【第10回】なぜ蕎麦は「細くて長い」が定着したのか

芝大門 更科布屋 店主の独り言更科そば蕎麦

「天ぷら」「そば」「寿司」「うなぎ」は、江戸を代表する「食」と言われ、それぞれが江戸の庶民文化の中で培われてきました。このコラムでは、そば店の店主として、そばにまつわる面白い話や、一般的には知られていないそばにまつわる意外な事実などをお伝えします。そば文化をより知っていただくきっかけになれば幸いです。※当コラムは「芝大門  更科布屋」の店内で、月に1話、お客様に配っているリーフレットから転載しております。

蕎麦は「そばがき」よりも「そば切り」が美味しい?

子供達の素直な質問には、時々答えに窮することがあります。
世の中当たり前と思っていることの方がなかなか説明は難しいもので、いい機会なのでその当たり前を調べてみることにいたしました。蕎麦屋は毎日毎日苦労して、細く・長く蕎麦を打ちます。何故そうなったのでしょうか?

蕎麦の味・香りを楽しむには「そばがき」が一番よく分かると言うのですから、何もこれ程苦労して細く長くする必要もなく、捏ねる技術の研鑽も要らないわけで、そばがきを食べていれば事足りるはずです。

しかしながら「そば」の消費量から考えると圧倒的に細く長い麺状のそばが多く、蕎麦屋でも美味しいはずの「そばがき」のご注文は一日に1つあればいい方です。そう考えるとやはり「そばがき」より「そば切り」のほうが美味しいと言うことなのだと思います。

江戸庶民の生活から考える、蕎麦が細くて長い理由

そもそも日本における麺の起源は大陸から渡ってきた「うどん・そうめん」といった小麦粉文化でありますが、その真似をしたというのでは余りに芸のない答えです。そこで一考。そばはご存知のように江戸で花開いた食べ物です。 子供達の質問を「江戸」をキーワードに解いてみることにいたしました。

文献から見るとそば切りが最初に出てくるのは1600年前後の慶長年間ですが、庶民の間で爆発的な広まりを見せるのは、忠臣蔵でお馴染みの元禄時代だと言われております。当時の江戸は町人文化華やかなりしご時世、粋で短気な江戸っ子気質の発祥と言われる時期でもあります。

世界でも例のない百万都市江戸は、人の往来や活動の激しさと時の流れの速いところです。
自ずと生活のリズムもアップテンポ、食事もスピーディーになります。 「早飯も芸のうち」ではありませんが、早くたくさん食べることが要求された環境だったのではないでしょうか。

日本は「箸」を道具として食する国です。箸を使って一番早くたくさん摘むには長さのあるものが有効です。しかも西洋のように食事時に音を立ててはいけないと言う習慣はありません。
戒律に厳しい禅寺でさえ、そば・うどんの時は音を立ててもよろしいそうです。
そうであれば、箸でひょいと摘み上げ、口にくわえてすすり込むのが一番と言うことになると思われます。

連続してすすり込むのであれば、当然の事ながら細く長くなると言うのがその必然でしょう。
うどんの太さではなかなか続け様にはすすり込めません。
美味しいはずのそばがきはねちゃねちゃした食感、もぐもぐ噛むことになります。
初めから江戸っ子には向かないのだと思います。

時代・風習・環境の影響とは言え、必然とは不思議で面白いものです。いささか強引ではあるかと思いますが自分では名推理かと。ちなみに「箸」を使う習慣のため日本の食事はご飯も柔らかく固まりになる「姫飯」になっていますし、ナイフを使わないのでお刺身は切り分けられ、スプーンがないのでお吸い物はお椀に入れられてじかに飲めるようになったのだと考えられます。

この記事を書いたのは…

寛政3年(1791年)、薬研堀(現在の東日本橋)で創業。大正2年(1913年)から増上寺門前にお店を構えるそば店「更科布屋」の7代目ご当主。芝の地で創業100年以上の伝統を有する老舗の会「芝百年会」の会長も務める。
更科布屋ホームページ

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