【第17回】「田舎蕎麦」と「更科蕎麦」の違いとは

芝大門 更科布屋 店主の独り言更科そば蕎麦

「天ぷら」「そば」「寿司」「うなぎ」は、江戸を代表する「食」と言われ、それぞれが江戸の庶民文化の中で培われてきました。このコラムでは、そば店の店主として、そばにまつわる面白い話や、一般的には知られていないそばにまつわる意外な事実などをお伝えします。そば文化をより知っていただくきっかけになれば幸いです。※当コラムは「芝大門  更科布屋」の店内で、月に1話、お客様に配っているリーフレットから転載しております。

対極にある「田舎蕎麦」と「更科蕎麦」

蕎麦の世界で「田舎蕎麦」と言うと、一般的には太めで黒っぽい形状で蕎麦らしい味わいの濃いそばを指し、白く細い繊細な形状とほのかな甘い風味の「更科蕎麦」の対極に位置するお蕎麦と定義することができます。ソバの実の挽き方と篩い方の違いで同じ実ながらも、色も味も違った粉が生まれます。

現在では「田舎蕎麦」といえば洗練された江戸風のお蕎麦の対称軸として、無骨で野趣に富んだ地方の蕎麦を表す言葉となっているようです。多くの場合、田舎蕎麦はソバの実の黒い殻を完全に取らずに挽き、出てきた粉を全て使って作るそばです。そばの色が黒くなるのは殻の色が残るためであり、地方で殻を取り切る技術がなかったことによるものです。

山里の農村で出されるお蕎麦は、この為にどうしても黒くなりますが、素朴で蕎麦らしいイメージもこの黒さだと思います。

一方、「更科蕎麦」は殻を完全に取り去った実を挽くばかりではなく、挽き始めに出てくる実の芯の部分の粉だけをふるって取り出して作る蕎麦です。基本的にそば粉自体は白色です。黒さは殻、僅かな殻でも白い蕎麦粉は黒くなります。

さまざまな種類が彩る蕎麦の世界

実は「田舎蕎麦」と言う言葉は、江戸末期の蕎麦屋の品書きには出てきておりませんが、両国に「田舎そば」と言う蕎麦屋があり、そこの売り物が太い蕎麦だったと記されております。

この時代を考えると色の記載はないのですが、殻ごと挽いたそば粉であった事は容易に想像ができますので、きっと黒くて太い蕎麦だったと思われます。この蕎麦が「田舎蕎麦」の命名に繋がったのではないでしょうか。

しばしば田舎蕎麦と同義語として使われている「馬方蕎麦」というお蕎麦がありますが、こちらもやはり江戸末期蕎麦屋の俗称から生まれたもので、四谷の『大田屋』と言う蕎麦屋の挽きぐるみの黒っぽい蕎麦がその起源であります。大田屋は甲州街道と青梅街道の出入り口にあり、近在からの荷を運ぶ荷駄や馬が頻繁に通り、その馬子達のごひいきを得ていたことから「馬方そば」との異名を取ったと「四谷町方書上」なる文書に記されております。

ちなみに「二八」で16文の値段だったが、量が他の蕎麦屋の3倍近くあり、大層繁盛していたと言われております。呼び名同様、お蕎麦は様々な色・形を持って広い世界を作っています。

当店でも、広いお蕎麦の世界を少しでも味わっていただきたいと言う考えで「更科」「変わりそば」「ニ八」「生粉打ち」等、常時5種類をお出ししております。 当店における「生粉打ち」がいわゆる田舎蕎麦に当たりますが、唯一つの違いは、食用でないそば殻は完全に取り去った上で挽き込んでいる点にあります。
江戸蕎麦はあくまで粋なもの、繊細さにはこだわりたいものです。

この記事を書いたのは…

寛政3年(1791年)、薬研堀(現在の東日本橋)で創業。大正2年(1913年)から増上寺門前にお店を構えるそば店「更科布屋」の7代目ご当主。芝の地で創業100年以上の伝統を有する老舗の会「芝百年会」の会長も務める。
更科布屋ホームページ

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