SDGsな道具としても注目。天才の技が継がれた江戸箒
店内に入ると、壁一面にかけられた江戸箒が目に飛び込んできます。さまざまな大きさや形の箒がずらりと並ぶ光景は芸術的。「あくまでも生活で使う道具ですが、うまい人間がつくると美しく仕上がる」と話すのは、白木屋傳兵衞7代目ご当主の中村悟さん。簡略化した製法に移行する箒店が多い中、今もほぼ手作業で職人がつくり、江戸箒づくりの天才といわれた創業者の技術を守っています。
白木屋傳兵衞ならではの製法が、「草選り」という作業。仕入れたイネ科のホウキモロコシの穂を合わせる際に、穂を指先でこすって“ランク分け”をします。良い穂になるほど弾力があり、草が多くなるため、ほこりをまとめやすく耐久性にも優れます。頼るのは指先の感覚だけ。箒を1000本つくれば1種類の穂の違いが分かるようになるという世界です。そこから2000本、3000本と経験を積み、あらゆる穂の違いを体にしみ込ませます。草選りをすることで、同じランクの箒に当たり外れが生まれず、一定の品質を保つことが可能に。「10年後にまた買いたいと言われても、綴じ糸の色を見れば、ほとんど同じものを提供できます」。ご当主が自信を持ってそうおっしゃるのは、決して機械化できない職人技があるからこそです。
穂は“ランク分け”をしたあと、竹柄とのバランスを考えて編まれます。1本を編み上げる時間は、早ければ1時間半ほど。そうして完成した江戸箒は驚くほど軽くてしなやか。同じランクでもコシや掻き出しの強さなど繊細な差があるため、白木屋中村傳兵衞商店では、箒を買う方に必ず試し掃きをすすめています。何本もの箒を試すうちに、体にしっくりくる1本が見つかるから不思議。生活を共にする相棒のような親近感が湧いてくるのも頷けます。
高度経済成長期以降、箒に代わって掃除機が台頭。しかし、ご当主は「箒こそ現代生活に合う道具」と話します。音が響かないので早朝や深夜も使える、スペースを取らない分コンパクトなお部屋でも邪魔しない、そして電気を使わないから環境に優しい。「実はSDGsなんです」とご当主が言うように、100年先まで受け継いでいきたい道具です。