技術を担う職人の育成や正当な対価を支払うことも大事にしているということをお伝えしたいです。
林:やはり、先立つものがなければ後継者も現れませんからね。
濵田さん:がむしゃらに続けてほしいといっても、生活ができなければ伝統は途絶えてしまいます。なかなか難しい課題ではありますが。
林:ある方が「職人さんがモテる世の中にしたい」と話していました。そうしたはっきりとしたメリットがなければ「やりたい!」という方はなかなか現れづらい気がしますね。
濵田さん:特に、うちなどは「作品」ではなく「道具」を扱っていますから、より日の目を見ずらい状況にありました。そんな状況を変え、なるべくお仕事を続けていただけるように心がけて改革に取り組んでいます。
林:事業承継は伝統工芸共通の課題かと思います。原料の面で苦労されていることなどもあるのでしょうか?
濵田さん:弊社も材料の量自体は輸入で獲得できているのですが、品質面では課題があり、昔は8割、半分は使えていたものが今では3割しか使えないこともあります。
林:世間にはそのような課題の存在がまだ伝わり切っていない部分もあります。こうした場で広めることができれば幸いですね。「結構やせ我慢しているんだよ」という老舗の声も伺ったことがあります。今は世間的に値上げトレンドですが、老舗の方はそのあたりも非常に慎重な印象があります。
濵田さん:原料の値段が上がっても、なかなか値上げに踏み切れないことは確かにあります。なるべく良いものを手に取りやすくご提供したいという思いがありますので。
林:この先、「アート」「工業製品」、その中間の「伝統工芸品」といった選択肢があるとすれば、どの方向性を江戸屋では目指しますか?
濵田さん:弊社はアート作品というよりも、良い道具を適正な値段で使っていただく、商人でありたいと思っています。
林:ブラシ・刷毛にこだわっている道具屋さんというのは日本にそれほどありません。江戸屋さんの目利きは唯一無二の価値があると思います。
濵田さん:このまま、良いものを適切な値段で、職人さんにも適切な対価を支払いながら作っていきたいと思っております。今後ともどうぞご愛顧のほどよろしくお願いいたします。
糊刷毛、毛判や洋服ブラシから工業用ブラシに至るまで、江戸屋の商品の数々には、ときに採算度外視とも思える職人のこだわりが込められていました。だからこそ、十三代目ご当主濵田保雄さんは、職人を大事にするお店であることを大切にし、待遇の向上に努めているのでしょう。
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