徳川将軍家の菩提寺・増上寺の大門前、芝大門の一角に、寛政3年(1791年)創業のそば店更科布屋があります。純白の更科そばに季節の食材を打ち込む「変わりそば」は、江戸時代からの家伝。これまでに生まれたレシピは80種を超えるといいます。YouTubeチャンネル「日本の老舗」の【五つの奥義】シリーズでは、七代目ご当主が「そばが教えてくれる“合図”」について語ります。
11分19秒。2022年12月31日公開、ナレーションはセイン・カミュさんです。
動画の見どころ
- 高速で挽く機械ではなく、石臼の速さで丁寧に挽いた粉を使う理由
- 心を込めてこね続けていると、そばのほうから出来上がりの“合図”が返ってくるという感覚
- その合図が最適なコシを生むという、数値化できない見極め
- 80種類以上ある変わりそばで、毎月の四季の色合いと思いを表現するということ
更科布屋とは——創業は何年で、いまは何代目か
創業は寛政3年(1791年)。始めたのは、そば打ちの名人でもあった信州の反物商・布屋萬吉です。江戸へ行商に来た際、領主の上屋敷でその腕前を買われ、商売替えを勧められたのがきっかけでした。薬研堀(現在の東日本橋)に「信州更科蕎麦処」として開店し、屋号の「更科」は創業者の出身地である信州の地名にちなみます。
その後、元数寄屋町(現在の中央区)を経て、四代目が切り盛りしていた大正2年(1913年)に増上寺門前・大門通りへ移転。店の名も「更科布屋」となりました。創業から230年以上。現在のご当主・金子栄一さんは2003年から務める七代目で、「布屋萬吉」の名も受け継いでいます。企業とのコラボレーションや江戸文化の発信にも積極的です。
「江戸そば」とは何か——白くてなめらかな麺の理由
更科布屋の麺は江戸そばです。そばの実の殻から中身を取り出す技術が江戸で発展したことで、色が薄くてなめらかな、長く伸びる麺の形が生まれました。だからこの呼び名があります。味を左右する粉は、「人の手による石臼製粉」を再現した独自の方法で挽いています。臼の回転数からふるいの目の大きさまで細かく決めることで、そばの実一粒一粒の風味を引き出す設計です。
そばに合わせる汁は、本醸造の醤油、鰹節のだし汁、砂糖、本味醂だけを使った濃厚な甘口。汁づくりは代々、当主みずからの仕事とする、いわば一子相伝の味です。金子さんも子どものころから先代・先々代のそば汁やだし汁を毎日口にし、目と舌で味を覚えながら育ったといいます。「いつも変わらぬものを笑顔で出してください」という先代の言葉を、いまも守っています。
そばの産地も醤油や鰹の味も年によって変わり、季節や気候でだしの出方も違う。それでも客の口に入るときには「更科布屋といえばこれ」と感じる味に仕上げる。変えないために、毎日調整し続けているということです。
4種類のそばと、名物「三色そば」
- 二八そば(もり600円/ざる730円):そば粉8割・小麦粉2割の黄金比率で、のどごしのよい一枚
- 御前更科そば(800円):芯の部分だけを贅沢に使った“そばの大吟醸”
- 生粉打ち(850円):北海道から宮古島まで全国の産地を時季に応じて使い分けることで、本来は初秋の楽しみである新そばをほぼ1年中味わえる
- 変わりそば(850円):更科に季節の食材を打ち込む家伝の一品。レシピは80種を超える
- 三色そば(1,000円):変わりそば・御前更科そば・生粉打ちそばを一度に楽しめる人気の品
- 穴子(1,200円):二八そばに穴子の天ぷらをのせた温かいそば。30年ほど前に復活させた昔のメニューで、江戸前として古くから知られた東京湾・羽田沖の穴子を使います
変わりそばは、体を温める唐辛子(1月)、春の訪れを感じる桜(3月)など15種類を1〜2種ずつ、月替わりで出しています。店の前にはその日食べられる「生粉打ち」のそば粉の産地や季節限定メニューが張り出され、入る前から四季が伝わります。
芝大門という土地——武士・寺・商人が揃った一角
更科布屋のある芝大門は、江戸幕府将軍家・徳川家の菩提寺である増上寺の近くです。江戸時代には譜代大名の屋敷も多く、東海道にも近いため商人も集まりました。武士・寺・商人が揃った希少なエリアであり、店の前の道は増上寺大門をくぐって増上寺へと続いています。参詣客と武家、そして商人という三つの客層が同じ町にいたことは、そば屋にとって恵まれた条件でした。
周辺には都内最大の前方後円墳・丸山古墳、歌舞伎『め組の喧嘩』の舞台となった芝大神宮、東京タワーなどの名所もあり、そばの前後に歩ける町です。
買う・訪ねる
- お取り寄せ:更科布屋(老舗通販.net)
- 老舗ページ:芝大門 更科布屋|agataJapan.tokyo
- 当主インタビュー:【老舗ご当主・識者と歩く】第1回:「芝大門 更科布屋」7代目ご当主と芝大門の歴史を辿る
- 公式サイト:更科布屋(www.sarashina-nunoya.com)
- 所在地:東京都港区芝大門1-15-8/電話 03-3436-3647
- 営業時間:平日11:00〜21:00(L.O.20:40)、土曜11:00〜20:00(L.O.19:40)、日曜・祝日11:00〜19:00(L.O.18:40)※平日は16:00〜17:00が中休み、土日祝は通し営業
- 定休日:1月1日〜3日
- 同じ蕎麦の老舗記事:総本家更科堀井/エリア:東京都
営業情報・価格はagataJapan.tokyoの老舗ページの記載にもとづくもので、2026年9月26日に確認しました。掲載時点の情報のため変更されている場合があります。お出かけの際は店舗にご確認ください。
老舗フェスティバル2026で会える
スターマーク株式会社(老舗フェスティバル実行委員会)が主催する「老舗フェスティバル2026 by agataJapan」は、2026年10月3日(土)に東京・日本橋で開催されます。全国の老舗の逸品が並ぶ「老舗・ご当地マルシェ」、当主が登壇する「老舗サミット」、全国の酒蔵による日本酒の飲み比べコーナーなど、老舗の技と味にまとめて触れられる一日です。
- 日時:2026年10月3日(土)10:00〜18:00(予定)
- 会場:福徳の森・仲通り周辺(東京都中央区日本橋室町2-5-10)
- 入場:無料(飲食・セミナーなどは別途費用)
- 詳細:老舗フェスティバル2026 by agataJapan
- チケット・特設ページ:老舗フェスティバル2026 特設ページ(老舗通販.net)
YouTubeチャンネル「日本の老舗」について
この動画は、100年以上続く日本の老舗の当主に「老舗を老舗たらしめる五つの奥義」を語ってもらうYouTubeチャンネル「日本の老舗」のシリーズです。ほかの老舗の回は、動画で見る日本の老舗からまとめてご覧いただけます。
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