Tokyo

05/06 (月)

昔ながらの製作方法に職人の魂が宿る。唯一無二の柘植の櫛を生み出す老舗櫛屋「十三やくし店」

創業以来、櫛を作り続けて287年。贅沢な素材に受け継がれた手技が詰め込まれたその櫛は、日本産最高級の柘植(つげ)の木を、燻製後5年以上も寝かせて、ようやく製造に入れるといいます。研ぎ澄まされた感覚でしか形を成しえない、珠玉の櫛ができるまでを、老舗「十三やくし店」十五代目・竹内敬一さんに伺いました。

本日は、十三やくし店十五代目の竹内敬一様にお越しいただいております。早速ですが自己紹介をお願いしてもよろしいでしょうか?

竹内敬一と申しまして、お店の名前は十三やくし店です。そちらの十五代目になります。私が仕事を始めたのは1986年、昭和61年に高校を出てからです。自分の家だったので、周りから継がないともったいないぞと言われ、実際先代の父親からは一言も継げとは言われなかったんですが、後を取ることを決め、そこから修行し始めました。

何歳ぐらいから修行し始めたんですか?

正式にやり始めたのは高校出てからなんですけども、実際は中学の頃お小遣いはなく、櫛を一枚磨いたらいくら、というような体のいい修行をさせられていました。

お手伝いをするとお小遣いもらえるよ、みたいなスタイルですよね。小さい頃からお家の家業に触れる機会がとても多くて、なんとなく継ぐのかなみたいなことを、もう中学生ぐらいに思っていたんですかね?

もう小さいときは、当たり前でしたね。仕事場と自宅が一緒ですから、学校や幼稚園が終わって帰ってくると仕事場に行って覗き込んで、もう完全に門前の小僧状態でした。ですから、初めのスタートラインを一からやる人よりは、三つ四つ得していたかなと思いますね。

つづいてお店の紹介をお願いできればと思います。

東京は上野、昔は池之端と言っていたんですが、そこの場所にございまして、1736年から287年間、同じ場所で柘植の櫛一本でやらせていただいている店でございます。

今あるお店の場所がそのままずっと? すごいですね、めちゃくちゃいい場所にありますね。

いやいや、今はいい場所なんですが、昔は実は裏路地でして。不忍池が目の前なんですけども、昭和7年の関東大震災の区画整理を機に、目の前が大通りになったんです。いい場所に感じるかもしれないですが、昔は裏通りだったそうなんです。

そうなんですね。お伺いした時は不忍池に咲く蓮がとても美しくて。目の前にはそういった風景があるというお店です。十五代続けてこられて、どんな物を売られているか、ご紹介いただいてよろしいでしょうか?

江戸時代から変わらない仕事を守っている

もちろん柘植の櫛ですね。全部イチから仕入れて加工するまで、また加工し始めてから製品にするまでも私どもでやるんですよ。本当に珍しくて、一部もちろん機械化してる部分もあるんですけれども、江戸時代から歯の中を作る仕事は全く変わってないんですね。

では実際どうやって作っていくか、お話を伺ってよろしいですか。

棒のこの部分がトクサ(という植物)で、貼る前のものと粒のものを持ってきています。こちら、これが粒状のもので、こちらが薄く皮状にしたものなんですけれども、これをお料理みたいにコトコト煮まして、柔らかくして、中に筋があるのでそれを綺麗に取ったものをこの棒にご飯粒の糊で貼り付けているものなんですね。

この薄い板自体は、何がベースの板なんですか?

これは桜の木です。

何の木でもいいんですか?

いいえ、柘植は硬くて密度のある木なんですけど、柘植より柔らかいもの、ほとんどがそうなんですけども、同じ材料でやってしまうと喧嘩してトクサが駄目になってしまうので、若干柔らかめの木が良いですね。

しなってくれるようなもの、ということですね。桜の木にご飯粒で、ですか。

昔はそれしかなかったっていうのもあるんでしょうけど、今だにそれをうちがやっているのは、例えばちょっと剥がれたり切れなくなって交換ってなると、お湯に漬ければすぐ剥がれるんですよ。拭いて、またご飯粒を練って貼り付ければ元通りなんです。

では一つこのお道具を作られると、わりと長く使える感じですか?

そうですね。1回貼ると大体30枚ぐらいは作れます。

30枚作るのって大体1カ月とかですか?

30枚ですと10日間ぐらいですかね。

表面のトクサが駄目になっちゃうんですか?

切れなくなります。

木は大丈夫だけど、トクサは替えるということですか?

そうですね。

鰻屋さんのタレみたいに、中の棒はずっともうかれこれ五、六代使っていますとかそういうことはあんまりないですか?

いや、そういうのもありますよ。櫛屋って結構つぶしの利かない職業でして。櫛屋は櫛しか作れないんですよ。ですから、例えば職人さんが廃業されたりやめられたり、お亡くなりになった時に、そこに跡取りがいなければ、使っていた道具を買い取って、自分たちが多少加工して自分の使いやすいようにして、道具を作り直してどんどん使っていくんです。ですから私が今使っている道具も、誰が使っていたかわからないぐらい古いものを使っています。

すごいですね。そういう綿々と受け継がれてきたもので、お作りになられているということですね。最初の工程としてはどうなるんでしょうか?

トクサが最後の磨きの工程になりますので、初めは同じような材料のものにサメの皮を張ります。サメ皮ってよくわさびをおろしたりしますよね。あれと同じで、粗削りにすごく向いているんです。それで大まかな形作りをしてあげます。どうしてもザラザラが残っていますので、鋼のヤスリで整えます。それから何種類もあるので櫛の目の粗さによっても違うんですが、トクサ棒で中を1個1個磨くイメージですね。

かまぼこの板みたいですね~。

初めに、刃先と後ろの方をこういう状態で製材してもらうんです。まだ生木の状態で、そのまんま何年寝かせていても、櫛にしたときに生木はすぐ戻っちゃうので、暴れて駄目になっちゃうんです。それを落ち着かせるために、ここが黒くなっていますが、柘植を燻して、燻製ということなんですけど、アク抜きをしてあるんですよ。

アク抜き! なんかおいしそうですね(笑)。

原料は最低5年寝かせることで使い物になる

アクを出してあげてから初めてやっと自然乾燥で、うちの場合最低5年、大きさによってはもうちょっと寝かせます。

アクを抜いてから寝かせないと、時間を置いても意味がないってことなんですね。5年ってすごいすね。結構倉庫にいっぱいですか?

はい、もう家の中いっぱい積んでます。

あれ、これ4年目だったか、3年だったかな……とかそういうのわからなくならないですか?

それはもう全部ちゃんとタグ付けしています。ちゃんとやっとかないとわからなくなっちゃいますからね。

ウイスキーみたいに何年物がいいっていうのがあったりするんですか?

よく聞かれるんですけど、寝かせば寝かしただけいいのかというと、別にそういうわけではないですよ。密度のない木だったらストーブ乾燥っていって、室の中に入れてストーブで乾かしちゃえば中まで乾いてしまうんですよね。ところが柘植ってものすごく密度がある木なんで、そんなことやっても表面の水気しか取れないんです。ですからゆっくりゆっくり時間をかけてあげなきゃいけないんで、5年は最低かかるんです。この処理をしてあげれば、たとえば50年間置いてから作ろうとした時でも、材料が駄目になっていないんです。

うわーすごいですね。

ところが、生に近い状態、生の状態で置いているとやっぱり駄目になるんです。

水分の抜けが悪いと駄目なんですかね?

昔から言われているんですけど、燻せば大丈夫、と。実は重さも全然違うんです。

それを加工していくんですね。さっきの唯一機械化がされているというもので、のこぎりで歯を付けるんですね。

丸鋸で1本1本引いていくんです。

引いていく、って言うんですね。

櫛一本で287年の歴史を誇る「十三やくし店」。その秘密は、一つひとつの商品を職人技で丁寧に仕上げることにあるようです。それは決して容易なことではありません。それでもこだわりを捨てずにつづけてきたことが、櫛屋としての確固たる地位につながったのでしょう。

後編へ続く

※この対談を動画で見たい方はコチラ

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