お祭りの通りや神社仏閣、お店や劇場の軒先を明るく照らす日本伝統の粋な灯り、提灯。安政元年(1854年)から現在まで七代つづく「吉野屋商店」の提灯は、歌舞伎座や成田山新勝寺、神田祭、みたままつりなど各所で愛用されています。そんな吉野屋の提灯づくりは”武士の内職”からはじまったのだとか。これまでの歩みやイノベーション、大切にしている考えについて、七代目吉野喜一氏のご息女で同社広報・営業を務める吉野由衣子さんに伺いました。
〜前編の記事〜
今日は「提灯って何なの?」という点について資料にまとめていただいているんですよね。その内容についてご紹介いただけますか?
提灯は折りたたんで持ち運べる灯りです。そのため「行灯」と違って、キュッと畳んで小さくできるんですよ。昔は街灯などありませんから、懐に入れて中央にローソクなどを刺し、暗くなったらパッと広げて「帰ろうか」といった風に使っていただいていました。
ポータブルなツールだったわけですね。
本当に小さくなります。それに、弓状の持ち手も折りたためるので、こんなに小さくして持ち歩けるんです。
これ、キャンプグッズでつくれないのかな。
紙なので、燃えますよね。
燃えない仕組みの提灯型ライトっていうのはありかもしれませんね。
もし、燃えてしまってもまたご注文いただければ……(笑)。
難しいバランスがありますよね(笑)。
本当にそうなんです。昔は宵宮にて、提灯をおみこしの周りにひっかけてろうそくを入れて激しく担いでいました。そうなると、燃えてしまうので、次の日にまた注文が来たりだとか。今はこんな風に、ろうそく型の電灯があるんですが。
あ、提灯が光っております。最近は、こうしてろうそくの揺らぎをLEDで表現することも可能なんですよね。
昔はいかにも蛍光灯というものしかなく、風情に欠けていたんですが、提灯業界でもこんなイノベーションが起こっています。
日本の提灯文化はアジアの人たちにも好まれる
ベトナムにある、弊社運営の『agata japan cafe』というお店にも提灯を飾っているんです。やっぱり皆さん喜ばれるんですよ。
アジアの方はやっぱり提灯が好きですよね。タイで新年をフライングランタンで祝ったりだとか、中国の旧正月で赤い提灯を飾ったりだとか。
台湾の九份なども有名ですよね。
そして、実際の制作過程なのですが、提灯の紙は長良川のある岐阜や中川のある栃木など、昔から和紙で有名な地域で作られています。江戸にはこのように形が出来上がった状態で届き、我々はここに文字を入れる作業を担当します。
なるほど。文字入れからが江戸の仕事なんですね。
この文字は、京都の提灯屋さんとは違う、江戸前の江戸文字です。京都はさらっとした雅な字で、江戸だとこう、どーんと。
確かに違いますね。
江戸文字にもいろいろな字体がありまして、歌舞伎座さんで使っていただいている「勘亭流」や、落語の寄席を飾る「寄席文字」、周りを描いてからなかを塗るぽってりとした「籠文字」などもあります。提灯の文字は籠文字と江戸文字の間くらいなのかな。
江戸文字は明朝体みたいで少しシュッとしていますよね。
これはよく築地のお寿司屋さんなどで使われる「髭文字」です。シュッと髭のように跳ねる筆使いが特徴的なんですよね。ほかにもお相撲で使われる「相撲文字」や、半纏や帯に用いられる「角字」もあります。
なるほど。
「紋」を描くのも吉野屋の仕事のひとつです。歌舞伎座さんの座門である「鳳門」は、職人さんがぶん回しというコンパスのような形状の道具を使って手描きで描いていたそうです。今はイノベーションが起こって、型紙を使って量産したり印刷したりもできるんですが、いまだに手描きもやっていますね。
新しい技術と昔ながらの手作業の使い分けは、最近伝統工芸でよく話題に上ります。
提灯の上下の黒い部分は「重化」といいます。これを仕立てて取り付けたら、屋外で使う際は撥水効果のある亜麻仁油を縫って仕上げます。和紙に油を塗ると美味しくなってしまうので虫に食べられてしまうことがあるのが困りものですね。
なるほど、虫に食べられて穴が開いてしまうんですね。
でも、亜麻仁油を塗ると茶色っぽく、風情のある素敵な風合いになるんです。つづいては、この浮世絵からいろいろな提灯を見てみよう、というスライドです。時代が下ると提灯は広告的な役割も担うようになり、芸者さんの紋を入れて使われたりもするようになりました。
なるほど。つづいてはなんでしょう?
これは、提灯お化けですね。もともとは中村座が「提灯抜け」という、『東海道四谷怪談』のお岩さんが提灯から飛び出す舞台装置をつくったのがそのイメージのはじまりじゃないかといわれています。提灯ってだんだん古くなると破れて顔みたいに見えてきます。月明かりしかないような夜道でこんなのが出てきたら、たしかに怖いですよね。
本当ですね。そして、つづいては?
これは昔の劇場ですね。いまでも歌舞伎座さんなどで吉野屋の提灯を使っていただいています。
金毘羅歌舞伎などで使われていますよね。風情があります。
神田祭やみたままつりでは、こうして今でも提灯を使っていただいています。先ほどの宵宮の提灯ですね。うちの神輿は秋葉原駅の中に入ることを許されているんですよ。
すごい。
これがちょっとしたハイライトで、オタクの方もびっくりといいますか。
レアですね。
7月のみたままつりでは一万灯の提灯がかかるんですが、こちらも吉野屋でやらせていただいています。つづいては、歌舞伎座さんの大提灯ですね。
これは見たことがありますね。
こんなに大きな提灯はなかなかないので、歌舞伎座さんも大好きですし、本当にありがたいお仕事です。
趣味と実益を兼ねていますね。
はい、実際にうちのお店で吊り下げて描き、みんなで搬入しました。オープニング時は提灯屋さんの屋台もやらせていただいたりもしましたね。
アニメや人気俳優とコラボし、提灯の魅力を広めていく
そして、ここからはイノベーションの話題ですね。
2008年に経済産業省主導で、アニメとコラボしたい企業向けのイベントがありまして、私はアニメも大好きなので、参加させていただきました。手塚治虫先生のメルモちゃんやアトムといったキャラクターと昔ながらの家紋を組み合わせた提灯をつくらせていただいたりして。
さらにこれは、井浦新さんの「空は暁、黄昏れ展」ですね。
昔から写真を撮ってらっしゃった新さんが箱根の写真と箱根ならではのものを組み合わせたいという意向で、小田原提灯に一連の作品をプリントして素敵な作品をつくってくださいました。
そして、ワークショップもやられているんですよね。
はい、海外の方や子ども向けに提灯づくりをレクチャーするワークショップを開きました。子どもたちはやっぱりみんな、提灯お化けを作っちゃうんですが(笑)。
そして出来上がったのが吉野屋のギャラリーです。
提灯を身近に感じていただきたく、こちらも2008年にお披露目となりました。こちらはアーティストの古田さんに制作いただいた、月の満ち欠けを表現する提灯です。
あっという間にお時間が来てしまいました。最後にみなさんへのメッセージをお願いできますか?
提灯はビジネス向けのイメージが強いと思いますが、自分の名前を入れて飾ったり、友達にプレゼントしたり、ぜひ一般の方にも使っていただけたらと思います。お家で居酒屋気分を味わうのもいいかもしれません。吉野屋の提灯をご愛顧いただけますと幸いです。
世界でも愛される提灯は、実に奥が深いカルチャーと言えるでしょう。「吉野屋商店」の提灯は、一般の人でも楽しめる工夫が凝らされています。これを機に、一家に一台用意してみるのも面白いかもしれませんね。
※この対談を動画で見たい方はコチラ







