天明3年(1783年)の創業以来、刃物ひとすじ240年の歴史を持つ「うぶけや」。二代目以降、店をしっかり持ち、腕のいい職人に刃物を作らせ自身で刃をつけ、納得いくものを販売する「職商人」という形態でお店を守ってこられました。そんなうぶけやの八代目ご当主である矢崎豊さんに、包丁、はさみ、毛抜きの製法から、毎日使う包丁のお手入れ法などのお役立ち情報まで伺います。
天明3年(1783年)の創業以来、刃物ひとすじ240年の歴史を持つ「うぶけや」。二代目以降、店をしっかり持ち、腕のいい職人に刃物を作らせ自身で刃をつけ、納得いくものを販売する「職商人」という形態でお店を守ってこられました。そんなうぶけやの八代目ご当主である矢崎豊さんに、包丁、はさみ、毛抜きの製法から、毎日使う包丁のお手入れ法などのお役立ち情報まで伺います。
本日はうぶけや八代目当主の、矢崎豊さんにお越しいただいております。まずはお店のご紹介をお願いします。
うぶけやは天明3年、1783年に大阪の新町橋橋詰、現在の南船場4丁目にて創業しております。江戸に出てまいりましたのは1800年代に入りましてからで、江戸長谷川町、現在の堀留町に江戸支店として店を構えます。明治維新の前に新泉町、人形町に移りまして今に至っております。
扱ってまいりました品物は包丁、はさみ、毛抜き、一般刃物でございます。包丁、はさみ、毛抜きを3本柱といたしまして各種道具、切出しや、さや入り小刀なども扱ってまいりました。
おかげさまで、私で八代目でございますが、私も代々に倣いまして、職商人として毎日一生懸命やらしていただいております。
では、包丁、はさみ、毛抜きの研ぎの様子を解説していただけますでしょうか。
今日ご覧いただくのは研ぎ直しといって、修理でございます。店の奥が研磨場、研ぎ場となっております。ここでは直径75センチの大きな丸い砥石を回しております。
まず荒砥ぎです。粗い方の砥石で包丁の厚みや、形状を直してまいります。
このときに研ぎ手といって、包丁の持ち手を右手、左手と交代しながら研いでおります。これは角度を両側からきちっと決めて、両刃に研ぐためでございます。包丁をちょっと滑らせるような感じで研いでおりますが、これは丸い砥石に対して、包丁を平らに当てるためでございます。
だいたい研ぎ上がりましたら、次は中仕上げになります。研ぎ方としては荒研ぎとまったく一緒ですが、このとき、刃が薄くなりすぎないように気をつけております。私どもの業界用語で、ハマグリっ刃(ぱ)といいますが、海のハマグリに見立てたものです。横からハマグリを見ると、先は段がなく、すっと尖っている形状ですが、元の方はちょっとふくよかな感じといいましょうか。そのハマグリのような形状の刃が良しとされております。これで大体刃の肉が取れ、刃の形状がピタッと合ったわけでございますね。
最後は仕上げになります。中砥石で仕上げてまいりますが、このときもやはり刃が薄くなりすぎないようにちょっと工夫をしております。包丁を手元へ引くときに、ちょっと浮かし気味にするのです。そうすることで、刃物自体がちょっとローリングするような形になります。これによって薄くなり過ぎることがありません。ところが一般の方がこの研ぎ方を真似すると、丸っ刃(ぱ)といって食いつきが悪くなります。一般の方はまっすぐ、まっすぐと思っていただいた方がよろしいと思います。
最後は、天然の仕上げをかけます。この細かく、硬い石をかけることによって、より食いつきが出てまいります。
きちっと研ぎあがった包丁を点検します。きちっと研ぎあがった包丁は、髪の毛にクッと、その包丁の重み自体で乗るわけでございます。
では次にはさみの研ぎ方について教えてください。
裁ちばさみはネジを外して、バラバラの状態で研いでまいります。最初に全体的なサビ、また汚れを磨いてまいります。次が刃付け。刃引きとも申しますが、火花が一定のところから出ているのが正しい研ぎ方ですね。あっちこっちを研いでいないということです。
次が裏すき、裏研ぎとも申しますが、包丁とは逆にペタッと押し当てるようにして、裏をすいてまいります。これは切れる部分である鋼を削り取るので、あまり傷んでないもの、またさびてないものは手磨きで仕上げてまいります。
最後はひずみ打ちです。手前どもでは調子合わせと呼んでいて、二つの刃がスーッとすり合うように調整をしてまいります。刃を起こしたり曲げたりを、叩きながら調整していきます。
皆さんはさみというと、ペタッと合いながら切れていくって印象をお持ちですが、そうではなくて、点で合っていくのです。点で合うことによって、軽い調子でスカッと切れるわけです。ですから刃を広げた状態でゆっくり合わせたときに、点が刃元から刃先に向かってスーッと動いていくのが理想形なのです。その理想に合わせるように調整をしていきます。
なるほど。
次が毛抜きでございます。先ほど申し上げたように、つまむところを口と申しますが、その口に研磨剤を挟んで、指でコリコリと合わせながら平らに直してまいります。
そして荒い研磨剤から細かい研磨剤にしていきますが、その研ぎ上がりの目安というのは、すり合わせたとき指に伝わってまいります感覚が、すべすべっとしてきたときです。それを確認するには毛抜きを閉じ、裏から光の方に透かします。光が漏れてこなければ仕上がりでございます。裏からまったく光が漏れてこないわけですね。これで研磨の方は、仕上がりです。
最後に頭と申しますが、一番先をすり合わせます。これをすり合わせることによって、毛が切れにくくなるわけですね。再度確認しまして研ぎあがり、完成でございます。これによって滑らず、切れにくい毛抜きになってまいります。
素晴らしいですね。こういうたくさんのプロセスを経て、あれだけの製品に仕上げられていることですね。
そうですね。本来、刃物屋さんというのはこうするのが当たり前だったのですが、今はなかなかやるお店が少なくなってまいりました。
やはり職商人として長く続けておられるから、こういった技術も継承されているのですね。
代々継承してございますので、私で辞めるというわけにもいきません。
「刃物を研ぐ」と一口に言っても、その過程は実に細かいもの。それはなにより、お客様に最高の逸品を届けるため。現在では少なくなってしまったという技術を看板に、今日もうぶけやは刃先を見つめ続けています。
後編へ続く
※この対談を動画で見たい方はコチラ
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