Tokyo

11/06 (水)

足袋を通じて「着物文化」を残していく。老舗足袋屋「大野屋總本店」が目指す場所とは

安永年間(1772年~1780年)に創業し、嘉永2年(1849年)、現在の新富町に移転した「大野屋總本店」は代々足袋を作ってきた老舗です。現在もひとりずつ足型を採って足袋を制作しており、その他にもハンカチや湯上りなどの和装雑貨を生み出しています。今回は文化事業家の齋藤健一さんと一緒に、大野屋總本店の七代目、福島茂雄さんにお話を伺いました。

前編の記事〜

林:五代目のさまざまなイノベーションのあと、何か大きな変化や取り組みはありましたか?

福島さん:五代目は、60歳ちょっとで亡くなりましたが、その後、親父は長くやっておりまして。もう普通の方々は着物からだんだん洋服に変わっていった厳しい時代、需要が少なくなってくる時代を何とか乗り越えて、今の私の時代になっています。

林:当代でのさまざまな新しい取り組みをご紹介ください。

福島さん:コロナ禍で、観劇やお茶会、お花の会が自粛ムードでなかなかできなくなり、足袋を作る職人さんたちも仕事が少なくなっていました。そこで、夏物の足袋に使っている麻の素材でマスクを作りました。そしたらもかけ心地がいいと。麻のマスクは1年を通してさらっとしてていいんです。特に足袋用の麻はすごくきめが細かくて、チクチクしない。

林:肌触りは大事ですね。

福島さん:口に当たる側に使うと、とっても肌触りがいいんです。今は不織布のマスクが推奨されていますが、内側にこれをつけてダブルにしてもいいですし、不織布マスクのカバーに使えば、洋服の色に合わせて楽しめるかと思います。

林:去年から、こちらのマスクがいろんなメディアで話題ですが、の色を取り入れた色合いも大きな理由かと思います。

福島さん:じつは、和にこだわらず犬とか馬とか猫とか、いろいろ手を出してます。自分の飼ってるワンちゃんの柄がいいなんて方も結構いて、人気がありますね。

林:足袋の素材と技術で作っていますが、色柄は現代に合わせてるんですね。

福島さん:そうですね。マスクだけじゃなく割烹着とか。ガーゼの商品は、もともと作っていたハンカチや手ぬぐいの生地を使ってます。ガーゼのマスクは今でも作っていますが、かけ心地のよさから、麻のほうが人気がありますね。

作り方、材料、道具……お客様のためになるべく「変えない」

林:ほかにもご当代でのイノベーションを教えてください。

福島さん:なるべく変えないことですね。作り方とか材料とか、道具とか。昔のいい道具や材料が、手に入らなくなってきている中で、極力、目の肥えたお客さまが満足してくれるような商品を作り続けるのが第一ですね。

林:足袋に関して「こう使ってほしい」とか、「こうしていきたい」などの思いはありますか?

福島さん:着物で生活することがほとんどなくなっているので、スリッパ感覚で履けるものを作ったりはしてますね。「半足袋」という、こはぜのつく部分がゴムになっているものがあります。

林:みなさんは足袋をどう使っているんでしょう。お茶室などに行くときは履くべきだと思いますが、じゃあ浴衣で街歩きしてそのへんで飲む、なんてときには履いたらいいのかダメなのか、考えますね。

福島さん:草履を履く場合は足袋も履いたほうがいいと思います。裸足で履くと汚れたりもしますね。雪駄でも履いた方がいいと思います。

林:和装のときは基本、足袋は履くということですね。

福島さん:はい、履かれたほうがよろしいかと。

林:草履と足袋を履いて出かけて、どこかでお家に上がるようなときは、どうしたらいいですか?

福島さん:お座敷用の足袋ならそのまま上がって大丈夫です。うちで売っているのは室内用の足袋です。

林:そうすれば失礼がないんですね。日本人としては裸足でペタペタと人の家に上がることはないわけですが、足袋もそのまま上がれるということですね。

福島さん:そうですね。

林:「足袋をこう合わせると粋」とかはありますか? 選び方も教えていただければ。

福島さん:基本的に、正式なのは白足袋です。ですので結婚式とか式典のときは白ですが、お遊び用でしたら、お着物に合わせて色や柄を合わせても面白いと思います。

林:これがまた難しいわけですよ(笑)。

福島さん:やはり正式な場所は白じゃないとまずいので、どういう場所に行くかですよね。

林:そうですよね。だから町の焼肉屋さんならお座敷に上がるといっても白足袋の必要はないかもしれませんが、お茶席とか会席なら、白足袋が礼儀ということですよね。

福島さん:はい。舞台、とくに能舞台とかに上がるときは白足袋を履いてください、というのはありますね。

林:そうですよね。大野屋さんではそういった舞台用もあれば、普段使いの足袋もあると。

福島さん:そうですね。あとうちは歌舞伎が多いです。毎月毎月の演目に合わせて。

林:この立地ですからね。

福島さん:歌舞伎座とか新橋演舞場とか、そういう芝居小屋に納めています。

林:みんな知らないですよね、足袋にいっぱい種類があるって。

福島さん:それからこちらは、歌舞伎の『助六』で使いますが、通常は4枚のこはぜが2枚で、外側がくれています。視覚的な効果で、足が細く長く、力強く見えるんですね。

林:なるほど!

福島さん:色がまたこの黄色で、足元を目立たせて。おしゃれな方で、やっぱり昔から足元にこだわったという。

林:助六のキャラ通りですよね。こういう形のを、普段履く方もいますか?

福島さん:ほとんどいらっしゃらないですね。でも、先ほどの後ろがゴムになってるものは奴(やっこ)の足袋に形が似てるんですよね。普段使いにもよろしいかと。

足袋を通じて、「着物の文化」を残していきたい

林:そうですね、お部屋で。「ルームシューズ」なんて言わずに、ぜひ足袋を履いていただきたいですね。これから新しく目指したい、していきたいことはありますか?

福島さん:そうですね、やっぱり着物の文化、着物を着るお稽古事を絶やさないことですね。お香とか弓道とかお茶、お花はもちろんですが、足袋はそういう日本の文化とセットなんです。

林:「道」がつくものはみんな本当にそうですね。 

福島さん:そういったところで、安いソックスじゃなくて、1回試していただきたいですね。

林:そうですね。では初心者が足袋を買いにお伺いしたとき、どういうふうにしたらいいですか。

福島さん:用途によっておすすめする足袋も変わってきます。踊りの足袋が欲しい方には、ぴったりしてしわができないようなきつめの足袋、お茶とか正座が長い方には足首とかにも余裕がある若干ゆったりした足袋をおすすめします。水を通すと多少縮むので、縮んだ状態でぴったりになるものをおすすめしています。

林:そういうのも聞かないとわからないですからね。では誂えで作るのと、形があるものから選ぶのでは、最初はどちらがいいでしょうか?

福島さん:お稽古などを始めて、数をたくさん使うようでしたら、お誂えでもよいと思いますが、種類もいろいろございますので、まずはそこからお選びいただいて。選べないようであれば、お誂えでいいかと思います。親指が特別長いとか、四つ指のほうが長いとか、股が浅いからすぐに痛くなるとか、そういうお悩みがあれば。

林:使っているとだんだん、好みや体の形に合うものがわかってくるところもありますよね。

福島さん:そうですね。足のサイズとか実際に変わる部分もあります。コロナで太っちゃったり、体型が変わるのと同じで。

林:お年を召されて、とかですね。

福島さん:そうですね。そういうのは調節もできます。

林:最後に、みなさんにメッセージをお願いします。

福島さん:はい。ぜひこれを機に、うちの足袋をお試しいただけたらと思います。社訓はないのですが、近江商人の「三方よし」のような「客よし、社員よし、世間よし」を目指して、お客様に喜んでいただける商品を作り続けていこうと思っております。ちょっといい足袋を履いてみたい方はぜひ、お声がけいただければありがたいです。

足袋を通して、着物を着る文化を残していきたいと語る七代目。それはつまり、日本の伝統を絶やしたくないという思いです。それを胸に「大野屋總本店」は今日も、一つひとつの足袋を丹精込めて作り続けています。

※この対談を動画で見たい方はコチラ

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