東京・銀座6丁目の並木通りに、小さな間口の和菓子屋があります。空也(くうや)は明治17年(1884年)に上野池之端で創業し、戦後の昭和24年(1949年)に銀座へ移ってきた老舗。名物の空也もなかは皮をあえて焦がして焼く独特のつくりで、店頭でしか買えず、しかもほとんどが予約で出ていきます。夏目漱石の『吾輩は猫である』に名が出る菓子を受け継ぐ五代目・山口彦之さんが、焦がし皮の由来と、売り方を広げない理由を語ります。
有限会社空也 山口彦之氏(CICライブ/YouTubeチャンネル「日本の老舗」)/再生時間:45分12秒/公開:2021年8月25日
動画の見どころ
この回は章立て(チャプター)が設定されていないため、話題の並びを目次の形に整理しました。
- 上野池之端での創業と、銀座へ移った戦後の事情
- 初代が皮を焦がすことを思いついた経緯
- つぶし餡に使う小豆の選び方と、味の設計
- 店頭限定・予約中心という売り方を変えない理由
- 新ブランド「空いろ」に込めた、次の世代への渡し方
- 五代目として、守るものと動かすもの
空也の創業は何年か
空也の創業は明治17年(1884年)です。はじまりの地は銀座ではなく、上野池之端でした。屋号の「空也」は、念仏を広めた平安時代の僧・空也上人にちなむと伝えられます。初代は「関東空也衆」と呼ばれる集まりの一員で、仲間の援助を受けて菓子屋を始めたとされています(空也の公式ブランドサイト「空也について」・2026年10月7日確認)。
創業の店は戦禍で焼失し、昭和24年(1949年)に銀座6丁目の並木通りへ移転しました。以来この場所で菓子を焼き続けて、2026年で創業142年、銀座に移ってから77年になります。
当代は五代目・山口彦之さん。三代目は山口彦一郎さんで、初代の番頭だった人物が二代目を継いだのち、山口家が代々受け継いできたと伝えられます(東京新聞デジタル「銀座で行列をつくる珠玉の和菓子」2023年6月13日・2026年10月7日確認)。
なぜ皮を焦がすのか
空也もなかのいちばんの特徴は、皮を軽く焦がしてあることです。白い皮が当たり前だった最中のなかで、これは目で見てすぐ分かる違いです。
由来は初代にさかのぼります。初代が九代目市川團十郎のもとを訪ねたとき、火鉢で軽くあぶった最中を出され、その香ばしさに感銘を受けた——それ以来、焦がした皮で作るようになったと伝えられています(東京新聞デジタル・2026年10月7日確認)。偶然の一口を、店の看板に据えてしまったわけです。
餡はつぶし餡。北海道十勝産の減農薬栽培の小豆を使い、皮の香ばしさと小豆の粒を同時に立てる設計になっています。食べると皮がパリリと割れ、やがて餡と溶け合う——この食感を保てる期間が短いため、賞味期限は約1週間とされています。
最中とは、どんな菓子なのか
最中(もなか)は、もち米を蒸して餅にし、薄く延ばして型で焼いた「最中種(もなかだね)」に餡を挟んだ菓子です。名の由来は、満月を指す「最中の月」という古い言い方にあるとされ、白く丸い餅菓子を満月に見立てた呼び名が、そのまま菓子の名になったと伝えられます。
最中には構造上の弱点があります。餡の水分が皮に移ると、あの歯ざわりが失われてしまうことです。だから最中は本来、買ってすぐ食べる菓子でした。焼いた皮と餡を別にして客が自分で挟む「手作り最中」が各地にあるのも、同じ事情からです。空也が皮の水分を抑え、賞味期限を短く切り、店頭でしか売らないのは、この弱点に正面から付き合った結果だと読めます。
なお、同じ名で呼ばれる「空也餅」は最中とは別の菓子で、秋から冬の限られた時期にだけ作られます。夏目漱石の『吾輩は猫である』に登場するのはこの空也餅で、林芙美子ら文人にも愛されてきました(東京新聞デジタル・2026年10月7日確認)。
何が名物か——そして、なぜ予約が必要なのか
名物は空也もなかです。銀座6丁目の店で作り、店頭でのみ販売しています。発送・配達はなく、支払いは現金のみ。購入には予約が必要で、1か月前から前日まで、電話または店頭で受け付けています(空也公式ブランドサイト・2026年10月7日確認)。
菓子の数を増やし、売り方を広げる道はいくらでもあったはずです。それを選ばず、作れる量と、おいしく食べられる期間に合わせて売り方を決める——老舗の「変えない」判断としては、かなり徹底した形といえます。空也もなかは中央区推奨土産品にも選ばれています(中央区観光協会・2026年10月7日確認)。
一方で、五代目は新ブランド「空いろ」を立ち上げています。空也の餡へのこだわりを受け継ぎながら、現代的に色づけした別の店として展開するもので、守る場所と動かす場所を分ける形になっています。
店を訪ねる
- 住所:東京都中央区銀座6-7-19
- 電話:03-3571-3304
- 営業時間:平日10:00〜17:00/土曜10:00〜16:00
- 定休日:日曜・祝日、お盆、年始
- 購入:店頭のみ。予約は1か月前から前日まで(電話・店頭)。発送・配達・カード決済は不可
- 公式ブランドサイト:ぎんざ空也 空いろ「空也について」
※営業情報は空也の公式ブランドサイトおよび中央区観光協会の掲載によります(2026年10月7日確認)。空也は自社の独立した公式サイトを持たず、電話での予約が基本です。来店前に店舗へご確認ください。
なお、空也は老舗通販.netには出店していません(2026年10月7日確認)。皮の歯ざわりが命の菓子なので、店頭で受け取って早めにいただくのがいちばんです。
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この動画は、YouTubeチャンネル「日本の老舗」で公開している当主インタビュー番組「伝統はイノベーションの連続である」(CICライブシリーズ)の一本です。3代100年続いてきた秘訣を、当主ご本人の言葉で聞く番組です。ほかの回は連載「動画で見る日本の老舗」からご覧ください。
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