北國街道から日本橋へと加賀の文化を語るセミナー動画のサムネイル

北国街道|加賀と日本橋を結んだ道、五十音図と氷室の文化【動画】

金沢から江戸まで、歩けば約1か月。その道のりを人と物と言葉が往復するうちに、食べもののつくり方や工芸の技、そして日本語の仕組みそのものまでが動いていきました。2025年10月11日、東京・日本橋で開かれた老舗フェスティバル2025「老舗・ご当地セミナー」から、作家・文献学者の山口謠司氏による講演「北國街道から日本橋へ〜美味しさと粧い〜」をご紹介します。

全編56分58秒。加賀野菜や氷室といった食の話から、九谷焼・加賀友禅・輪島塗の工芸、「にほんばし」と「にっぽんばし」の発音の違い、さらには五十音図の成り立ちまで——ひとつの街道を手がかりに、文化の「裏側」をたどる構成になっています。

「北國街道から日本橋へ〜美味しさと粧い〜/【知られざる日本のルーツ】加賀に伝わる文化の秘密」(YouTubeチャンネル「agataJapan」)/収録:2025年10月11日・老舗フェスティバル2025「老舗・ご当地セミナー」(会場:野村コンファレンスプラザ日本橋6F 大ホール)/再生時間:56分58秒/公開:2025年12月13日

動画の見どころ(タイムスタンプ)

この回は概要欄に章立てが設定されています。気になるところから見ていただけます。

  • 0:47 日本橋の歌と、旅の起点
  • 2:34 北国街道のルートと、江戸時代の旅の所要時間(金沢まで約1か月)
  • 4:57 「一歩」の値段はいくらか——ウォーキングの経済価値
  • 7:19 東大から板橋へ——東京に残る加賀藩の上・中・下屋敷の痕跡
  • 9:45 冬の味覚、加賀野菜「五郎島金時」と食の文化
  • 12:11 加賀友禅、九谷焼、輪島塗——金沢の「きらびやかな」文化
  • 15:39 なぜ橋立港のカニが最高級とされるのか
  • 19:19 「にほんばし」と「にっぽんばし」——発音の違いの理由
  • 22:52 言葉の経済化と、ハ行の発音の行方
  • 31:01 五十音図が石川県の温泉寺で作られた理由
  • 41:42 天皇のお名前に見る「仁」の精神
  • 49:06 冷蔵庫がなくても旨味を熟成させる、金沢の「氷室」文化
  • 51:33 日本の文化は「表と裏」で支えられている

登壇したのは誰か

山口 謠司(やまぐち・ようじ)氏。1963年(昭和38年)、長崎県佐世保市生まれ。大東文化大学文学部を卒業後、同大学院、フランス国立高等研究院人文科学研究所大学院に学び、ケンブリッジ大学東洋学部共同研究員などを経て現職。専門は文献学・書誌学・日本語史で、博士(中国学)。ラジオパーソナリティ、イラストレーター、書家としても活動しています。

(出典:動画概要欄の登壇者プロフィール/肩書きは収録時点のものです。2026年10月30日確認)

「北国街道」とはどの道か

じつは「北国街道」という名前は、ひとつの道を指すものではありません。中山道の追分宿から直江津へ向かう道(信越の北国街道。善光寺街道・北国脇往還とも)、中山道の鳥居本宿付近から今庄で北陸道に合流する道(近江の北国街道)、さらに古代・中世に「北国海道」とも呼ばれた北陸道、鼠ヶ関から北へ向かう羽州浜街道までが、いずれも北国街道と呼ばれてきました。信越と近江の二つは、いずれも中山道の脇往還です。(出典:北国街道に関する公開資料/2026年10月30日確認)

この講演で「北國街道」と呼んでいるのは、加賀・金沢と江戸・日本橋を結んだ文化の往来そのものです。道筋の呼び名は資料によって異なりますので、この記事では街道の路線を確定させるのではなく、講演が主題にした「何が行き交ったのか」の側を追います。

東大の赤門は、加賀藩の門だった

講演の前半で触れられる、東京に残る加賀の痕跡。東京大学本郷キャンパスは、江戸時代にその大部分が加賀藩の上屋敷だった土地です。名所として知られる赤門は、文政10年(1827年)、加賀藩13代藩主・前田斉泰が11代将軍・徳川家斉の娘溶姫を正室に迎えるにあたって建てられた御守殿門で、現在は国指定重要文化財になっています。前田家の上屋敷・中屋敷はいずれも現在の文京区内にありました。(出典:文京区/2026年10月30日確認)

五十音図は、加賀の温泉寺で整理された

講演でいちばん意外に響くのが、五十音図の話でしょう。現存する最古の音図は平安中期の『孔雀経音義』(1004〜1027年ごろ)や『金光明最勝王経音義』(1079年)ですが、天台宗の僧明覚が1093年、山代温泉(現在の石川県加賀市)の温泉寺の住職をつとめていたときに『反音作法』を著しました。仮名を使って音を反切(分解)する方法を説き、同じ子音を一行に、同じ母音を一列に並べたものです。

ただし明覚の書には「アカヤ」「サタナラ」「ハマワ」といった別の配列も載っており、この時点で今日の五十音図の並びが固まっていたわけではありません。それでも、私たちが毎日使っている音の表の原型が、加賀の温泉地の寺で整理されたことは確かです。(出典:五十音に関する公開資料/2026年10月30日確認)

加賀野菜と氷室——冷蔵庫のない時代の食の知恵

五郎島金時は、金沢の言葉で「こっぼこぼ」と言われる、甘くてほくほくした食感のさつまいもです。金沢市は地域で受け継がれてきた野菜を「加賀野菜」としてブランド認定しており、五郎島金時もその一つです。(出典:金沢市/2026年10月30日確認)

氷室は、藩政期の金沢に広がった雪の貯蔵庫です。大寒のころに白山山系の新雪を詰めておき、旧暦6月1日(「氷室の朔日」。西暦では7月上旬ごろ)にこれを「白山氷」と名づけて江戸の徳川将軍家へ献上しました。はじめは倉谷村の氷が使われ、4代藩主・前田綱紀の時代に金沢城下と近郊に多くの氷室がつくられています。

その綱紀の時代に、金沢の生菓子屋・道願屋彦兵衛が考案したとされるのが氷室饅頭。江戸まで氷が無事に届くようにと氷に供えられたもので、氷が高くて手に入らない庶民は代わりに麦饅頭を食べ、無病息災を願ったといいます。現在の「氷室開き」は毎年6月30日、雪詰めは1月の最終日曜日に行われており、昭和61年(1986年)に湯涌温泉観光協会が復活させた行事です。

(出典:金沢の氷室に関する公開資料/2026年10月30日確認。和暦と西暦の対応:文政10年=1827年、昭和38年=1963年、昭和61年=1986年)

「表」と「裏」——講演が最後に置いた話

講演は、豪華な「表」の文化の裏側に「仁」の精神と「熟成」の美意識があるという見方で閉じられます。加賀友禅や九谷焼、輪島塗といった、ひと目で分かるきらびやかさ。その後ろで、雪を夏まで寝かせ、魚を熟成させ、言葉を整え、名前に願いを込めてきた時間がある——老舗の仕事にも、そのまま重なる話です。

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この記事で紹介する動画は、前年の老舗フェスティバル2025(2025年10月11日・野村コンファレンスプラザ日本橋)で開催した「老舗・ご当地セミナー」の記録です。

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