「ひくく、やさしく、あたたかく」の接客で、佃煮からグラッセまで和洋を問わず食卓を彩る創業240年「新橋玉木屋」

新橋・品川・お台場佃煮煮豆

あったかいごはんにぴったりの佃煮やお茶漬け。多くのメディアで話題となったアッと驚く洋風ふりかけ。ワインとマッチする秋刀魚ゲランド塩・いちじくグラッセ……。創業240年の「新橋玉木屋」は、私たちの食卓を彩る食品を老舗の技とビビッドな感性で生み出しつづけています。新橋玉木屋の歴史やモットーを皮切りに、そのイノベーションの秘密について十代目、田巻恭子さんに伺いました。

林さん:本日はよろしくお願いします。早速、新橋玉木屋のご紹介をお願いできますか。

田巻さん:実は今日(※インタビューは2022年4月6日)、創業記念日なんです。

林さん:すごいですね!

徳川10代将軍家治と老中田沼意次の時代、1782年4月6日に新橋玉木屋は創業しまして、ちょうど240年目を迎えました。天明の2年ということで、天明の大飢饉や浅間山の噴火などの出来事を歴史の教科書などでご存じの方もいるかもしれません。

本当にすごいです。

田巻さん:一代目、田巻七兵衛が新潟から江戸に出てきまして、禅の僧侶から教わった方法でお醤油とお砂糖で煮た黒豆を江戸市中で天秤棒担いで「ざぜん、ざぜん」と売り歩いたのがはじまりなんです。

創業時点では「座禅豆(※)」のお店だったんですね。そして次の写真は、わりと近代に近づいているイメージですね。

※黒豆や大豆を醤油・砂糖で甘く煮た料理。ざぜん豆。

これは、江戸後期~明治中期くらいの写真です。品川宿(左)から日本橋(右)へつづく旧東海道の真ん中に、玉木屋は最初の店舗を構えました。写真の真ん中で、人が前に立っている建物です。

この写真、結構高いところから撮られていますね。今だったらドローンで撮りたいような画角です。次の写真はなんでしょう?

これは明治中期~後期に、お客様が座禅豆を求めて道の先まで、並んでくださっている様子です。

すごい大行列ですね。本当にすごい人気商品だったんですね。

そうですね。当時、新橋は花柳界がとても華やかだったので、新橋芸者さんがお座敷に上がる前に座禅豆の煮汁を飲むとすごく声がよく出るということで分けてもらいに来ていたとも聞いています。

なるほど。そして、次の写真がこちらですね。

新橋の交差点から、銀座の中央通りにつづく、現在の店舗周辺(※)の昭和初期の様子です。

※2022年に店舗は新橋4丁目に移転

ちょうど都電が走っていたところですね。

はい、写真にも電車が写っています。また、凄いなと思うのが「とまれ」などと書かれた手信号が写ってるんですよ。

林さん:当時は信号の切り替えを手でやっていたんですね、すごいな。今も凄く大きな交差点ですよね。そして、次の写真はなんでしょう。

現在も続く玉木屋の佃煮です。三代目七兵衛が工夫を凝らし、独自の味わいの佃煮を確立し、それが今につづいています。

新橋玉木屋さんと言えば佃煮。みなさんもよくご存じかと思います。十代目になられた田巻さんはどんなことを考えて、そんな老舗の跡を継がれたのでしょうか?

10~20年スパンで味を見直す

うちは兄・姉・私の3人兄弟で、現在は会長を務める母が九代目でした。母はもともと田巻家に嫁いできたんですが、祖父の抜擢により急遽継ぐことになり、兄も大学に通いながら手伝うことになったんです。姉も経理系の学校を出て今は総務経理をしてくれており、そういう環境だったので、‟家業はみんなでやるものだ”と自然な流れで短大卒業後、20歳ですぐ玉木屋に入ることになりました。私自身接客業が大好きで、高校時代からアルバイトもずっと接客系でしたね。

 

最初から継ぐことを意識されていたんですね。3人兄妹で誰が継ぐのか、といった会話をされたこともありましたか?

兄は病弱で32歳で他界してしまったのですが、私が入社して少ししてから闘病がはじまりました。なので、当時から母と私と姉、女性みんなで支えあって頑張ってきています。

玉木屋を支える家訓は何かあったりするのでしょうか?

母が入社してから「みなさまにおいしいものをお届けする」というモットーを掲げ、10~20年スパンでの味の見直しや新商品の開発をはじめました。もともと佃煮は保存食なので、以前はもっとしょっぱかったんです。また接客に関しては「ひくく、やさしく、あたたかく」という言葉があります。わたしも接客業が大好きで色々と経験してきましたが、それは真髄だなと思います。

」、なんだか口ずさみたくなるいい言葉ですね。

お客様に対してはもちろん、一緒に働くスタッフ同士でもそういう気持ちを大事にしたいと考えています。

田巻さんはいつもお話に行くと優しく接してくださいますが、やはりそこにも「ひくく、やさしく、あたたかく」の精神が流れているように感じます。「みなさまにおいしいものをお届けする」というテーマは時代とともにおいしさが変化するなかで、守りつづけなければならないものもある老舗にとってなかなかチャレンジングですね。

味覚というものは本当に人それぞれなので、本当に難しいテーマです。なので、母は入社したとき、みんなで目指すべき軸として「みなさまにおいしいものをお届けする」という掛け声を掲げたのだと思います。やっぱり、20年前の70代の方と現在の70代の方の味覚は違いますよね。

おっしゃる通りですね。

時代時代のバックグラウンドや食生活に合ったものをお届けするためには、ずっと味を追求し続けなければならないな、と思います。

林さん:老舗にとって変えるところ、変えないところというのは本当に千差万別なので、お伺いすると非常に勉強になります。でもやっぱり、食べ物というのは時代に合わせて行かないといけない部分はありますよね。

それはありますね。母は今来てくださっているお客様をがっかりさせないよう、10年、20年スパンで少しずつ塩辛さを変化させてきたんです。私も今のお客さまを大事にしながら少し先のお客様も見据える、ということを心がけるようにしています。

後編へ続く

※この対談を動画で見たい方はコチラ


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