浴衣と江戸小紋の染呉服店・竺仙。「竺仙鑑製」の文字に込められた自負と自信とは?

老舗 五つの奥義日本橋江戸小紋浴衣

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日本は、百年続く老舗が3万3,000軒以上存在する世界でも稀な国。そのご当主に、老舗を老舗たらしめる“五つの奥義”を伺う連載記事。今回お話を伺ったのは、天保13年(1842年)創業、浴衣と江戸小紋を主とする染呉服の老舗『竺仙』です。

江戸の“粋”が表現された美しい反物はどのようにして作られているのでしょうか。

江戸の庶民も愛用した浴衣と江戸小紋

物作りから卸し、そして小売まで一貫して営む染呉服店『竺仙』。主に浴衣と江戸小紋を扱っています。「江戸の庶民は夏になると浴衣を着て過ごしていました。その様子はいろいろな浮世絵や文献にも残っています」と語るのは、竺仙五代目ご当主の小川文男さん。

浴衣は、日本の涼を楽しむ衣服として庶民に愛され、新しいデザインが次々と生まれていきました。なかでも大正時代の浴衣は、非常にシンプルなデザインであることが特徴です。それに対して「江戸小紋」は、元々は武士が裃(かみしも)として着用していたものでした。つまり、男性用の衣装を女性でも着られるようにしていったものなのです。

小川さんが見せてくれたのは、雪輪どりの寄せ小紋。雪輪(雪の結晶)の中に非常に細かく、様々な江戸小紋が入っているのがわかります。

老舗 五つの奥義その1:生地の着心地は「針」に聞く

夏の涼を楽しむ浴衣には、竺仙オリジナルの素材である「コーマ」という生地を使用しています。高度に精錬された(不要な繊維を削ぎ落とした)木綿糸を用いて織った浴衣地で、肌触りがつるっとしているのが特徴的。

コーマ地を織り上げる際には、あまり糊を食わせないのがポイントです。糊をバリバリに効かせると、確かに着味は良くなるのですが、着ているうちにくたっとしてしまうのが問題でした。それが、竺仙のコーマ地の場合は、最初に腕を通した時の着心地が最後まで続くのです。

「お召しになって初めてその違いを感じる方もいらっしゃいますし、そんなに変わらないと感じる方もいるかもしれません。ただ、その違いを最初に悟られるのは浴衣を仕立てる縫い子さんです。コーマ地の浴衣は針の通りがすごくいいとおっしゃる方が多いですね」(小川さん)

老舗 五つの奥義その2:デザインの型紙は「一点物」

江戸の頃は、当時の当主の俳句仲間に絵描きがいて、彼らが反故にする作品を持ち帰って浴衣のデザインのベースにしていたこともあったようです。

「幕末から明治期にかけて活躍した漆芸家・画家の柴田是真とも付き合いがあったとも伝えられています。今残っていれば大変な価値のある絵になるわけですが、当時は型紙に貼り付けて絵ごと彫っていたため、絵そのものは全く残っておりません。今となれば非常に勿体ない話ですよね」(小川さん)

絵は残っていなくても、彫られた型紙は今も豊富に残っています。ただ、同じ型紙は2枚と存在しないのです。

型紙をよく見ると、網のようになっているところがあるのがわかります。これは「紗張り」と言って、絹の糸でできた補強材のようなものです。注染の場合は、この型紙の上からヘラで糊を置いています。

老舗 五つの奥義その3:若い職人に活躍の場を

次に案内してくれたのは、東京都江戸川区松島にある「伊勢保染工所」です。

板場では、木の枠に型紙を貼って反物に柄付けをします。均等にヘラを当て、染まらないところに糊を付けていきます。厚く付けると柄が潰れて線が細くなってしまったり、薄く付けると、糊が染料に負けて柄が滲んでしまったりと、非常に難しい作業です。

次に、染料を入れたジョウロで色付けをしていきます。どういうふうにぼかしを入れるのか、ジョウロの使い方によって出来上がりの味わいが大きく変わる、職人の腕の見せ所です。

この日、染工所で色付けの作業を行っていたのは若い女性でした。

「職人というと御年配の方ばかりというイメージを持たれている方も多いのですが、こちらの染工所はほとんどが20代の若い職人で、皆さんびっくりされるんです」と語る小川さん。

しかし、経験値が少ないからといって技術が劣っているかというと、決してそんなことはありません。

「皆さんそれぞれの美学や自分なりの感性を持っていますので、むしろ先人のやったものを超えるような仕事をやっていこうという意欲を持っています。ですからそういう若い方達のプライドや名前を汚さないように我々は商いをしていかなければいけないと感じています」(小川さん)

老舗 五つの奥義その4:商品にはすべて「竺仙鑑製」の文字

作るものに責任を持つことを、何よりも大切にしてきた竺仙。作っている商品には必ず「竺仙鑑製」の文字が書かれています。

「これは読んで字のごとく、『鑑となるような商品を作りました』という、自分に対する一つの縛りなんです。聞きようによってはおこがましい言葉かもしれませんが、そのくらいの自負と自信を持って、鑑製という言葉を使っています」(小川さん)

そんな覚悟の表明として、竺仙の江戸小紋の生地は全てにこの言葉が刻まれているのです。

「それだけの覚悟を持って先代、先々代がやってきたということを、私は後から教えてもらいました。初めにこんなことを言われていたら、恐れ多くて竺仙に入らなかったかもしれません」と小川さんは笑みを浮かべます。

老舗 五つの奥義その5:変えるのは「伝達手段」

時代の変化に合わせて変えるもの、変えないものがあります。

小川さんは、伝統的な商品作りの手法については、あえて変える必要はないと考えています。ものづくりの本質を変えるのではなく、「プレゼンテーションの仕方」を工夫していくことが大切だといいます。

「これからは最高の品を“知ってもらう“ことにより力を注ぐことが大切です。SNSなどを使って、竺仙の商品をわかりやすく伝達していくことが、この先も商品を世の中に残していく最大のポイントなのではないかと思っています」(小川さん)

老舗の使命とは?

先代、先々代の「覚悟」を知った際には、ひるむ気持ちもあったという小川さん。それでも、重責を負うことを選んだのは?

「私どもが続けていかなかったら、この仕事も作品も世の中から消えてしまいます。本当に消えてしまっていいのだろうかと自問自答してみると、やはりこれは繋げていくべきものだとわかるのです。先代はよく『人間の作る最高の品』という言い方をしていましたが、私もそう言えるような商品作りをしていきたいと思っています」(小川さん)

180年以上に渡って培われてきた技術はもちろんのこと、先人たちの覚悟も丸ごと受け継いでいく。小川さんのその使命感が日本の浴衣文化を次の世代へ繋いでいくのです。

 

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