Tokyo

11/06 (水)

刀剣を生活の一部として取り入れられるように。老舗の刀専門店「日本刀剣」が目指す、刀剣の未来

海外にも愛好家の多い日本刀。ビギナーにとってはなかなか踏み入れにくい世界であるかもしれませんが、刀装具の一つひとつをじっくり見てみると、美術品としての価値の高さに気付かされます。虎ノ門にある「日本刀剣」は、そんな刀の魅力を多くの人に知ってもらおうと、様々な取り組みを行っています。今回は、文化事業家の齋藤健一さんと一緒に、日本刀剣四代目の伊波賢一さんにお話を伺いました。

前編の記事〜

細かくて美しい細工を見ると伝統工芸ですよね。

そうですよね。細工にはみんな意味があるんです。中国の故事に合わせていたり、お花を綺麗にあしらったり、自分の干支を描いてみたり。

これは何の柄になるんですか。

これは菊の柄ですね。勇ましいけれどもお花を楽しむ心も持っているということで、このような組み合わせにしたのだと思います。昔のお侍さんでは、季節によって鍔を変える人もいたようです。

洒落ていますね。

柄の真ん中の一番目立つ場所には目貫があります。目貫は表と裏で必ずペアになっているのですが、糸が切れて1個だけになってしまったものもあります。それをなんとか活用したいと思い、目貫を世界に1つのアクセサリーやカフスに加工しました。このように時代に合わせて色々な楽しみ方をしていだきたいですね。

昔は日本刀が装飾品としても使われていたと聞いたことがありますが、やはり装飾自体を楽しんでいたのでしょうか?

先ほどの鍔もそうですが、単なる板でいいものをわざわざ飾りをつけて華やかにしているんですね。江戸時代は基本的に大きな戦がないので、その辺で侍はおしゃれを楽しんでいたのだと思います。侍だけでなく、段々豊かになってきた商人も、刀は持てなくても脇差なら持てますので、自分だけのオリジナルの刀を作ってもらっていたようです。

うまく隠すことも含めていろんな形で刀とともにあるというのはすごいなと思います。

よくお店にいらっしゃった方に「これは何か切っているの?」と聞かれることがあるんですよ。ドラマで戦のシーンを見ていると、刀でガチャガチャやっていますが、あれをやると刃がボロボロになってしまうので、今店舗で展示しているのは基本的に戦いには使われなかった刀ですね。そのように刃が綺麗で形も整っている刀を「健全」と言います。

今ある刀は使われていない刀なんですね。

刀は、殿様が友好の証として贈ったり、何かいいことをしたらご褒美にもらったりといった使われ方もしていたので、さほど戦には使われていないんです。

美術品としての刀ということですね。

研ぎもすごく綺麗で美しい波紋が出るようになっているので、この辺も一つの芸術性なんじゃないかと思います。

なんとなく刀に憧れがあるけどどこから入っていったらいいのかわからないというエントリーユーザーも多いのではないでしょうか。

銃刀法があるから持てないんじゃないかという人もいますが、文化庁の管轄の教育委員会が登録証を発行していますので、住所のある方は基本的に購入できます。そうやってまずは気軽に買えるものを一つ手に入れてもらうと、触っているうちに楽しくて仕方なくなるんじゃないかと思います。または、とにかくいいものを一つ手に入れて、舐めるように楽しむというのもありですね。いろいろ見ていると、だんだん自分の好みがわかってくるので、気に入ったものを手に取って、所有されてみたらいかがでしょうか。

まずは、虎ノ門の日本刀剣さんに足を運んでくださいというところですね。店頭に行ってみるとわかるのですが、鎧などもいっぱいあってとにかくすごいんですよ。

2階は、鎧、陣羽織、弓、矢を入れるケースなど、侍に関わる美術品をいろいろと扱っていて、ガラスケースなしでご覧いただけます。博物館で大名刀を見るのももちろんいいですが、ガラスケースを通さないで見た方が生の潤いがわかるので、なかなか楽しいと思います。

いま直面しているイノベーション課題とは

陛下の側近が身につけたり武将が式典で使ったりする太刀には、小さな金具パーツがたくさん付いています。刀鍛冶や研ぎ師になりたいという人は今の時代も結構いるのですが、このような細かな金具や木の鞘を作る人というのは少なくなってきています。これを現在の技術でどの辺まで作れるかというのが今の私たちの悩みですね。

課せられたイノベーション課題というところですね。

そうですね。この道に入っても裕福な生活が送れるわけではないでしょうし、難しいところですよね。地味な作業になりますが、作ってくれる人が増えると嬉しいですね。

刀にしか使えない鞘や金具を作るとなると、どうしてもシーンが限られてしまいますからね。しかも鞘は刀身に合わせて作らなきゃいけないですし。

一振り一振りみんな違いますからね。「反りが合わない」なんて言葉もありますけれども。

なるほど。そういうところに慣用句が出てくるわけですね。

ちなみに「目抜き通り」というのも刀の目貫から来ていると言われています。柄の一番中心の目立つところにあるので、そう呼ばれるようになったそうです。

刀に由来したいろんな話があるのですね。日本刀剣のお店に行くとワクワクするものがいっぱいあるんですよ。日本刀剣さんがこれからやっていきたいことについてお聞かせくださいますか?

日本の刀は海外からもとても注目されています。最近では日本でもだいぶ刀剣ファンが増えてきていますね。入り口はアニメでも何でもいいのですが、知識や作法を正しく伝えていかなくてはいけないなと思っています。

何か具体的に取り組まれている事例はあるのでしょうか?

展示会などの機会には広くお客様をお迎えして、ちゃんとご説明をして、しっかり見ていただくことが大切だと思います。

日本刀剣さんにお伺いしたらそういったことも教えてくれるのですね。

現代の刀工作家たちのためにできること

そして、現在でも刀工で生計を立てている人が、60〜70人ほどいらっしゃいます。そういう現代作家さんたちをこれからも百貨店で紹介させていただきたいです。利益的にはきつくても、刀剣の文化を繋いでいくためには大切なことであると思っています。

商売としてはなかなかシビアではありますが、そういう人たちにもつづけていただかないと、刀剣を巡る文化自体がなくなってしまうということですね。これはなかなかバランスが難しい部分ありますね。

さきほどご紹介した目貫のアクセサリーもそうですが、少しハードルを下げて身近に楽しんでもらいたいですね。

いろいろ触れる機会が増えるといいですよね。目貫のアクセサリーのように、何かの意味合いと一緒に身につけるとか、生活の中にあるというところが増えていくと、興味のタネをたくさん置けるのかなと思います。

最後に皆様に一言お願いできればと思います。

昔の戦でも怪我を負わせた7割以上が、弓矢と槍だったそうで、実は刀ってあまり戦いには使われてないんです。日本刀は武器だということで敬遠される人も多いですが、そういう意味でも少し気軽に見ていただきたいですね。近くで見るとこんなに綺麗なものなんだということがわかると思います。

刀剣と聞くと、どうしても戦で使われてきたものというイメージが強いかもしれません。しかし、当時から装飾品としての意味合いも持ち、侍たちのおしゃれの一部でもあったのだとか。日本刀剣はそれを活かし、刀剣を現代の美術品として広めていこうと尽力しています。

※この対談を動画で見たい方はコチラ

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