【第6回】9月に当店で「生姜切りそば」を出す理由

芝大門 更科布屋 店主の独り言 更科そば 蕎麦

「天ぷら」「そば」「寿司」「うなぎ」は、江戸を代表する「食」と言われ、それぞれが江戸の庶民文化の中で培われてきました。このコラムでは、そば店の店主として、そばにまつわる面白い話や、一般的には知られていないそばにまつわる意外な事実などをお伝えします。そば文化をより知っていただくきっかけになれば幸いです。※当コラムは「芝大門  更科布屋」の店内で、月に1話、お客様に配っているリーフレットから転載しております。

芝大神宮の大祭「だらだら祭り」について

月替りでお出ししております当店の家伝変わりそばですが、九月の変わりそばは「生姜切り」そばになります。 生姜の香りと爽やかな味が特徴のやや黄色みがかったお蕎麦です。
なぜ九月が生姜切りかと申しますと、ご当地芝神明の芝大神宮と深い関わりがございます。
芝大神宮は都内に現存する最も古い神社の一つで、創建は西暦1005年に遡り2005年に「千年祭」を迎えました。その芝大神宮の大祭・通称「だらだら祭り」が9月に行われるのです。
10日間という長さゆえ、江戸っ子達からは「だらだら祭り」というあだ名で親しまれてきました。
なぜそんなに長い期間、開催するようになったかというと、 芝大神宮は東京十社の一つに数えられる名社であり、全国から参詣者が集まった為だと言われています。
10日間という長い期間でも、祭りの中心となるのは中日、特に日曜日の「渡御(とぎょ:お神輿の行列)」と祝日の敬老祭が一番の人出となります。
お祭りの賑わいを楽しみたい方は、この二日間に行かれるのがオススメです。

祭りの名物「生姜」と「千木筥」

さて江戸時代の頃から、このお祭りの名物とされている二つの物がありますが皆様はご存知でしょうか?
その一つが「生姜」です。昔はこの付近一帯が生姜畑で、近隣の農家が境内や参道に市を立て盛んに販売していたそうです。

今では昔のように市が立つということはありませんが、お祭りの期間中、神社の境内に生姜小屋が設けられ、 「御前生姜」と呼ばれる葉先に細工をほどこした葉生姜が来訪者に用意されています。
当店の変わりそばもこれになぞらえて「生姜切り」となった次第です。

もう一つは「千木筥(ちぎばこ)」です。
ヒノキの割籠を三段重ねにした中に、飴や豆などを入れて販売したものです。
筥にはこの辺りに領地があった旗本・大久保家の家紋である藤の花の模様が描かれています。
「千木筥」という名前は、社殿の「千木(社殿の屋根の両側に交差して突き出している長い木材)」を作る際に、残った木材を利用したことから来ていると言われています。
また、「千着」とかけ、女性がタンスの中に納めて 「洋服が千枚(たくさん)増えますように」と良縁に繋がるお祈りに用いることもあったようです。

お祭り期間中には、この千木筥の実演販売もおこなわれるということですので、この機会に手に入れてみてはいかがでしょう。 「生姜切りそば」と「千木筥」で江戸の粋と縁起を感じて頂ければ幸いです。

この記事を書いたのは…

寛政3年(1791年)、薬研堀(現在の東日本橋)で創業。大正2年(1913年)から増上寺門前にお店を構えるそば店「更科布屋」の7代目ご当主。芝の地で創業100年以上の伝統を有する老舗の会「芝百年会」の会長も務める。
更科布屋ホームページ

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