100年を超えて続く飲食店は、何を変えずに守り、何を変えてきたのでしょうか。2025年10月11日(土)、東京・日本橋の野村コンファレンスプラザ日本橋6F 大ホールで開かれた「老舗・ご当地サミット」に、神田のあんこう料理専門店いせ源の七代目当主・立川博之氏と、銀座のうなぎ料理の老舗竹葉亭の八代目当主・別府晋氏が登壇しました。聞き手は『厳選江戸老舗帖 今に伝える味と技』の著者・太田美代氏。背開きにして蒸す江戸前の鰻、味噌仕立てから醤油仕立てへ変えたあんこう鍋の割下、そして暖簾を預かる者の心構え——24分33秒の対談です。
老舗・ご当地サミット「老舗飲食店の継続の秘密」/老舗・ご当地セミナー/老舗フェスティバル 2025 by agataJapan(YouTubeチャンネル「agataJapan」)/再生時間:24分33秒/公開:2025年12月11日
動画の見どころ
- 00:00 オープニング/登壇者紹介
- 01:11 老舗の歴史
- 04:36 竹葉亭:鰻の関東風調理法(背開き・蒸し)のこだわり
- 09:12 いせ源:醤油仕立てのあんこう鍋と建物のこだわり
- 15:50 老舗が守り続ける「継続の秘訣」
- 18:02 伝統の継承と新しい挑戦
- 21:19 未来へ向けたメッセージ
※この章立ては動画の概要欄に記載されたタイムスタンプによります。なお概要欄では 09:12 の見出しが「伊勢定」と記されていますが、登壇したのは神田須田町のいせ源です。本記事では「いせ源」と表記しました(2026年11月2日確認)。
登壇した二軒の老舗
いせ源——天保元年(1830年)創業、都内唯一のあんこう料理専門店
初代・立川庄蔵が中橋広小路(現在の京橋3丁目付近)で「いせ庄」というどじょう屋を開いたのが始まりです。二代目・立川源四郎が神田連雀町へ店を移し、店名も「いせ源」へと改めました。大正時代、四代目・政蔵の代に、数ある鍋料理のなかであんこう鍋がとりわけ人気を集めたことから、あんこう料理専門店へと舵を切ります。現在のご当主が七代目。公式サイトは「暖簾を掲げ、196年」と記しています(天保元年=1830年から数えて196年目。2026年11月2日確認)。店の建物は昭和5年(1930年)築の木造三階建てで、東京大空襲の被害を免れ、東京都選定歴史的建造物になっています。
くわしくは当サイトの記事「いせ源|創業1830年、東京唯一のあんこう鍋を七代目が語る【動画】」をご覧ください。
竹葉亭——江戸末期創業、銀座のうなぎと鯛茶漬け
竹葉亭(ちくようてい)は江戸時代末期、東京あさり海岸(現在の新富町)で創業しました。前身は店に入る客の刀を預かる商いで、明治9年(1876年)の廃刀令で刀を帯びる人がいなくなったことをきっかけに、酒とうなぎの蒲焼を出す店へと姿を変えています。創業当時の店は関東大震災(1923年)で焼失し、大正14年(1925年)に現在の銀座8丁目へ移りました。昭和の初めには関西へも暖簾を広げ、いまはリーガロイヤルホテル店・南御堂店・なんば店・西宮店・名古屋店があります(公式サイト・2026年11月2日確認)。現在のご当主が八代目。100年以上継ぎ足してきた秘伝のタレと、うなぎと並ぶ名物の鯛茶漬けで知られます。
くわしくは当サイトの記事「竹葉亭|江戸末期創業、銀座のうなぎと鯛茶漬けを八代目が語る【動画】」をご覧ください。
背景を少し——動画では触れられていないこと
江戸前の鰻は、なぜ背開きにして蒸すのか
関東では鰻を背から裂いて開き、関西では腹から開きます。関東の蒲焼は、串を打って素焼き(白焼き)にしたあとよく蒸し、そこへタレをつけて焼き上げるのが作法です。蒸す工程を入れるのは、江戸で扱う鰻が脂の乗った大ぶりのものだったため、余分な脂を落として身をふっくらさせる狙いがあるとされます。関西では蒸さずに地焼きにし、皮目の香ばしさを立てます。「武士の町では腹を切るのを避けたから背開きになった」という俗説も語られますが、確かな由来とは言えません。動画の 04:36 からは、この関東風の手順を八代目が自分の言葉で説明しています。
あんこうは、なぜ吊るして捌くのか
あんこうは体の八割以上が水分で、身が柔らかくぬめりも強いため、まな板の上では形が定まりません。そこで生まれたのが吊るし切りです。下あごにフックをかけて魚体を吊り、口から水を流し込んで胃をふくらませ、胴体に張りが出たところで解体していきます。江戸時代の本草書『本朝食鑑』にも、下唇に縄を通して梁に懸けると記された古い技法です。あんこうは捨てるところがほとんどない魚で、柳肉(身肉・頬肉)、皮、水袋(胃)、キモ(肝臓)、ヌノ(卵巣)、えら、トモ(ひれ)の七部位を「七つ道具」と呼びます。旬は産卵に向けて栄養を蓄える11月から2月ごろ。江戸時代には「三鳥二魚」と呼ばれる五大珍味のひとつに数えられた高級食材でした。
青森・風間浦から届く「活あんこう」
いせ源が使うのは、青森県下北半島の風間浦村(津軽海峡に面した村)から届くあんこうです。あんこうは深海魚ですが、この地では全国的にもめずらしく生きたまま水揚げされます。漁期は12月から3月ごろ。村の下風呂温泉郷では冬に「鮟鱇まつり」が開かれます(ANA「Japan Travel Planner」青森の紹介・2026年11月2日確認)。生きたまま揚がった魚をどう扱えば旨味が引き出せるのか——動画の 09:12 からの話は、この産地の条件を前提にしたものです。
鰻をこの先も出し続けられるか——資源のこと
うなぎ料理の老舗にとって、継続の話は味や暖簾だけでは終わりません。ニホンウナギは、環境省が2013年2月1日に公表した第4次レッドリスト(汽水・淡水魚類)で絶滅危惧IB類(EN)に選定されています。前回は情報不足(DD)でしたが、生態に関する新しい知見と漁獲量のデータにもとづいてこの区分になりました。江戸から続く蒲焼の技を次の代へ渡していくには、技の継承と同じだけ、資源の話がついてまわります。
【おしらせ】動画の収録後の動き
この動画の収録は2025年10月、公開は同年12月11日です。その直後に、うなぎをめぐる国際的な動きがありました。2025年11月24日から12月5日まで、ウズベキスタンのサマルカンドで開かれたワシントン条約(CITES)第20回締約国会議で、EUが提案していたウナギ属(Anguilla)全種の附属書IIへの掲載は否決されました。11月27日の第1委員会での投票は賛成35・反対100で、12月4日の全体会合でこの結果が正式に決定しています(水産庁の報道発表・2026年11月2日確認)。動画のなかではこの結果には触れられていません。本記事では、動画の内容を書き換えるのではなく、収録後の事実として別にお伝えします。
買う・訪ねる
いせ源
- 公式サイト:いせ源
- 老舗ページ:いせ源|agataJapan
- お取り寄せ:いせ源(老舗通販.net) ※名代あんこう鍋セット(2人前・4人前)、鮟まん(8個入り・16個入り)の4品を扱っています(2026年11月2日確認)
- 所在地:東京都千代田区神田須田町1-11-1
竹葉亭
- 公式サイト:東京竹葉亭
- 老舗ページ:竹葉亭 本店|agataJapan
- 所在地:東京都中央区銀座8-14-7
- お取り寄せ:竹葉亭は老舗通販.netには出店していません(2026年11月2日確認)。うなぎは店で味わう料理です
両店の営業時間・定休日は季節によって変わることがあります。くわしい営業情報は上記の各記事と老舗ページに記載していますが、お出かけの際は公式サイトか店舗でご確認ください。
老舗フェスティバル2026 by agataJapan 出展の御礼
agataJapan では毎年、日本が世界に誇る老舗の技術と文化に触れられるイベント「老舗フェスティバル by agataJapan」を開催しています。2026年は10月3日(土)に東京・日本橋の福徳の森・仲通り周辺で開催し、老舗・ご当地マルシェ、日本酒の飲み比べ、当主が登壇する老舗サミットなどのセミナー、ステージパフォーマンスに多くの方にお越しいただきました。ご来場・ご出展いただいた皆さまにあらためて御礼申し上げます。
いせ源には2026年のフェスティバルにもご出展いただき、名物「あんこう煮」を会場で提供していただきました(老舗通販.netの前売り品で確認/2026年11月2日確認)。当日の様子はご来場御礼の記事にまとめています。
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この動画は、YouTubeチャンネル「agataJapan」で公開している老舗フェスティバルのセミナーアーカイブの一本です。老舗・ご当地サミットでは毎年、100年以上続く企業の当主や職人が登壇し、続けるための工夫を自分の言葉で語っています。ほかの回は連載「動画で見る日本の老舗」からご覧ください。
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