存在しつづけることが“ブランド”である。楊枝専門店『日本橋さるや』が考える、ブランドの在り方

日本橋 楊枝 爪楊枝

楊枝といえば私たちにとって身近な商品です。しかし、あなたはクロモジの楊枝を使ったことがありますか? 日本唯一の楊枝専門店『日本橋さるや』は江戸時代から300年以上続く、日本の楊枝の歴史を体現するようなお店です。そんなさるやが大切にする「クロモジ」はどんな特性があるのか、また同社はさるや“ブランド”をどのように確立しているのか? 千両箱、辻占楊枝、お酒、名入れなどさまざまな商品・サービスのラインナップも紹介いただきつつ、日本橋さるや九代目山本亮太さんの想いや考えを伺いました。

前編の記事

千両箱、辻占楊枝、お酒、名入れ……さまざまな商品・サービスのラインナップ

楊枝は、いろいろな商品のバリエーションとして展開されているのですよね?

楊枝には歯間用・和菓子用の2種類があります。和菓子用で用いられるイメージの強いクロモジですが弊社では歯間用にも用いており、一本一本手で削ったり、丸型の刃物の型に通したりして細い楊枝の先端を実現しています。

たとえば、桐箱に楊枝を入れて「千両箱」のデザインを施し、お土産用に販売しています。

みなさんがこれまで飲食店で目にした千両箱は、さるやさんのものかもしれないということですね。

五代目から始まったこの商品、桐箱の「金千両」という墨文字は代々当主が書く習わしとなっています。今は父である八代目に書いてもらっていますが、いずれは私も書くことになるでしょう。

達筆じゃないと大変ですね。

私の父ももともと悪筆なのですが、この千両箱の文字だけは練習を積み、機械のように正確に書けるようになっています(笑)。私の祖父にあたる七代目は、14歳のときから書かされていたと話していました。

ほかにもいろいろな商品ラインナップがありますね。

『辻占楊枝』は、粋な文句が記された小さな紙で楊枝が包まれている商品です。楊枝自体にプラスアルファして楽しんでいただく遊びを持たせたいという考えでつくられた商品です。

まさに江戸の粋というようなしゃれっ気が込められていますね。

クロモジの香りを利用して、リキュールや日本酒といった商品も製造しています。

ほかに、楊枝への「名入れ」のサービスなどもされているとお伺いしました。

老舗の先輩である『日本橋弁松総本店』さんからご紹介いただいたダンサー兼書道家の内山青崚(せいりょう)さんの直筆名入れサービスをご提供しています。

こんな今風のおしゃれな青年が書道をやってくれているというのは、我々としてはうれしいですね。

つづいてご紹介したいのは、干支が描かれた桐箱のラインナップです。長い歴史のなかで、リアルなものからかわいらしいものまで、さまざまな絵柄が生まれました。

『いせ辰』さん風の犬張子などもかわいらしいですね。

来年の干支のデザインは前述の内山青崚さんに頼んでいて、またがらりと変わる予定です。

デザインもバージョンアップがつづけられているのですね。

『日本橋さるや』にとっての“ブランド”とは何か

さまざまな商品・サービスのラインナップを伺ってまいりました。ここで『日本橋さるや』にとっての“ブランド”とは何かについてお伺いできますか?

お客様の期待を裏切らないこと、ご要望にはできる限りお応えすることは心がけています。楊枝の用途は基本的には決まっているので、細さや長さといったご要望ですね。また、かつてたくさんあった『さるや』のなかで現在残っているのは弊社だけです。そのため、存在しつづけること自体が一つのブランドなのかなという風に思っています。

「伝統は革新の連続である」という言葉がありますが、『日本橋さるや』でも今に至るまで新しい試みがたくさん行われているそうですね。

最近プレスリリースを出させていただいたのは、桐箱のデザインの『NFT化』ですね。

もともとの桐箱の柄を現代作家などの他者にリミックスしてもらい、再構築して『NFTアート』と『楊枝』の両方で販売するという新しい試みです。ぜひみなさん「さるや NFT」などで検索して実際にご覧になってみてください。

『日本橋さるや』が見据える未来と、ブランドとして大事にするもの

時代や環境が移り変わるなかで、『日本橋さるや』は今後どのように老舗として商売に取り組んでいこうと考えられているのでしょうか?

直近の課題としては、日本橋の中央通りが再開発により工事現場となり、お客様の往来が減少してしまうという問題がございます。そこを乗り切れるよう頑張っていきたいですね。

通販などにも力をいれはじめられていますよね。

クロモジはまだまだ世間の皆様に知られていない要素ですから、今後も広めていくことに注力していきたいと考えています。

その目標達成に向け、講演といった啓蒙活動にも積極的に取り組まれていましたよね。コロナ禍で一度お休みになりましたが、だんだんと再開できる環境が整ってきているのではないでしょうか?

以前のようにお客様が戻ってき次第、取り組んでいく所存です。

商品ラインナップを刷新する中で、ブランドとして変える部分・変えない部分の判断は非常に難しいと思います。そのあたりどのように判断されているのでしょうか?

大前提は、クロモジから離れないということです。過去には全く別の事業に進出したこともあったようなのですが、やはり“さるやといえば楊枝”です。デザイン等の要素については、率直にお客様に感想を伺っています。「『さるや』らしいのはこっちだよね」「こっちは新しいね」といった意見を勘案して、私どもの判断に反映させていただいている状況です。

意見の取捨選択は大変そうですね。

最後はそのときの当主の個性と考え、自分で判断するようにしています。

山本さんは、ご自身のお子さんに『日本橋さるや』を当主として継承してほしいというお気持ちはあったりするのでしょうか?

全くありません(笑)。続けることが価値とはいいましたが、息子である必要はないですね。自分も「継げ」言われたことはありませんし、そういうつもりで生きてもいませんでしたから。

山本さんご自身はなぜ『日本橋さるや』を継ごうと思われたんですか?

親の代で『日本橋さるや』を終わらせるわけにはいかないと思ったからです。経営にあたってサラリーマン時代の経験も役立ちましたから、当時の上司や同僚の方々には感謝しています。

最後に、山本さんより読者のみなさんに一言お願いいたします。

日本橋には老舗のみならず、工芸、海苔や佃煮といった食品など、非常に多くの専門店がございます。クロモジを実際に手に取ってにおいを嗅いでみることで初めてわかる良さもあるかもしれません。ぜひ歴史を知るなどさまざまな目的で日本橋に足を運び、『日本橋さるや』にも訪問していただければうれしいです。

10万年以上前から人類に使われてきた楊枝ですが、クロモジに込められたこだわりや商品ラインナップに込められた“遊び”を楽しめるのは、『日本橋さるや』のある世に生きる我々の特権です。武士も利用していたという香りのリラックス効果や、職人技で生み出された繊細な歯ざわりをぜひ実際に味わってみてください。

※この対談を動画で見たい方はコチラ


楊枝は、いろいろな商品のバリエーションとして展開されているのですよね?
楊枝には歯間用・和菓子用の2種類があります。和菓子用で用いられるイメージの強いクロモジですが弊社では歯間用にも用いており、一本一本手で削ったり、丸型の刃物の型に通したりして細い楊枝の先端を実現しています。たとえば、桐箱に楊枝を入れて「千両箱」のデザインを施し、お土産用に販売しています。
みなさんがこれまで飲食店で目にした千両箱は、さるやさんのものかもしれないということですね。
五代目から始まったこの商品、桐箱の「金千両」という墨文字は代々当主が書く習わしとなっています。今は父である八代目に書いてもらっていますが、いずれは私も書くことになるでしょう。
達筆じゃないと大変ですね。
私の父ももともと悪筆なのですが、この千両箱の文字だけは練習を積み、機械のように正確に書けるようになっています(笑)。私の祖父にあたる七代目は、14歳のときから書かされていたと話していました。
ほかにもいろいろな商品ラインナップがありますね。
『辻占楊枝』は、粋な文句が記された小さな紙で楊枝が包まれている商品です。楊枝自体にプラスアルファして楽しんでいただく遊びを持たせたいという考えでつくられた商品です。
まさに江戸の粋というようなしゃれっ気が込められていますね。
クロモジの香りを利用して、リキュールや日本酒といった商品も製造しています。
ほかに、楊枝への「名入れ」のサービスなどもされているとお伺いしました。
老舗の先輩である『日本橋弁松総本店』さんからご紹介いただいたダンサー兼書道家の内山青崚(せいりょう)さんの直筆名入れサービスをご提供しています。
こんな今風のおしゃれな青年が書道をやってくれているというのは、我々としてはうれしいですね。
つづいてご紹介したいのは、干支が描かれた桐箱のラインナップです。長い歴史のなかで、リアルなものからかわいらしいものまで、さまざまな絵柄が生まれました。
『いせ辰』さん風の犬張子などもかわいらしいですね。
来年の干支のデザインは前述の内山青崚さんに頼んでいて、またがらりと変わる予定です。
デザインもバージョンアップがつづけられているのですね。
さまざまな商品・サービスのラインナップを伺ってまいりました。ここで『日本橋さるや』にとっての“ブランド”とは何かについてお伺いできますか?
お客様の期待を裏切らないこと、ご要望にはできる限りお応えすることは心がけています。楊枝の用途は基本的には決まっているので、細さや長さといったご要望ですね。また、かつてたくさんあった『さるや』のなかで現在残っているのは弊社だけです。そのため、存在しつづけること自体が一つのブランドなのかなという風に思っています。
「伝統は革新の連続である」という言葉がありますが、『日本橋さるや』でも今に至るまで新しい試みがたくさん行われているそうですね。
最近プレスリリースを出させていただいたのは、桐箱のデザインの『NFT化』ですね。
もともとの桐箱の柄を現代作家などの他者にリミックスしてもらい、再構築して『NFTアート』と『楊枝』の両方で販売するという新しい試みです。ぜひみなさん「さるや NFT」などで検索して実際にご覧になってみてください。
時代や環境が移り変わるなかで、『日本橋さるや』は今後どのように老舗として商売に取り組んでいこうと考えられているのでしょうか?
直近の課題としては、日本橋の中央通りが再開発により工事現場となり、お客様の往来が減少してしまうという問題がございます。そこを乗り切れるよう頑張っていきたいですね。
通販などにも力をいれはじめられていますよね。
クロモジはまだまだ世間の皆様に知られていない要素ですから、今後も広めていくことに注力していきたいと考えています。
その目標達成に向け、講演といった啓蒙活動にも積極的に取り組まれていましたよね。コロナ禍で一度お休みになりましたが、だんだんと再開できる環境が整ってきているのではないでしょうか?
以前のようにお客様が戻ってき次第、取り組んでいく所存です。
商品ラインナップを刷新する中で、ブランドとして変える部分・変えない部分の判断は非常に難しいと思います。そのあたりどのように判断されているのでしょうか?
大前提は、クロモジから離れないということです。過去には全く別の事業に進出したこともあったようなのですが、やはり“さるやといえば楊枝”です。デザイン等の要素については、率直にお客様に感想を伺っています。「『さるや』らしいのはこっちだよね」「こっちは新しいね」といった意見を勘案して、私どもの判断に反映させていただいている状況です。
意見の取捨選択は大変そうですね。
最後はそのときの当主の個性と考え、自分で判断するようにしています。
山本さんは、ご自身のお子さんに『日本橋さるや』を当主として継承してほしいというお気持ちはあったりするのでしょうか?
全くありません(笑)。続けることが価値とはいいましたが、息子である必要はないですね。自分も「継げ」言われたことはありませんし、そういうつもりで生きてもいませんでしたから。
山本さんご自身はなぜ『日本橋さるや』を継ごうと思われたんですか?
親の代で『日本橋さるや』を終わらせるわけにはいかないと思ったからです。経営にあたってサラリーマン時代の経験も役立ちましたから、当時の上司や同僚の方々には感謝しています。
最後に、山本さんより読者のみなさんに一言お願いいたします。
日本橋には老舗のみならず、工芸、海苔や佃煮といった食品など、非常に多くの専門店がございます。クロモジを実際に手に取ってにおいを嗅いでみることで初めてわかる良さもあるかもしれません。ぜひ歴史を知るなどさまざまな目的で日本橋に足を運び、『日本橋さるや』にも訪問していただければうれしいです。

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