Tokyo

12/22 (日)

日常的に使うものだからこそ、手入れを欠かしてはいけない。「うぶけや」が伝える、刃物のメンテナンス法

天明3年(1783年)の創業以来、刃物ひとすじ240年の歴史を持つ「うぶけや」。二代目以降、店をしっかり持ち、腕のいい職人に刃物を作らせ自身で刃をつけ、納得いくものを販売する「職商人」という形態でお店を守ってこられました。そんなうぶけやの八代目ご当主である矢崎豊さんに、包丁、はさみ、毛抜きの製法から、毎日使う包丁のお手入れ法などのお役立ち情報まで伺います。

前編の記事~

刃物を長く大切に使うために、家庭内でできる手入れの方法

続きまして、お手入れの方法についてもご教示いただけますでしょうか。

皆さんご存じだけどもなかなかしていていただけないのが、刃物のお手入れですね。まず包丁でございます。包丁はとにかく使っている最中でもこまめに拭いていただくことです。

今はよく、さびに強い包丁をお使いだと思いますが、さびに強いと申しましても、水気に強いだけで塩気、酸にはあまり強くないです。ですからステンレスの流しでも、ほおっておきますと色が変わりますでしょう。それと同じです。塩気、酸がついているのが一番まずいです。

またステンレス系統というのはさびにくいですが、一旦さびますとどんどん中にピンポイントで入っていくという特性があるのですね。そうしますとピンホールといって、穴が開くわけです。それがちょっと怖いので、とにかく汚れを取っていただくことです。

よく寿司の板前さんが、ネタを切って握る場合、包丁をすっと拭く所作が入りますよね。皆さん、あの所作を身につけていただきたいですね。

お料理が全部終わりましたら、洗剤をかけて汚れをよく流していただく。その後にお湯をかけ、拭き上げていただくのが良いですね。グラグラ沸いたお湯でなくても、湯沸かし器をちょっと熱めにして湯通しして拭いていただくと、包丁自体が温まり、水気の飛びが早いです。

あとよく、食洗機に入れても構わないかとお尋ねされます。ともえと言いまして、柄まで金属のものは構わないですけど、やはり従来型の柄が差し込んであったり、両側から挟んであったりするものは、柄が傷みやすいです。そうした包丁はおやめになった方がよろしいかもしれません。

はさみはいかがでしょうか?

はさみの場合、とにかく乾拭きでございます。常に拭いていただくことです。あと特に裁縫用の握りばさみは、直接握って使うわけですから手汗のシーズンになりますし、細かく拭いていただくことですね。

それと油拭きと申しまして、布に少し油を垂らしていただき、軽く拭いていただきます。特に刃の合っている内側の鋼の部分をよく拭いてください。あと事務用のはさみで、糊やセロテープの粘着物を付けたままにしている方がいらっしゃいますね。それもやはり、さびやいたみの原因になりますのですぐ取っていただきたいと思います。シンナーなどが一番よく取れますが、手に入らない場合はマニキュアの除光液ですとか、シール剥がし。そのようなものでも代用いただけます。

あとは園芸用とか、お花用のはさみですね。これはもうまったく包丁と同じお手入れです。どうしても水気がつきますし、汚れもつきやすいので、とにかく使い終わったら汚れを洗剤でかけて流していただいて、お湯拭きをしていただくことです。

油はきちっとつけておいた方がいいですね。特にねじ下といいまして、歯がすり合うところは、鋲やねじで止まってますでしょう。その刃と刃の間に垂たらし込んでいただき、ゆっくり開け閉めします。そうしますと、汚れや切りカスも一緒に流れ出ますので、それを拭いていただきます。そしてまた少し油を垂らし、開け閉めしていただくと、鋲やねじに油が回りますから、さびで開かなくなるということがなくなるわけです。裁ちばさみも同じようにしていただくと、切りカスが出ますのでよろしいかと思います。

先ほどから油を引かれるというのをお勧めされていますが、どんな油が良いでしょうか。

やはり一番いいのが酸化しにくい機械油ですね。ですからミシン油なんかでも結構です。ところがどうしても、お口に入る食物を切る包丁の場合は嫌だと言うお客さまもいらっしゃるので、その場合は椿油がよろしいかと思います。

なるほど。そういった手に入りやすい油を使っていただいて、ということですね。ところで、どのような素材の包丁でも、同じように研ぐのですか? 家庭で研ぐときに気をつけることありますか?

とにかく鋼の包丁もステンレス系の包丁も、研ぎ方はまったく一緒です。

ただしステンレス系のものは、砥石の食いつきが悪いんです。滑る感覚が出るのです。ですからさびにくい材料のものは、少し粗い砥石からかけた方が、刃の出が良い。要するに尖るのが早いと思います。

家庭で研ぐときに気をつけることですが、皆さん、早く研ごうと思って、角度を立てすぎるのです。立ててゴリゴリしちゃうものですから、だんだん刃の角度が鈍角になっていくんです。一度鈍角にしてしまうと、もう一度薄くするのが結構大変です。そうなると専門店へお持ちいただかないと、肉すき、肉取りといった作業はご家庭ではなかなかできません。

刃の角度は、できるだけ少し寝気味にとっておくことです。でもそうすると刃をつけるのに時間がかかります。だから、だんだんと角度を立ててしまうのですね。

普通のご家庭だと、砥石の種類もいくつもあるわけではないので、基本的にうぶけやさんで研いでいただければと思います。

ありがとうございます。ただ毎回はもったいない。料金もかかりますので、まずご家庭で研いでいただいて、もうどうしようもなくなったらお持ち込みいただくことが、一番よろしいのではないでしょうか。

ありがとうございます。そして毛抜きについてはいかがでしょうか。

毛抜きはしばらくお使いいただくと、皮膚の脂やお化粧のファンデーションが付着して、滑る感覚が出ますね。そうしますと皆さん、毛抜きが傷んだと思われるのですが、そうではなく脂分で滑っているのです。それを拭き取っていただけばよろしいのです。拭き取るものは、毛羽立っていない眼鏡拭きや、繊維の強くない紙や用紙。茶封筒でよろしいと思います。それを挟み、滑らせる感じで拭き取っていただきます。

よく洗う方がいらっしゃいます。洗うのは大変結構ですが、そのときよく洗おうと思って指で押し広げてしまう方がいらっしゃいます。毛抜きのように曲げて調節した道具というのは、無理に開けてしまいますと元に戻らなくなる場合と、もし戻っても、どうしてもそのずれが生じます。そうなればもう直しきれなくなります。洗うのは結構ですが、押し広げるのだけは厳禁と思っていただければよろしいでしょう。

ここは大事なポイントですね。結構広げがちですから。

そうなのです。広げてずれてしまったといってご来店されますね。

うぶけやさんは、紡いでこられた歴史や職商人として受け継いでこられた製品、提供してきたサービスを元にブランド構築されてきたと思います。うぶけやさんが考えるブランドについてお話しいただけますでしょうか。

そうですね。少し抽象的になってしまいますが、安心と満足というものだと思っております。あの品物だったらあそこの店で買えば大丈夫だよ、この仕事だったらそこへ頼めば、またこの料理だったらここで食べれば大丈夫だと、安心して買い、また頼み食べて、そして「ああ、やっぱりさすがだね」と満足する。それがブランドだと思っております。

ありがとうございます。残り時間わずかとなってまいりましたが、最後に一言お願いできればと思います。

駆け足でお話しさせていただきましたが、何か一つでも心に留めていただいたことがあれば、幸いでございます。包丁の研ぎですとか、ハサミの研ぎでお困りの方はいらっしゃると思いますが、手前どもは毛抜き以外でしたら、よそ様のお店の道具でもお直しをしています。どうぞお気軽にご相談ください。

刃物を長く使うためには、きちんとしたメンテナンスが必要不可欠です。うぶけやがそれを伝えるのは、どの家庭にもある刃物を愛し、守っていきたいからなのでしょう。そんな愛情を胸に、うぶけやはこれからも、老舗刃物屋として走り続けていきます。

※この対談を動画で見たい方はコチラ

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