京料理に欠かせない京麸(きょうふ)と京ゆば。その代表的な作り手が、京都・五条大橋のたもとに本店を構える半兵衛麸(はんべえふ)です。創業は元禄2年(1689年)。御所の料理人を務めていた玉置半兵衛が、宮中で覚えた製麸の技術を生かして京の町で麸屋を開いたのが始まりでした。家訓は「先義後利」と「不易流行」。戦争中には「闇市の小麦を使っては麸に失礼」と商いを休み、戦後に再び店を開いています。十一代目当主が、330年余り続く麸屋の仕事と商いの精神を語ります。
半兵衛麸 十一代目当主 玉置半兵衛(現会長 玉置辰次)氏(CICライブ/CROSSING京都新聞スタジオ)/再生時間:30分20秒/公開:2021年12月16日
動画の見どころ
この回は章立て(チャプター)が設定されていないため、話題の並びを目次の形に整理しました。
- 宮中の料理人が麸屋として独立した創業のいきさつ
- 三代目が学んだ石門心学と、家訓「先義後利」のなりたち
- 小麦が統制品になった戦争中、商いを休んだという選択
- 料亭の食材だった生麸を、家庭の食卓へ広げるまで
- 「老舗」と書かず「しにせ」と呼ぶ理由
- 京町家と洋館を生かした茶房づくり、次の代へ渡すもの
半兵衛麸の創業は何年か
創業は元禄2年(1689年)です。公式の沿革によれば、玉置山より御所の大膳方として上京し宮中の料理人を務めていた玉置半兵衛が、宮中で覚えた製麸の技術を生かして京の町で麸屋を創業し、屋号を「萬屋(よろずや)」としました(半兵衛麸 公式サイト「沿革」「会社概要」・2026年10月9日確認)。2009年(平成21年)に創業320周年の謝恩会を開いており、創業年の数え方もこれと整合しています。
現在の社名は株式会社 半兵衛麸。法人設立は昭和60年(1985年)8月、従業員数は100名です。本店のほかに事業本部・京都工場(京都市東山区)、中央市場営業所、美山総合工場(京都府南丹市美山町)を持ち、料亭・旅館・ホテルや百貨店、食品スーパーに卸しながら、同じ商品を家庭用にも販売しています。
動画のタイトルと概要欄では、出演者は十一代目当主・玉置半兵衛(現会長 玉置辰次)氏と記されています。「半兵衛」は代々受け継がれてきた名で、動画公開時(2021年12月)の肩書きは会長でした。公式の沿革では平成26年に玉置辰次氏が代表取締役会長に就任し、令和3年(2021年)から代表取締役社長は玉置剛氏です(公式サイト「会社概要」「沿革」・2026年10月9日確認)。十一代目という代数は動画の表記によるものです。
「老舗」と書かない老舗
半兵衛麸は、自社について「老舗」という漢字を使わないと明言しています。「老いた舗」になってはならない、常に「新しい舗(しんみせ)」の気持ちで新しいことに挑戦しなければならない、という訓えがあるためです。「新」のほかに「信」「心」「進」「親」「慎」——いろいろな意味を込めて「しにせ」になりたい、と公式サイトは記しています(2026年10月9日確認)。本記事では媒体の表記として「老舗」を用いますが、店の側のこの姿勢は、以下に述べる家訓とまっすぐつながっています。
家訓「先義後利」と「不易流行」
江戸時代後期、三代目・三十郎は石田梅岩(1685〜1744)が説いた石門心学を学び、「宗心」の名を与えられて自らも講を開きました。ここで確立されたのが家訓「先義後利」です(公式サイト「沿革」「商いの精神」・2026年10月9日確認)。
石田梅岩は、武士と庶民に本質的な違いはなく、士農工商は人間の価値の差ではなく職分の違いであると説いた思想家です。商業の本質を交換の仲介と位置づけて商人の職分を正面から認め、同時に過度な利益追求を戒めました。その学問は門弟によって「心学」として広まりました。
半兵衛麸はこれを「義を先にして利を後とする」——義とは正しい道であり、商いの正しい道とは、お客様のお役に立つことを考え、喜んでいただき、そのお礼としてお代を頂戴することだ——と説明しています。もう一つの家訓「不易流行」は、変わらないもの(宮中の技を祖とする製法と商いの精神)と移り変わるもの(技術やサービス)を分けて考える姿勢です。
小麦が統制品になった日——戦中の休業と再開
半兵衛麸の歴史でもっとも象徴的な出来事が、昭和16年(1941年)の休業です。戦争に伴う食糧管理法で小麦が統制品となったとき、「闇市の小麦を使用しては麸に失礼」として商いを一時休んだと公式の沿革は記しています。再開は食糧管理法が撤廃された翌年、昭和28年(1953年)。「玉置麸舗」として事業を再開しました(2026年10月9日確認)。原料を選ぶことが商品の品位そのものだという判断で、12年の休業を選んだことになります。
明治期には大阪・名古屋に支店を持ち、納品先の寺院からの依頼でゆばの製造も始めました。明治36年には新しい製法の焼麸(花麸)で博覧会の三等賞、翌明治37年には麸各種で有功銀牌を受けています(公式沿革。なお公式沿革にある博覧会の名称は、一般に知られる内国勧業博覧会の開催回次と一致しないため、ここでは受賞の事実のみを記します)。昭和60年(1985年)には登録商標「京麸」を取得。平成25年には関連4社を株式会社 半兵衛麸に統合しています。
京麸と京ゆばとは何か
麸は、小麦粉を水で練って洗い、でんぷんを流して残る小麦たんぱく(グルテン)を加工した食品です。農林水産省「うちの郷土料理」によれば、麸は室町時代に中国へ渡った修行僧によって日本へ伝えられ、京都では鎌倉時代後期に禅僧が伝えたとされます。肉食を禁じられた禅僧にとって、豆腐やゆばと並ぶ貴重なたんぱく源であり、当初は宮中と寺院という限られた場でのみ食べられていました(2026年10月9日確認)。
江戸時代に入ると懐石料理・茶会・法要の料理として町衆にも広まり、明治以降は輸入のきめ細かい精白小麦粉が使えるようになって、なめらかな食感と細工が可能になります。てまり麸や季節の花麸のような意匠は、この時期の技術の上に成り立っています。すき焼きに焼き麸を入れるのも、明治の牛鍋以降の定番です。
同じ資料は、中国から伝わった原型が小麦たんぱくを揚げたものだったのに対し、生麸(なま麸)は日本で独自に発展したものだと説明しています。京都が麸の産地になったのは、製造に大量に必要な地下水に恵まれていたからです。京都のやき麸は宮中や寺院で育まれたことから肌が白いのが特徴で、仙台の油麸、新潟の庄内麸など各地の麸とは性格が異なります。京麸・京ゆばは、ユネスコ無形文化遺産の和食と、国の無形文化財である京料理に欠かせない食材と位置づけられています。
名物・商品
公式サイトの商品分類は、なま麸・やき麸・ゆば・精進生麸・甘味・田楽みその6系統です(2026年10月9日確認)。
- なま麸:あわ麸、よもぎ麸、ごま麸、さがら麸、季節の花麸、てまり麸など。もっちりとやわらかく、弾力のある食感
- やき麸:おつゆ麸、すきやき麸、京やき麸、もち麸、棒麸、白玉麸など。白くきめ細かく、料理の味を包み込む
- ゆば:汲みあげゆば、生平ゆば、生小巻ゆば、結びゆば、大原木ゆばなど
- 精進生麸「禅」:かつおだしを使わず煮上げたお麸のしぐれ煮。生姜・ごま・山椒
- 甘味:笹巻麸(こしあん・抹茶あん)、季節の麸まんじゅう、玉(たま)、ふィナンシェ
- 田楽みそ:なま麸田楽のための白・赤
買う・訪ねる
半兵衛麸 本店は京都市東山区問屋町通五条下る上人町433、五条大橋の東南角にあります。営業時間10:00〜17:00、定休日は水曜日、TEL 075-525-0008(公式サイト「お店について」「会社概要」・2026年10月9日確認)。本店は京都市の「京都を彩る建物や庭園」に認定されており(認定番号 第8-019号)、敷地内には歴史あるお弁当箱を集めた「お辨當箱博物館」が常設展示されています。
- 茶房「半兵衛」:麸とゆばの料理「むし養い」(京言葉で、お腹の虫を養う軽い食事のこと)一人4,400円(税込)。11:00〜16:00(入店は14:30まで)、水曜定休、要予約。築120年の京町家の玄関から続く昭和25年の洋館を生かし、2022年にリニューアルオープン。公式サイトは、京都タワーの設計で知られる棚橋諒(1907〜1974)が建築に携わった洋館だと記しています。ヴィーガン対応も可
- Cafeふふふあん by半兵衛麸:半兵衛麸五条ビル3F。10:00〜17:00(L.O.16:30)、水曜定休。鴨川と五条通を見下ろす席で、麸・ゆば・豆乳を使った食事とスイーツ
- 直営店:京都髙島屋B1F(10:30〜20:00)/ジェイアール京都伊勢丹B1F(10:00〜20:00)
- オンラインショップ:半兵衛麸 オンラインショップ(公式)
- 公式サイト:半兵衛麸
半兵衛麸は2026年10月9日時点で老舗通販.netには出店していません。お取り寄せは上記の公式オンラインショップから、また全国の百貨店・小売店での催事販売もあります。営業時間や予約状況は変わることがありますので、お出かけの前に公式サイトの「新着情報」をご確認ください。
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