【第2回】美味しい蕎麦屋を見分けるコツは、お客様の「姿勢」を見ること

芝大門 更科布屋 店主の独り言更科そば蕎麦

「天ぷら」「そば」「寿司」「うなぎ」は、江戸を代表する「食」と言われ、それぞれが江戸の庶民文化の中で培われてきました。このコラムでは、そば店の店主として、そばにまつわる面白い話や、一般的には知られていないそばにまつわる意外な事実などをお伝えします。そば文化をより知っていただくきっかけになれば幸いです。※当コラムは「芝大門  更科布屋」の店内で、月に1話、お客様に配っているリーフレットから転載しております。

信頼のおける蕎麦屋を見分けるコツ

蕎麦屋の旦那も、意外と外で蕎麦を食べます。新進の手打ち蕎麦屋さんにも勉強のために入ることもありますが、やはりどうしても飛び込むとなると代々の老舗に足が向くようです。お蕎麦という食べ物は、蕎麦粉に水を入れて捏ね上げ、薄く延ばして細く切り、茹でた麺を、お湯で煮出した鰹節のだしにしょうゆ・砂糖・みりんを混ぜた汁につけて食べるという、大変単純な食べ物です。誰がこしらえても同じように思われるかもしれませんが、単純だからこそ技術がものをいいます。合理性と言ってしまえばそれまでですが、何かが抜けているように感じる蕎麦屋さんに出合うこともあります。だからこそどうしても信用の置ける古いお店へ……となる気がいたします。色々なお店に伺ってお客様の食べる様子を見ていると、驚くことに「姿勢」が違うことに気付きます。ちょっと背中を丸めてそば猪口を胸の真ん中に構え、そこから箸で蕎麦を摘まみ上げ、汁につけるかつけないうちにぱっと啜り込み、もぐもぐ噛むという光景を見かけます。短いお蕎麦の場合、こういう食べ方になるのだと思いますが、しっかりとした技術のある蕎麦屋さんの蕎麦は長い。長いお蕎麦は、違った食べ方になります。まず、そば猪口を手元に持って背筋を伸ばし、そば汁をたっぷりつけた後、箸でそばを目の高さまでたくし上げ勢い良く啜り込みながら猪口を口元に動かします。

食べる前の動作に「粋」を感じる

蕎麦の長さ、つまりその店の技術の差が、この食べ方の違いを生み出し、「粋」と「イキガル」の違いが生まれるようです。蕎麦屋が感じるさらに粋な姿は、食べる前に蕎麦を食べやすい形に調節する姿ではないかと思います。蕎麦を摘み上げては落とし、ほぐして長さを整え、ゆっくりと汁につける動作です。蕎麦を食べる際の「間」が 何とも言えない風情を醸し出していると思うのは私だけではないはずです。自分の店でも、うかがった仲間うちの老舗でも、そんなお客様を拝見すると本当の蕎麦好きが老舗のお蕎麦を評価してくださり、通って来てくださっていることに、心から感謝の気持ちでいっぱいになります。蕎麦という食べ物もその食べ方も一つの文化であるとすれば、大切に守って行きたいと思う次第です。

 

この記事を書いたのは…

寛政3年(1791年)、薬研堀(現在の東日本橋)で創業。大正2年(1913年)から増上寺門前にお店を構えるそば店「更科布屋」の7代目ご当主。芝の地で創業100年以上の伝統を有する老舗の会「芝百年会」の会長も務める。
更科布屋ホームページ

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