Tokyo

12/04 (水)

国内産の原料にこだわり、一本一本の歯を手作業で紡ぎ出す。老舗「十三やくし店」のこだわり

創業以来、櫛を作り続けて287年。贅沢な素材に受け継がれた手技が詰め込まれたその櫛は、日本産最高級の柘植(つげ)の木を、燻製後5年以上も寝かせて、ようやく製造に入れるといいます。研ぎ澄まされた感覚でしか形を成しえない、珠玉の櫛ができるまでを、老舗「十三やくし店」十五代目・竹内敬一さんに伺いました。

前編の記事

さて、ここで視聴者の方から質問が来ていますね。「道具や櫛の材料はどこから仕入れるんですか?」ということなんですが。

うちは完全に日本の鹿児島、指宿ですとか開聞岳の辺り、あとは頴娃町の方で切ってもらって、そこの土地の柘植だけです。あちらでちゃんと組合があって、今は3軒ですかね。巷ではいろんな素材が出回っていますが、全部が日本のものでは正直ないんです。

柘植の木といっても、made inほにゃららっていうものもあるんですね。

当然肌触りも違えば丈夫さも全部違ってきますんで。うちはこだわりで、日本の最高級のものしか扱いません。元々柘植が出るところって日本では昔から4カしかございません。江戸の職人ですから、今でいう東京都の御蔵島、三宅島、利島の柘植というのがあるんです。その他に今申し上げた鹿児島の柘植があるんです。日本でその4カでしか取れないんですよ。

なるほど。原料の担い手が減ってしまうと伝統工芸は苦しいという話ありますが、鹿児島に作ってくれている人がいるということで、ありがたいですね。本当に大事な問題なんですよね。そのおかげで伝統工芸が維持できているということかなと思います。それで、丸ノコでバーっと切って引いていくわけですよね?

そうです。それから歯ずりといって1本1本中を磨いていくんですね。ですから1日ずっと座り仕事で、ひたすらそうやって手を動かしています。自分では数えたことないですけど、大きめの櫛を作るのに何千回やっていましたねって、とあるテレビのディレクターの人に言われたこともあります。ちょっと独特で、江戸時代から基本的に変わっていないっていうのが、うちの作り方ですね。

全部一点物のようですね。形は大体同じに作るように意識しているものですか?

高い木なので、仕入れの段階、原価でここのサイズはいくら、1枚いくらって決まるんですよ。ところが、やっぱりギリギリじゃ作れないじゃないですか。それで昔から言われている、大体二分~三分幅、つまり6ミリから9ミリ幅ぐらいで。ざっと言うと四寸二分、四寸五分、四寸八分、五寸、五寸三分、五寸五分っていうふうに細かく細かく6ミリ9ミリずつサイズ別で作っていきます。

手のサイズに合わせてということですか?

そうですね。あとは使われる方の好み、特に昔はうちの場合ですと花柳界ですとか、ああいうところの髪結いさん相手に商売させていただいていたんで、それこそ北は札幌、函館。箱根の山というのは相当険しかったので、そこから東北側がテリトリーなんです。

なるほど。流通の限界がありましたもんね。

昔は真ん中の部分を木曽の藪原の職人さん、西南が大阪の職人さんがテリトリーとして持っていたんですけども、今はそういう垣根はなくなりました。逆に言うとその垣根がなくなってしまったんで、それこそ後でちょっとご説明しようと思ったんですが、櫛のこの2枚の形、実は東型って言いまして、東京江戸の形なんですよ。この形が女性でいうと、後ろから見たときのなで肩の感じ、柔らかい感じになっているということで、東型はこの形なんです。西の方に行くとなにわ型って言いまして、もうちょっと肩が張ってるんですね、昔の櫛。ちょっといかり肩のように見えるんで、その違いがはっきりわかったんですけど。今はこの東型が全国的に主流になっているのは、見栄えがやっぱりいいからで、ただ元々は江戸東京の形です。

そういうふうに形を作られて、磨いていって、どういう仕上げになってくるんでしょうか?

形を作りまして、またトクサで表面を磨いて、最後は鹿の骨でツヤを出します。

鹿の骨にはどういう効果が?

ツヤを出すために使うのは「鹿の骨」

要は、磨きはトクサでやった段階で終わってるんですが、ツヤは出ないんですね。ですからそのツヤを出すために、面を鹿の骨で潰してあげるんです。

鹿の骨でツヤを出そう、って気がついた人がすごいですよね。ということで、その出来上がりが3種類ございまして、今日持ってきていただいております。

何千種類のうち本当にごく一部ですが。ご自宅使いのとかし櫛、目の細かめのものが下の方で、逆に一番粗いものが真ん中ですね。一番上のものがセットコームといいまして、戦後入ってきた形です。当時の女性はお休みになる前にカーラーを巻いていたので、そのときに使いやすいようにと、完全に西洋の形を採用しています。縦板の棒がついているので、どうしても1枚の板では作れないんです。上の部分と歯の部分とのツーピースの作り方で、合体しているんです。

合体させるんですね。

そうですね。これは逆毛を立てたりとか、細かい作業をしたりするための櫛なんです。あくまでもとかし櫛というのは下の2枚で、この間にも2種類ほど目の粗さがあるので、私どもへお見えいただければ、お使いになりたい方の髪質・髪型・量などに合わせて、お客様でしたらこれがいいですよと、実際に使っていただけるものもご用意してるので、納得の上でお買い上げいただくっていうのが今のうちのやり方です。

さて十三やくしが考えるブランドについて、ぜひ教えていただければと思います。

うちの櫛には、「十三」という小さい刻印が押してあるんです。これがあればうちの櫛ですよ、間違いないですよ、と。この刻印に恥じない、これがイコールブランドだと思って日々作っています。

それはもう初代ぐらいからやっているんですかね?

ずっとそうですね。

ひょっとしたら、おじいちゃんがお作りになられたものを持ってきて、これ直してとかあったりするんですか?

ありますね。これ見て~とかね。

これは先代のやつかなとか、見てわかったりするんですか?

私が見てるものはわかります。

すごいですね。老舗さん自体も代を重ねられているんですけど、お客様も代を重ねていらっしゃいますもんね。「十三」と入ってると、ああ、十三やくしさんだなっていうのはもうお客様もわかる。そういうものがブランドなんじゃないかな、というお話でございました。

商品に押された刻印に恥じないものを作る。そのプライドこそが、「十三やくし店」のブランドをここまで高めることにつながったと言えるかもしれません。櫛一本での商売は今後、300年400年とつづいていくのでしょうね。

※この対談を動画で見たい方はコチラ

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