日本酒の仕込み水は、硬いほうが発酵が進みやすい。だから軟水の土地は長く酒造りに向かないとされてきました。千古乃岩酒造(ちごのいわしゅぞう)が使うのは、地下45mから汲み上げる三国山系の伏流水で、硬度7。市販のミネラルウォーターと比べても際立って軟らかい水です。岐阜県土岐市——どんぶりの生産量日本一の駄知町にある蔵で、四代目・中島大蔵さんが、この水で酒を醸すという選択を語ります。
千古乃岩酒造 4代目 代表取締役 中島大蔵氏(CICライブ/YouTubeチャンネル「日本の老舗」)/再生時間:46分2秒/公開:2021年4月13日
動画の見どころ
この回は章立て(チャプター)が設定されていないため、話題の並びを目次の形に整理しました。
- 「尾張屋商店」としての創業と、社名が「千古乃岩」になった由来
- 硬度7という超軟水で醸すとはどういうことか
- 東京農業大学の醸造学科で酵母を研究してから蔵に戻るまで
- 越後杜氏に師事して覚えたこと
- 蔵独自の麹づくり「超醇麹」
- 美濃焼の町で酒を売るということ——地元の高校生との商品づくり
- 従業員6名の蔵が、海外へ出ていった理由
千古乃岩酒造の創業は何年か
創業は明治42年(1909年)です。当初の屋号は「尾張屋商店」でした。そして昭和29年(1954年)、商法改正により「千古乃岩酒造株式会社」へ改称しています(千古乃岩酒造 公式サイト「会社概要・アクセス」・2026年10月8日確認)。
法人の登記上の設立日については、JETROの企業情報が「1953年10月1日」としています。公式は「設立」の語を使わず「昭和29年に改称」と記しているため、1953年10月に法人を設立し、翌1954年に商号を変えた——という順序と読めますが、断定はできません。本記事は両方を併記しておきます。
なお、岐阜県の産品紹介資料には本文に「1902年創業」と書かれたものがありますが、同じ資料のラベル表記は1909年で自己矛盾しています。公式サイトのほか岐阜県観光公式サイトなど複数の媒体が明治42年(1909年)としているため、本記事は1909年を採りました(2026年10月8日確認)。
社名の由来は、町内にある巨石「稚児岩(ちごいわ)」です。千年の時を思って「千古乃岩」と名づけたと紹介されています。
当代は四代目・中島大蔵さん。2011年に四代目に就任し、JETROの企業情報にも代表取締役として記載されています。会社の規模は従業員6名、資本金1,000万円(2026年10月8日確認)。
四代目は、酵母の研究者から蔵に戻った
中島さんの経歴は、酒蔵の当主としては少し変わっています。
東京農業大学の醸造学科で、清酒酵母研究の第一人者とされる竹田正久教授に師事。卒業後はすぐ家に戻らず副手として研究室に残り、日本醸造学会で酵母に関する発表も行っています。そのうえで蔵に入り、今度は越後杜氏の山本登氏に師事しました(2026年10月8日確認)。
大学で微生物として酵母を学び、蔵では杜氏の手仕事として酒を学ぶ。公式サイトが千古乃岩を「越後杜氏伝承の技によって、品質一筋に丹精込めて醸造する岐阜の地酒」と表現しているのは、この二本立ての背景を踏まえると読み方が変わってきます。なお公式サイトは杜氏の氏名を明記しておらず、中島さんが杜氏を兼ねているかどうかは確認できませんでした。
硬度7の超軟水で醸すということ
日本酒は約80%が水です。硬度はカルシウムとマグネシウムの量を示し、WHOの基準では0〜60mg/L未満が軟水、60〜120が中軟水、120〜180が硬水、180以上が高度な硬水とされます。ミネラルが多いと発酵が促進されて力強い味わいに、少ないと発酵がゆるやかになってやわらかい味わいになります(旭酒造の解説記事・2026年10月8日確認)。
千古乃岩酒造の仕込み水は、地下45mから汲み上げる三国山系の伏流水で硬度7。公式サイトは比較としていろはす(硬度37.3)、南アルプスの天然水(30)、ボルヴィック(60)を挙げています。軟水のなかでも極端に軟らかいことが分かります(公式サイト、岐阜県観光公式サイト・2026年10月8日確認)。
この「軟水で酒を造る」という課題には歴史があります。灘の仕込み水「宮水」は六甲山系由来の硬水で、鉄分が少なくミネラルが豊富なため発酵が活発になり、輪郭のはっきりした辛口になる——いわゆる「男酒」です。伏見の「御香水」は宮水より軟らかい中硬水で、発酵がゆっくり進んでなめらかな味わいになる「女酒」。軟水は長く酒造りに向かないとされてきましたが、明治時代に広島の酒造家・三浦仙三郎が「軟水醸造法」を確立し、広島は灘・伏見と並ぶ酒どころに成長しました(旭酒造の解説記事・2026年10月8日確認)。
千古乃岩酒造は、この系譜の先にいる蔵です。岐阜県観光公式サイトは、蔵独自の麹づくり「超醇麹」にも触れています。水が軟らかいぶん、麹と発酵の設計で酒質をつくるという考え方です。sakeworldは同蔵の酒を「棚田風景のような穏やかな酒質」と評しています。
どんぶり日本一の町で、酒を売る
蔵がある土岐市は焼き物の生産量が日本一のまちです。美濃焼は国内陶磁器産地の生産シェア43%を占め、そのうち72%が土岐市でつくられます(平成25年「工業統計調査」。第2位の佐賀県は15%)。5世紀ごろに須恵器の製法が伝わり、安土桃山時代には志野・織部といった茶陶生産の中心になりました(商工会議所系媒体・2026年10月8日確認)。
そのなかでも蔵のある駄知町(だちちょう)は「どんぶり生産日本一の町」。約30の窯元・工房があり、「駄知どんぶりまつり」では蔵出し市が開かれます(土岐市観光協会・2026年10月8日確認)。
千古乃岩酒造は、この土地柄をそのまま商品にしています。美濃焼とのセット「hanasaka」は3,240円(100mL×2本の小瓶とカップ&ソーサー)、「プレミアム hanasaka」は5,400円(公式サイト・2026年10月8日確認)。さらに蔵の仕込み水でつくった「土岐商サイダー」は、ラベルを土岐商業高校の生徒がデザインしています(岐阜県観光公式サイト・2026年10月8日確認)。原料米では恵那市の坂折棚田の米を使った酒も紹介されています。
小さな蔵ですが外にも出ています。2016年にはバンコクのTHAIFEXと香港のFood Expoに出展し、アジアへの輸出の取り組みが地元紙で報じられました。JETROの企業情報も、主な輸出品目を日本酒などのアルコール類としています。
名物と価格
代表銘柄は「千古乃岩」。老舗通販.netでの価格は、純米大吟醸原酒 720ml 7,150円、大吟醸 720ml 3,300円、純米吟醸 720ml 2,200円、辛口純米酒 720ml 1,760円、冬季限定のしぼりたて純米 無濾過生原酒 1,980円(2026年10月8日確認/価格は変動することがあります)。2024年11月からは新酒(しぼりたて生酒、にごり酒)の販売も始めています。
岐阜県の産品資料によれば、純米吟醸 千古乃岩は精米歩合50%、米品種は岐阜の酒米ひだほまれ、アルコール度15.8%、酸度1.5、日本酒度+6。香りはグレープフルーツやバナナ、グリーンハーブ、炊いた米。味わいはドライでクリア、軽やかな口当たりで後味に苦味があり、常温〜やや低め(10〜18℃)または30℃前後の日向燗がすすめられています。酒器はワイングラスかぐい呑み(2026年10月8日確認)。
蔵を訪ねる
- 会社名:千古乃岩酒造株式会社
- 住所:〒509-5401 岐阜県土岐市駄知町2177-1
- 電話:0572-59-8014(FAX 0572-59-8144)
- 営業時間:通常は9:00〜19:00(年末年始・お盆・GWは短縮営業)
- 蔵見学:予約制。試飲あり。駐車場あり。蔵開放イベントは現在休止中
- 公式サイト:千古乃岩酒造
- 老舗通販.net:千古乃岩の品を見る
- agataJapanの老舗ページ:千古乃岩酒造
※営業時間は公式サイトのお知らせ(年末年始・お盆の営業案内に記された「上記以外:9時〜19時」)と岐阜県観光公式サイトの記載が一致するため、9:00〜19:00としました。定休日は公式サイトに記載がなく確認できませんでした。また土岐市観光協会は9:00〜18:00、ほかの媒体は9:00〜17:00・不定休としており、記載に幅があります。蔵見学・ご来訪の前に必ず蔵へご確認ください(2026年10月8日確認)。
老舗通販.netにも出店しています。純米大吟醸原酒から冬季限定の生原酒まで取り寄せられます。蔵の概要はagataJapanの老舗ページにもまとめました。
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この動画は、YouTubeチャンネル「日本の老舗」で公開している当主インタビュー番組「伝統はイノベーションの連続である」(CICライブシリーズ)の一本です。3代100年続いてきた秘訣を、当主ご本人の言葉で聞く番組です。ほかの回は連載「動画で見る日本の老舗」からご覧ください。
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